フィルム_フェスタ

『さよなら僕の性格』第6話 Y先輩(2)

Y先輩と一緒に帰れるという、最高のシチュエーション。ああ、できれば、この様子を、クラスのみんなに見せびらかしたい。

僕のことを、まるでいないもののようにいつも無視するクラスの連中に、かわいくて明るくて素敵な女の子と並んで帰っている僕を見せたい。そうすれば、僕を見直すに違いない。

そして、「いままで、友達がいなくて、寂しくて、暗くて、つまらない、無価値な人だと思っていてごめんなさい、誤解してました」と素直に謝ればいいのだ。

いや、逆に考えれば、周りからあらぬ誤解を受けるかもしれないのに、僕なんかを誘ってくれたY先輩がすごいのだ。クラスで誰からも相手にされていない僕の横に、こんなに楽しそうにいてくれるなんて……。

「何歳?」

誕生日トークの流れで、Y先輩が聞いてきた。

「16です」

「いいなあ、若くて」

3年生のY先輩だって、18歳。自分こそ若いじゃないか。

Y先輩の声は楽器でいうとオーボエみたいで、やや芯が通った感じと、女の子らしい柔らかさが同時にあって、その声で、おっとりした口調でゆっくりしゃべる。基本明るくて元気のいい人なので、「眠そうな」というと違和感があるが、しゃべり方にはそんな印象がある。

「T君は、7月7日生まれで、S君は8月7日生まれで、M君は11月7日生まれなんだよ。すごいよね」

「へえ、7日生まれが多いんですね……」

他の先輩たちの誕生日の共通点について教えてくれたが、Y先輩と僕の誕生日が同じということに比べれば大したことはない。

田畑とまばらな建物で、群馬の空はやたら広く見える。

話が出来るゆったりとしたペースで走る二台の自転車。

この時間。たしかに、彼女は、僕だけと話をしてくれている。

それだけでもう十分だ。

出身中学校の話などをした。

楽しい。

(この時間が、いつまでも続けばいい)

心からそう思った。

やがて、僕がいつも左に曲がる交差点まで来たが、Y先輩がまっすぐ進む様子だったので、僕も通り過ぎた。

Y先輩も、何か察したのか「こっちでいいの?」と聞いてきたが。

「はい、こっちです」とごまかした。

Y先輩との時間を……。

遠回りになることなんて、どうでもいい……。

もう少しだけ……。どうかもう少しだけ、この時間を……。

本当に不自然になるギリギリまで来たところで、

「じゃあ、僕はこっちなんで」

「うん、じゃあね」

と別れた。本当なら、先輩の家まで行って「奇遇ですね、僕もこの家なんです」と言いたいくらいだった。

それから、僕はいつもあまり通らない「公園ルート」をにやけ顔で走行しながら、家にたどり着いた。

鍵で玄関の戸を開ける。

鞄を放り投げると、僕は、そのまま玄関を入ってすぐ右にある両親の寝室の布団にダイブして、しばらく、じたばたじたばたした。枕に顔をうずめたり、体をうねらせたり、奇声をあげたりした。

(Y先輩と話した! Y先輩と一緒に帰った!)

その日、その舞い上がった気分は、夜中までずっと続いた。 

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