フィルム_フェスタ

『さよなら僕の性格』第17話 2年生になる

僕の高校1年目が終わろうとしていた。

卒業式の最中、僕はY先輩の姿を探していた。

卒業生の中にいるはずだった。しかし、先輩は小さい。しばらく会わないうちに身長が2メートルくらいまで伸びてくれていれば、すぐわかるところだったが(いや、逆にわからないか……)、群衆の中に混ざった、とりわけ小さなをY先輩を見つけることは出来なかった。

だから、最後にもうひと目だけでも見ておきたかったY先輩の姿を僕は見ていない。結局、Y先輩とは、思い出に残るようなお別れは出来なかった。

卒業式のあと、必死で探し出してお別れを言うなんて、ドラマチックな展開に持ち込むような勇気は、その時の僕にはなかった。

むしろ、仮に、向こうから見つけてもらって、声をかけてもらったとしても、特別な感情を抱いていることに気づかれないように、必死で感情を押し殺してお別れをしただろう。

なんて、不器用で損な生き方しか出来ないのだろう。僕は一生こんな感じなのだろうか?


――やがて、春休みも過ぎ、大きな変化もないまま、僕は2年生になった。

大きな変化もないまま……。そう。学業成績が向上する兆しもないままである。

2年生になり、クラスのメンツも変わった。K君やK君とも別のクラスになった。

不運なことに、新しいクラスには、僕と同じ「中井」という苗字の男があと2人いた。

そのうちの一人は、バスケ部の部員で、僕よりも学業において成績がよかった。クラスにはバスケ部員が多く、彼らによって構成されたクラスで最も目立つグループは、いつも大声で笑い声をあげながら、楽しそうにふざけあっていた。

僕より、勉強ができるのに、楽しそうで、もちろんバスケ部だから、体力もあり、運動も出来る。

そいつが、僕と同じ苗字。一番比べられたくない人物が、一番比べられやすいところにいる。

もう一人は、美術部員だった。皮肉にも、僕が才能を買われ、先生に誘われた美術部の部員。彼は最初の学級会で、学級委員長に就任した。

僕は、相変わらず、友達が一人もいないので、ずっと、自分の席に座り、何も喋らず一日の終わりを待つ生活だった。

ただでさえ惨めな立場の僕が、同じ苗字の奴と比べられやすいところに配置されている。

まるで引き立て役じゃないか。

守ろうとした最後の自尊心も、完膚なきまでに、粉々に打ち砕かれた思いだった。

惨めさを噛みしめるばかりの一年が始まろうとしていた……。 

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