フィルム_フェスタ

『さよなら僕の性格』第1話 高校入学

高校へは推薦で入った。

群馬では、一応進学校と呼ばれている高校だった。

僕は、東京領埼玉自治区の北に位置する群馬皇国で生まれ育った。四方を山に囲まれた、自然豊かな国である。 

学校は、家からわりと近くて、早馬をとばせば5分くらいで着くところにあった。面倒くさがりから手と足と翼とツノが生えたような僕にとってはちょうどいい距離だった。

その道を僕は、毎日自転車で通った。自転車だと15分くらいかかる道のり。川や電車の高架を避けるように作られた坂がいくつもあり、アップダウンの激しい道だった。

群馬は風が強くて、風と上り坂に同時に仕掛けられると、ペダルをこいでもなかなか前に進めない。ちなみに、群馬は雷も有名で、夕立雨に突然打たれてずぶ濡れになることもよくあるし、雷に打たれることもよくある。結構痛い。


「知らぬが仏」とはよく言ったもので、僕も入学前は希望に満ちていた。

それまで読んできた書物やアニメーションによる映像資料によって、高校という所は、不思議な能力に目覚めるとか、地球の危機を救うための戦いに巻き込まれるとか、何かしらすごいことが待っている、そういう場所であると学んできた。

どんなことが待っているのか、わくわくしていた。どんな出会いがあるんだろう、どんな能力に目覚めるんだろうなんて、期待していた。


そんな入学初日。幸福な高校生活に向けて、ラッキーな追い風。

中学時代の部活で一緒だったK君とK君が同じクラスだったのだ。イニシャル的には両方K君だ。

入学式が終わり、教室に入ると、「3人とも同じクラスなんて、すごい偶然だなあ」などと、3人で話した。

いままでそれなりに仲良くやってきた二人だ。それがはじめからクラスにいる。しめしめである。「友達の友達は友達作戦」でどんどん友達を増やせるじゃないか。心配だった友達作りも、これで大丈夫なはず。

教室で、K君が新しいクラスメイトのでかい人と話していたので、さっそく僕も仲間に入れてもらおうかと近づいてみた。

そのとたん、急激に息が苦しくなった。緊張で心拍数が200くらいまで上昇した。

なにしろ、見たことのないでかい人なのだ。いったい、見たことのないでかい人に何を言えばいいというのか。見たことのないでかい人に何を言えばいいかなんて、いままで考えたこともない。

僕は笑顔を作りながら、立っているだけでやっとだった。安易に近づいたことを後悔した。何も言えなかった。

これ以上ここにいるのは危険だと判断し、見たことのないでかい人のテリトリーから離れて避難することにした。

ああ。これで、あの見たことのないでかい人に「なんだあいつ。何しにきたんだ」と思われたに違いない。もうだめだ。なんて恥ずかしいんだろう。

自分の席に戻ってからも、恥ずかしさと、緊張でドキドキしっぱなしで、しばらく安静が必要だと自分でわかった。

その日はそれから、誰か話しかけに来ないものかと、ずっとアンテナを向けていたが、真っ青な顔で座っている僕に近づいてくる人物は誰もいなかった。

初日からつまづいた。 

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