フィルム_フェスタ

『さよなら僕の性格』第12話 昼休み

夏休みを挟んでも、校舎は溶けずに残っていて、僕の「友達いない生活」は続いた。

まず、登校したら、自分の席に座り、何もしゃべらないまま授業を受ける。

ここまではまだいいとして、鬼門は昼休みである。

「先生、昼休みなんかいいから授業をしましょう」と言いたくなるほど、友達がいない者にとっての昼休みは心が休まらない。

机の木目をずっと見ながら、時間が過ぎるのを待っていた。


「あのさあ、友達いないなら、教室で一人でぼんやり机の木目を見ていないで、図書室で本を読めばいいじゃない?」そう誰もが思うところだろう。

実際、学校には図書室があった。

一般的に、昼休みの過ごし方として、図書室で過ごすという選択肢がある。本でも読んで、時間をつぶす。ごく自然な行動に思える。

だが、僕は自分の席を動かなかった。本よりも木目の方が面白いと言わんばかりに、かたくなに木目を見ていた。図書室に行くことすらできなかったのである。

まず、図書室には誰がいるかわからない。図書室に行くまでの間にも、どんな危険があるかわからない。担任や部活の顧問の先生とか、先輩に会えば、挨拶しなければならない。強い緊張を強いられるだろう。きっと上手く挨拶なんて出来ない。

それに昼休みの図書室なんて、人がたくさんいて、座る場所がない。あっても、誰か知らない人の隣とかになってしまう。知らない人ならまだしも、知ってる人だとなおさら気まずい。同じ中学出身の同級生とか、中途半端に知っている分、向こうがこっちをどう思っているのか気になって仕方ない。

そうなると読書どころではない。きっと内容なんて頭に入ってこないだろう。結局、座ることも諦めて、昼休み中、ずっと書架の間をうろつきながら、立ちっぱなしで過ごすことになるだろう。

それなら教室の方がまだましだ。それが図書室を利用しない一番の理由だった。

それと、もう一つ、図書室に行くと周りから「あ~、やっぱり」と思われる可能性がある。

「あいつ、いかにも図書室とかで、一人で過ごしてそうなタイプだよね」
「一人で教室にいるのが恥ずかしいから、図書室に逃げたいって思ってるんだろ?」

そんな風に思われているような気がして、そして、それをその通りにすることが、負けのような、すごく屈辱的なことのような気がしていた。

「あ、図書室行ったぜ」
「やっぱりね」

それをどうしても避けたかった。「やっぱり」とだけは思われたくなかった。

図書室ではなく、教室で本を読めばいいと思うだろうが、それもできなかった。

「あいつ、タイプ的に、どうせ一人で本とか読んでるような暗いやつなんだろ」

と思われているだろうから、その通りにしたら「やっぱり」と思われてしまう。

本を読まなくても、一人で机を眺めているような暗いやつだと思われるのだから、大差はない。それでも「やっぱり」と思われるよりましだった。

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