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歌集評・一首評・その他書評

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歌集評や同人誌などの一首評、小説の書評です。
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#松村正直

【一首評】短歌同人誌「パンの耳」6号(後半)

短歌同人誌「パンの耳」6号、一首評の後半です。 されど人は砲声にも慣れ剝き出しの瓦礫の道を買物に行く                松村正直「烏鷺の争い」 ロシアのウクライナ侵攻について真正面から詠んだ一連。 このことについて書かれた短歌はすでに多いと思うが、それでも詠まねば、という強い意思が感じられる。 この状況でもその町で暮らし、爆撃で瓦礫が山となった道を歩いて買い物に行く人々。 いつ爆弾が飛んでくるかもしれないのに、どうして、と思ってしまうのは、遠く離れた私の勝手な

【一首評】短歌同人誌「パンの耳」6号(前半)

「パンの耳」は松村正直さんを中心とするフレンテ歌会の皆さんが 年に1回発行している同人誌。 発行後には「パンの耳を読む会」という場を設け、 連作を作った後、それをしっかり読み直したり批評し合ったりという場も大切にされている。 今回は「パンの耳」6号から各同人の皆さんの連作一首評の前半部分を。 話すほど遠ざかる午後テーブルにアップルティーは明るく澄んで                弓立悦「三日月の匂い」 下句の伸びやかな明るさに惹かれる一首。 アップルティーという言葉の響

【書評】『駅へ 新装版』松村正直歌集

2001年にながらみ書房から刊行された著者の第一歌集の新装版。 フリーターですと答えてしばらくの間相手の反応を見る 日が落ちてブランコだけが揺れている追いかければまだ追いつくけれど 定職のない人に部屋は貸せないと言われて鮮やかすぎる新緑 歌集冒頭の連作「フリーター的」から。 作者は長らくの間、定職を持たずに様々な町で暮らしていた。 それは自分が選び取った生き方ではあるのだが、 どこか、社会的な規範からは外れているという思いがあったのだろう。 「フリーター」という言葉が