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歌集評・一首評・その他書評

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歌集評や同人誌などの一首評、小説の書評です。
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2024年5月の記事一覧

【書評】『クジラを連れて』大引幾子歌集(公開記事)

「ひかりの洪水」の向こうで 海蛇座碧空の裏に飼いいたり時に銀灰の鱗光らせ 便箋の静脈透けて舞い落ちる間も底知れぬ夜への投函 大引幾子さんの第一歌集『クジラを連れて』。 穏やかなブルーの表紙を開くと、まず目に留まるのは童話の世界も思わせる詩情豊かな歌だ。 真昼の海蛇座が空の裏側で鱗を光らせる様子。暗いポストの内部を想像させる「夜への投函」という結句。 いずれも作者の美意識が強く出ており、ぐっと惹きつけられる。 はつ夏のひかりの底に子を抱けば吾子は雫のごとき果実よ 三歳

【書評】『自由研究には向かない殺人』『優等生は探偵に向かない』ホリー・ジャクソン(小説)

(作品の内容を含みますので、少しでもネタバレしたくない方は  ぜひ作品を読んでからお越しください) 真実を知ることは痛みを伴う。 時に大きな代償を払うことになる。 本書の主人公、高校生のピップ(ピッパ・フィッツ=アモービ)は、自分の住む町、 イギリスはリトル・キルトンで起きたある事件に疑いを持ち、調べ始める。 彼女は正義感が強く元気いっぱいで恐れ知らず、と言うかかなりむこうみずで 怪しいと思った人に直撃インタビューをしたり、他人に成りすましてメッセージを送ったり 時には他