マガジンのカバー画像

歌集評・一首評・その他書評

29
歌集評や同人誌などの一首評、小説の書評です。
運営しているクリエイター

2023年3月の記事一覧

【書評】『weathercocks』廣野翔一歌集

生きている人と俄かにすれ違う花冷えていくクロスロードに 花束を分けて花束を持ち帰る夜道に掲げながら歩いた 冬の夜に遭えば驚く大男として真冬の夜をとぼとぼ歩く 様々な街で、言葉すくなに歩く主体が印象的な歌集だ。 卒業や就職に伴い幾つかの街で過ごした日々が、内省的な語り口で綴られている。 その中で主体は歩き続け、考え続けている人のように私には映った。 一首目。自分ももちろん生きているのだけれど、 誰もいないと思っていた通りで急に誰かと擦れ違ったことを、「生きている人とすれ

【書評】『にず』田宮智美歌集

2020年に刊行された歌集を再読した。 東日本大震災に大きな影響を受けた作者。いくら時間が経とうとも、そのことは生活に、そして作者自身の心に、様々な形で影響を与え続ける。 「たすけて」と言えれば会えたかもしれぬ夜に一人で過ごす避難所 自己紹介の十分後には震災のよもやま話に移る合コン そのままにしておく白い壁紙のひび割れ 時にそっと触れおり 四年ぶりに職安に来つ被災者か否かを分ける欄できており 「津波にも遭っていないし住む場所も家族もなくしていないんでしょう?」 履