旅立ちに幸あれ

妻と義父母と私で、京都へお彼岸参りに車で行った帰り道。

 どこかで遅いお昼でも食べようか、どこに行く?と妻と話ながら、車を運転していると、歩道に「大阪」と大きく書いた紙を持った女の子が立っているのを見つけた。

 道が混んでいて、ほぼ真横で見つけたので、止まることもできず、そのまま通り過ぎた。妻と、ヒッチハイクしてたな、かわいらしい女の子やったで、乗せてあげようか、どうする、引き返そう、と話して引き返した。どこだ、どこだ、と来た道を引き返す。もう誰かに乗せてもらってるんちゃう、それやったらしゃーないなぁ、そう言っていると、居た、いるいる、車の窓を開けて、反対車線から、大きな声で、手を振りながら、乗せてあげるからなー、ちょっと待っててー、と声をかけて、また引き返した。

 ヒッチハイクの女の子のところに到着。車に乗せた。

かわいらしい女性だ。妻と女の子が話している。

京都の大学に通っていた。ついこの間、卒業したばかり。

上の娘と同い年だ。

 京都から、実家の徳島まで帰るのが目標。とりあえず大阪を目指そうと思って大阪と書いたとのこと。

 大阪、と書いてあったから止まったな。徳島って書いてあったら止まらなかったかも。どこまでって書くのも、ちゃんと考えないとダメやなぁ。なんて話していた。

 大学生活で、色々と経験した。いろんなところにも行った。やり残したことといえば、この、ヒッチハイク、だそう。

 ヒッチハイクするのは、初めて。友だちに相談すると、みんなに反対された。でも、やりたかった。住んでいる部屋から、車の交通量の多い道路までバスで来た。いざ、ヒッチハイク、と思っても勇気がでない。大阪、と書いた紙を上げるまで、じっとその場で2時間立っていたそう。

 いざ、紙を上げても、なかなか止まってくれる車がない。バイクのライダーにグッドラック、と励まされて、泣きそうになりながら、上げ続けていたそうだ。そこに私たちの車がやってきた。ということらしい。

 なかなか止まってくれないものだなぁ。まぁコロナ禍の真っ最中。いくらある程度落ち着いてきているといえど、全く知らない人を車に乗せる、というのは普通よりも勇気がいる。

 それに、私たちもそうだが、車の通りが多く、先行車の影に隠れて、ヒッチハイク、と気づくのが遅れる。いざ止まろう、と思っても、後続車が怖くて、急に止まれない。ある程度、見通しのいいところで遠くからでもわかるような場所にいるほうが止まってくれやすいと思う、と話した。

 妻が、スマホの充電大丈夫、と声をかけた。29%です、との返答。車に乗っている間だけでも充電しとき、と充電させた。

 そろそろ、私たちの家を通りすぎることになる。大阪のどこがいいだろう、と妻と相談。国道1号線なら、2号線につながって神戸にいく車も多いから、このまま1号線のどこかで次の車を探すほうがいいだろう。駐車場のあるコンビニで止まれば、女の子もトイレ行ったりできるだろうし、次の車も止まりやすからいいだろう、と考えた。

 見通しもよさそうなコンビニで停車。彼女を下す。彼女の荷物の中に花束を見つけた。どうしたの、ときくと、卒業式の時にもらったものとのこと。式でもらったものをそのまま紙袋に詰め込んでやってきたらしい。

 女の子とSNSの連絡先を交換。女の子が、乗せてもらったお礼にと、ペットボトルのお茶を差し出して来た。車に4人乗っていたので、4本だしてきた。えらいなぁ。そんなものをちゃんと用意していたのか、感心だなぁ。と思った。自分で飲み、と辞退したが、女の子も、それは申し訳ないので、と言ってくる。妻が、せっかくなので1本だけもらっとくね、あとはこれからの人にあげて、と言って1本もらった。

 そんなことしているうちに、妻も私も、おとうちゃんおかあちゃん魂に火が付いた。なんせ、娘と同い年だ。おなかすいたらあかんから、と買ってあった菓子パンを持たせた。ヒッチハイクみたいなことするには、携帯は命綱。充電は大事。持っていたモバイルバッテリーを、持っていき、とカバンの中に入れた。

 いい人に出会ってな、どうしても行くところなかったら連絡しておいでや、と言いながら、彼女をコンビニの駐車場に残し、帰路に着いた。

 家について娘たちにヒッチハイクのことを話す。コロナのこともあるのによく乗せたなぁ。女の子も勇気あるなぁ。と言っていた。

 夜10時過ぎ、彼女からSNSで徳島についた、と連絡があった。彼女のSNSの投稿で、私が京都から大阪。次の人が大阪から淡路島。その次の人が淡路島から徳島。3台乗り継ぎで到着したことが分かった。

 無事、到着して何より。ちゃんと着いたかなぁ。いい人が見つかっているのかなぁ、とずっと気になっていたので、どうなったのか、わかるのは嬉しい。

 学生時代のやり残しも果たしたし、これからの社会人生活、実りあるものになることを祈っています。

 

 



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