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基本合意契約は重く考えない【M&A日記】

通常の商取引では、モノを買いたい人がいて、売る人が条件面で納得すれば、売買契約を締結して売買が成立する。
コンビニで100円で売られているコーヒーを、100円で買いたいと言えば、売買契約は口頭で成立する。

しかしM&Aの場合は、譲渡契約を締結する前に基本合意契約というのを締結するのが一般的。
条件が売主と買主で合意されたら、基本合意契約を締結して、買収監査(=デュー・デリジェンス、DD)をまず実施する。
監査の上で問題がなければ、譲渡契約を締結する、という流れだ。

M&Aにおける買収検討は、売主、もしくはM&A会社などが作成する資料をベースに進めていくことになる。
そこに記載される各種利益の指標は修正されていることが殆ど。
それは、譲渡した後には発生しない経営者関係の私的な費用などを控除して、対象事業の正常収益力を算出するという正当な意味合いだが、例えばその修正事項が本当に適切かどうかを買収検討企業はチェックする必要がある。
それこそ譲渡企業が粉飾決算をしている可能性もゼロではないわけで、自分たちの提案が適切かどうかを買収監査を通じて確認する、という作業がM&Aには必須だ。
なんせ動く金額が大きい。

買収監査は税務・財務、法務、ビジネスの3種類が一般的。
税務・財務、法務はそれぞれ士業に依頼することが多く、内容によるが百万円単位で費用が発生することもある。
この費用を削減するために買収監査を省こうとする買収企業もいるが、よほどリスクが低くない限りは実施することを推奨する。

さて、それだけ費用も労力もかかる話なので、買収候補企業としては、買収監査したのに、売主から「やっぱり他の会社に売ります」と言われてしまっては困る。

なので、買収監査の期間は、買収候補企業に独占交渉権を付与し、その期間は他の会社とは交渉しませんとすることが多い。

基本合意契約の目的というのは、ほぼほぼこの独占交渉権を得るためと考えてよい。

買収監査は、それによって条件の妥当性を確認するものなので、買収監査前に条件の約束はできない。
合意した金額というのは、あくまで買収監査を経た上で、という条件付き。
なので、基本合意書に合意された条件を記載したとしても、それに法的拘束力はないという記載がだいたいついてくる。
その記載がなくとも、基本合意契約の内容を履行すべきだという請求が棄却された判例がある。
なので、基本合意契約では、条件面の約束はなされないのだ。

その前に提出される意向表明書も同様で、法的拘束力を持たない。

条件面が確約されるのはあくまで最終的な譲渡契約を締結したときだ。
ということなので、基本合意はM&Aの過程においてはとても大きなステップだし、売主からすれば譲渡成立に大きく近づいているのも事実だが、まだ決まったわけではないし、条件も約束されたわけではないので、気持ちもその前提においておく方が良い。
基本合意契約についてはあまり重く受け止めずに、買収監査を実施するための期間拘束と捉えて進められることを推奨する。

※基本合意契約の内容をしっかりと確認することは必須。
十分に確認した上で、例えば条件面を細かく精査するというようなことは不要という意味合いであり、変な約束をされられていないか、などについては十分に確認する必要あり。

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