未払い残業は潜在的な負債というだけではなく、PLにも影響する
中小企業のM&Aは、対象会社の利益を指標として株価を算出する方法が殆どのケースで用いられる。
EBITDAの⚫︎倍とか。
また、決算書の数値のままに評価することは基本的になく、それを調整して実態の数値を算出する。
例えばオーナー個人にかかる、事業とは関係しないような経費がある場合には、それは譲渡後にはなくなるので、かかっていないものとして計算する。
この調整利益を算出するときに、労務問題が実は影響する。
労務問題はM&Aにて、買主が確認する重要な点の一つ。
例えば未払いの残業代があったとする。
本来払わないといけない残業代を会社が払っていない。
残業なんか払うか!という経営者は実際いるし、従業員が自らの意思でサービス残業をしていたとしても、同じこと。
働いた分に応じた賃金は払われないといけない。
デューデリジェンスのときに、この未払い残業が発見されるとどうなるか。
これを積極的に過去に遡って払おうということはあまりない。
3年まで遡って従業員には請求する権利があるため、もし従業員が請求してきたときには、それを払わないといけないという潜在的な負債を会社が抱えていることになる。
全く払っていない会社だとこれは膨大な金額になり得るし、本来1分単位で払わないといけないところを15分単位でしか払ってこなかったというようなケースだと金額はそこまで大きくならない。
例えばその金額が300万円×3年=900万円とする。
譲渡時点では最大900万円を請求されるリスクがあり、毎日その金額は減り続けて、3年後には0になる。
なので買い手のリスクとしては最大900万円か、というと実は違う。
年間300万円の未払い残業があるということは、本来年間300万円の残業代+それにかかる諸経費分、利益が出ないはず、ということになる。
冒頭の話に戻り、株価評価のための調整利益を算出する際に、この300万円強の追加人件費が調整要素となる。
仮に調整利益の5倍で株価計算していたとすれば、300万円強×5=1500万円強株価が落ちることになる。
従業員から未払い残業が請求されれば最大900万円の支払いが発生。
これは殆どの譲渡契約で売主の表明保証事項とされるため、売主に請求される。
株価が1500万円強落ちて、更に未払い分を請求されるというダブルパンチの可能性があるのだ。
ということなので、M&Aの前までには、理屈的には3年前までには未払いが発生しない労務環境を整えておき、想定より価格がつかないとか、譲渡後に請求されるリスクをなくしてしまう、ということが大事。