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【書録切書】 2021/01/04


 その日に読んだ文章の中で印象に残ったものを載せていきます。


江戸川乱歩「鏡地獄」

その物体というのは、玉乗りの玉をもう一とまわり大きくしたようなもので、外部には一面に布が張りつめられ、それが広々と取り片づけられた実験室の中を、生あるもののように、右に左にころがり廻っているのです。そして、もっと気味わるいのは、多分その内部からでしょう、動物のとも人間のともつかぬ笑い声のような唸うなりが、シューシューと響いているのでした。
                          (「青空文庫」より)

 語り手の友人が球体の鏡の中に一日中閉じ込められて発狂しているシーン。後に語り手がハンマーで鏡球を割る場面は、伝統芸能の花祭で榊鬼が山を割る(生まれ変わり)ところに似ている気がした。




 ついでに、折口信夫の文章も。

ものを包んでいるのが、かひである。(中略)このかひは、密閉していて、穴のあいていないのがよかった。その穴のあいていない容れ物の中に、どこからかはいって来るものがある、と昔の人は考えた。そのはいって来るものが、たまである。そして、この中である期間を過ごすと、そのかひを破って出現する。すなわち、あるの状態を示すので、かひの中にはいって来るのが、なるである。これがなるの本義である。
    (「霊魂の話」『古代研究IV』角川ソフィア文庫、2017年、18-19頁
                  /初出「民俗学」第1巻第3号、1929年)

...穴の空いていない鏡の球に入って来るものを、近代人はどう考えたのだろうか?

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