見出し画像

死にゆく恋人との「幸福」を探し求めて✨堀辰雄の『風立ちぬ』①

いつも私の記事をご覧くださり、ありがとうございます🌸

定期購読マガジン「仲川光🌸文学入門①近代文学」、7月度第1回を公開させていただきます。

この記事がいいな!と思った方、続きが読みたいと思った方は、ぜひ定期購読マガジンの方をご検討くださいね。↓↓

※単体の有料記事だと250円。
※定期購読マガジンですと1ヵ月980円。(週2回ほど発信)
※継続購読であれば、圧倒的に定期購読マガジンがお得です🌸
※定期マガジンに加入すれば、その月の記事がずっと読めますが、加入しないと、その月の記事は読めなくなってしまいます💦
7月分の購入を検討されている方は、お早めにどうぞ💖



7月第1作目には、堀辰雄の自伝小説、『風立ちぬ』を取り上げます。

『風立ちぬ』は昭和十年代文学の代表作として高い評価を得ています。

近年では、宮崎駿監督による長編アニメーション映画『風立ちぬ』が公開されて大きな話題となりました。

ただし、宮崎作品の『風立ちぬ』は堀辰雄作『風立ちぬ』から着想を得つつ、ゼロ戦を設計した実在の人物・堀越二郎を主人公にしたオリジナル作品です。

そのため、映画と小説は異なりますが、サナトリウムに入院する病床のヒロインに付き添う主人公、という構図は同じです。




「風立ちぬ」――死と直面しながら、二人の「幸福」を探し求める自伝小説


堀辰雄(1904~1953)

東京府(東京都)生まれ。
人間の深層心理をとらえる新心理主義を代表する作家。
東京帝国大学(現東京大学)文学部国文科卒。
旧制第一高等学校在学中から文学を志し、室生犀星や芥川龍之介とも親交を深める。
芥川の自殺に衝撃を受けて創作された短編小説『聖家族』で高い評価を受ける。
フランス文学や日本の古典文学からも影響を受けた。
肺結核を患い、四十八歳で死去。

代表作品:『聖家族』『風立ちぬ』『かげろふの日記』『奈緒子』など


【書き出し】

それらの夏の日々、一面に薄の生い茂った草原の中で、お前が立ったまま熱心に絵を描いていると、私はいつもその傍らの一本の白樺の木陰に身を横たえていたものだった。


【名言】


「風立ちぬ、いざ生きめやも」

(ポール・ヴァレリーの詩「海辺の墓地」より)


「私、なんだか急に生きたくなったのね……」
「あなたのお陰で」



【あらすじ】前編


〈序曲〉


薄(すすき)が一面に生い茂り、白樺の林の広がる高原の避暑地。

「私」と節子は偶然に出会い、夏の日々を過ごした。

遠い地平線までもが見渡せる草原の中で節子が得を描いているあいだ、

私はいつも傍らの白樺の木陰で横になり、その姿を眺めながら待っていた。


秋も近づいてきたある午後、白樺の木陰に二人で寝そべっていた。

そのとき不意に風が立った。


風立ちぬ、いざ生きめやも。


私は、彼女の肩に手をかけながら、そんなポール・ヴァレリーの詩句を口の中で繰り返していた。


まもなく節子の父親がやってくることを聞いた私は、しばらくの別れを感じながらも、しっかりした自分の生活の見通しが立ったら、必ず節子を貰いに行くのだと、自分の心に言い聞かせた。



〈春〉


それから二年後の春、私は節子と婚約していた。

しかし、その頃すでに、結核という病が節子を襲っていた。

三月のある日、節子の家を訪れた私は、八ヶ岳山麓のサナトリウム(結核療養所)に節子と二人で行くことを決める。


四月、節子の病気がいくらか恢復しているように見えていた頃、家を訪れた私は節子を庭に誘い出す。

節子は病気に対して以前よりも気弱になっている自分に戸惑いながら、その理由を、「急に生きたくなったから」と私に話した。

それから、小さな声で言い足した。

「あなたのお蔭で……」



ここから先は

994字
この記事のみ ¥ 250
期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?