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一粒の涙とクジラの海

ある朝のこと、クジラのキューちゃんは泣いた。
ちっさなクジラの目からは一粒の涙があふれた。

「もしかしたらお友達は私のことなんて好きじゃないかもしれない」と言ってママクジラに泣きついた。

「そんなわけないじゃない」とママクジラはキューちゃんをなぐさめた。

でもキューちゃんの心は晴れなかった。
最近どうしてもお友達が自分を遠ざけてしまっているように感じてしまったから。

「わたし悪いことしてないのにどうして?」とママクジラに打ち明けてみたけれどもママクジラもその様子を見ていたわけではなかったから、答えることはできなかった。

◇◇◇

翌朝、ママクジラはキューちゃんが寝ている間にパパクジラに相談した。
「キューちゃんが落ち込んじゃったの。あの子ひとりぼっちになってしまったのかも。」

パパクジラはしばらく黙って聞いていたが、やがて
「ぼっちになったのはキューちゃんだけかい?他の子供たちはみんな仲良く遊んでいるのかい?」とママクジラにたずねた。

ママクジラはわからないと答えた。

「子供たちはまだ接し方が分からないだけかもしれない。」とパパクジラはママクジラの肩をたたいた。

◇◇◇

キューちゃんは朝起きると浅瀬の海の幼稚園にオモチャを持ってゆくと言い出した。理由をたずねると
「これでお友達と遊ぶの」とママクジラに伝えた。

「いい考えかもしれないね」とママクジラはキューちゃんを後押しした。

でも上手くいかなかったんだ。

キューちゃんはお友達のアイちゃんにオモチャで遊ぼと誘ったのだけれどもアイちゃんは一緒に遊んでくれなかったんだ。

キューちゃんは泣きながら帰ってきたんだけれどもアイちゃんにも理由があった。
別にキューちゃんのことが嫌いになったわけじゃなかったんだ。

後から分かったことだったんだけれども実はアイちゃんのパパはその時に病気で倒れていたんだ。
アイちゃんは心配で心配でとてもじゃないけどキューちゃんと遊ぶ気持ちになれなかったんだ。

キューちゃんはそっとすることをおぼえた。
そしてアイちゃんのパパが早く元気になりますようにと祈った。

何日かしてキューちゃんとアイちゃんが遊ぶ声が浅瀬の海の幼稚園から聴こえた。アイちゃんのパパは元気になったんだって。

よかった。一つ安心した。

パパクジラはキューちゃんとゆっくり海を泳いだ。

「パパ、私ね。お友達から嫌われてなかった。また仲良しに戻れたんだよ。」

「そうかい。よかったね。」

「パパ、私ね。前は悲しくて泣いたんだけど、今度は嬉しくて泣いたの。」

「そうかい。世の中にはいろんな涙があるんだね。」

「パパも泣いたことあるの?」「もちろんさ」

「ママも?」「もちろんさ」

「おじいちゃんもおばあちゃんも?」「もちろん」

「みんなも?」
「ああ、きっとみんな泣いて大きくなったんだよ。もっと言うと大きくなってからも涙を流すこともあるんだよ。」

「ホントに?」
「ああ、本当さ。そしてみんなの涙がこの海に溶け込んでいるんだ」

「海に?ホントだ。ちょっと しょっぱいね。」

キューちゃんの言葉にパパクジラは思わず微笑むとそっと言葉を続けた。

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