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vol.2 ミノベさん

大学時代、1年間ビジネスホテルのフロントのアルバイトをしていた。

ホテルの接客はとても難しかった。
チェックインから電話対応、お客さんからの要望全てに応えないといけない。
特に電話や接客での敬語が難しくて、悪戦苦闘していた。
ホスピタリティとはよく言うもので、高い接客スキル・マナーが求められる。
「只今あいにく」とか「恐縮ですが」などのクッション言葉を全部頭に叩き込まれた。
というのも、厳しかったミノベさんという上司がいたからだ。

40代ほどのベテラン女支配人。
接客は完璧、常連の人も皆、ミノベさんに心を許してる。

いつも上品な笑顔で上品な敬語、上品な佇まい、、支配人とまで行くと、このレベルに達さないといけないのか、と打ちひしがれる感じ。
他の従業員さんの話を聞いても、悪い噂はあまり聞かないし、まず怒ったところを見たことがないという。

それを聞いたとき、私は大層驚いた記憶がある。
私はミノベさんによく怒られるのだ。

いつも背筋が曲がっててダラダラしてて、覇気がない。
「若いんだからもっとシャキッとしないと勿体ないよ!」とはよく言われたものだ。
それだけならいいのだが、私はよくしょうもないミスを何度もやらかしてしまう。
宿泊料金を覚えずに平日の安い料金で休日予約を済ましてしまったり、宿泊費とは別の駐車代金を貰い忘れるなんて、しょっちゅう。

電話でお客さんからチェックインは何時からなのかと聞かれた際に、「15時からチェックイン」と伝えるのが正解なのだが、「何時からでもお待ちしている」という文言で伝えてしまい、(当時はホテルの一般常識がイマイチ分からなかったんだと思います💧)
フロントの従業員と掃除担当の人を慌てさせてしまった。
ミノベさんに「一般常識だよ!」と、激しく言われて、チクっと私の心を抉ったのを覚えている。(そのお客さんは無事、15時以降にチェックインしました。)


普段、怒らない人が怒る瞬間というのはめちゃくちゃ怖い。
ミノベさんは笑顔で怒る人だと思う。普段の上品さを保ちつつ、決して一方的に責めてるような構図にさせない。けどミスをこれ以上増やさせないという意思をガンガンに強調した怒り方をする。

全部、至らない私が悪いので申し訳なくなるのだが、申し訳なくなる負い目の分だけ私はまた新しいミスを犯してしまう。
これが私の悪いところ。またミノベさんがフロントの後ろのデスクからやってくる。

あ〜また怒られるんだ。。また、笑いながら怒る、  竹中直人スタイルで私のHPをじわじわと削っていく。。まさしく負のサイクルである。

二年生から三年生までの一年間、結局最初から最後まで私はミノベさんが苦手だった。
普段、怒ることのない人を怒らせる自分が悪いんだ。。とミノベさんを前にすると、負い目しか感じなくなる弱い自分がいた。

大人になった今でも、あの時の自分を超えれるのか、あの時のミノベさんと対等に渡り合うことができるのか…分からないし、正直、もう会うこともない。
でもそういう人は不思議と反骨心が育ってくれる存在だ。

見返してやる!とまではいかないけど、あの時のミノベさんと少しでも対等に渡り合えたらな…
と思うことはある。

背筋を伸ばして。(その為には猫背を直さないといけない。)

ハキハキと喋って。(その為には内から溢れる圧倒的な自信を持たなくてはいけない)

臨機応変に電話対応もこなして。(その為には接客の経験を積まなくてはいけない。結局は慣れ。)

いつか自分が本当にすごい奴になって血眼になってミノベさんを探して会いに行けるぐらいの時間と、心の余裕をもってたら、本当のハッピーエンドだ。
この話は今のところ、そういうキレイなオチがない。


ミノベさんから最後の給料を貰いに行く時、交わした最後の会話を覚えてる。
「なんか雰囲気変わった?格段と大人っぽくなったね。」
「そうですか?そんなに経ってないですけどね。
それじゃお疲れ様です。」

…。なんて事ない最後の会話。

ミノベさんは私のことをずっと気にしてくれていて、
変化を望んでくれたのかな。。?
その時はいつもの制服姿じゃなかったからだと思うけど。💧

(2020年4月17日に書いた日記を再編集しています。
見にくい文章なのをお許しください🙇‍♂️)

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