今年衝撃を受けた漫画 2020

 生気ちまたです。今年も「やべえ」「すごい」「頭おかしい」など自分に対して様々な形で衝撃を与えてくれた作品を紹介していきます。


絵柄が際立つ『友達として大好き』

 作:ゆうち巳くみ
 家族は必然。恋人は偶然。
 友達は、自然になれるはずなのに?
 これは、息を吸うように恋をした結果、クラスで浮きまくっている一人のギャルが、ルールに縛られた眼鏡少年の本当の「友達」を目指す物語。友達に悩んだことのあるすべての人におくる、放課後の、ちょっとエッチな友情譚!(配信サイトより)

 よくある友達から始めちゃうラブコメのようなあらすじからの、ちょっと変わりダネな作品です。
 コミカルな絵柄とキャラ立ちが大変魅力的。どちらも記号で描いていないのが良い。
 既刊1冊なので、続きに期待も込めて。


構成の妙『社畜と少女の1800日』

 作:板橋広志
 休日出社に徹夜、朝帰りが当たり前の激務な職場で働く東根将彦。ある日、彼を訪ねて来たのは高校の同級生の娘だという少女、優里だった。「母親が迎えに来るまで」という約束のもと、同居を始めた二人だが…!?
 年の差ゆえのギャップに戸惑いつつ、時に大人の事情を交えて季節をわたる、ふたり暮らしの日常。(配信サイトより)

 こちらは完結を迎えた青年漫画。
 あらすじは上記のとおりです。読者のボリュームゾーンが四十路に差し掛かってきたのか、近年はおじさんと少女のお話をたまに見かけますね。親友の娘だったり、社長の孫だったり、ダイキチだったり。死別した奥さんの連れ子というのも……『じんべえ』はかなり古いか。
 本作の物語の行く末についてはネタバレになるので言及を避けますが、あえて一つだけ魅力を挙げるなら、ものすごく「引き」が上手い点です。
 え、何が起きたの。続きはどうなるの。読者に続きを期待させる展開が毎回仕込まれ、きちんと次回に繋がっていく。
 時にはクリフハンガーばりの危機もあります。構成の妙、物語の起伏は見事としか言いようがありません。文句なしにオススメ。
 数少ない注意点として序盤だけセックスシーンが多いので、外では読まないほうが良いでしょうね。

冒険の再発見『ダンピアのおいしい冒険』

 作:トマトスープ
 17世紀イギリス政府はスペインとの対抗上、民間船に海賊行為を許可。その乗組員ダンピアは博識かつ好奇心旺盛! 航海で出会う未知の文化、未知の動植物、そして未知の食を好んだという。この人物は実在した…(配信サイトより)

 地球を冒険するには遅すぎ、 宇宙を冒険するには早すぎる時代に生まれた我々にとって冒険とはどこか縁遠いものです。
 本作はそんな私たちに冒険の魅力を再発見させてくれます。
 私掠船の荒くれ者たちが海を渡り、未踏の島や先住民の村を巡る。大小の対立、別れを繰り返しながらダンピアたちの旅は続く。
 可愛らしいポップな絵柄も素敵。若者もおじさんもリングローズも可愛い。読みましょう。


権力の真空『新九郎、奔る!』

 作:ゆうきまさみ
 織田信長、豊臣秀吉、徳川家康……
 かの有名な武将たちが活躍する時代の少し前、戦乱の世のはじまりを生き抜き、切り開いた男がいた―――
 その名を伊勢新九郎。
 彼はいかにして戦国大名となったのか。
 彼はそもそも何者だったのか。
 知られざる伊勢新九郎の生涯を、まったく新しい解釈で描く意欲作!(配信サイトより)

 戦国時代の中でも応仁の乱あたりってあんまり詳しくないんですよね。昔から信長の野望は遊ぶけど「河越夜戦」がもっとも古いシナリオだったりしますし。嗜む小説や漫画も信長以降が多い。
 その点で本作は大変勉強になりました。まず応仁の乱前後の対立構造の概略を初めて理解できました。
 武士の会話が官職名に諱のルビが入る方式なので、深く読み込まないと話題の把握が難しいところもあります。
 ただこれは本来、格下の武士が「信長様」「秀吉様」など諱で呼ぶことが失礼にあたるため。リアルな表現です。
 本作の主人公はいわゆる北条早雲。単行本最新刊では備中国内の領地の年貢に関わる問題に取り組んでいます。応仁の乱の余波で権力の真空が発生した結果、統治体制に弛緩が起こり、様々な歪みが生まれていました。

 彼が今川家に所属し、相模に進出するのはまだ先の話。楽しみです。当然、歴史抜きに漫画・物語としても面白いですよ。

変わらない強さ『働かないふたり』

 作:吉田覚
 対人関係が苦手な"働かない"妹と、どういうわけか"働かない"兄が"働かない"日々を ぼちぼち生きる。
 世間様にはあんまり顔向けできないニート兄妹漫画、はじまるよぉぉぉ。

 連載開始から追いかけている漫画です。
 2013年から8年間。既刊20冊くらい。
 ほぼ変わらない内容なのに飽きさせないのはすごいことだと思います。
 少しずつ登場人物は増えていきますし、人間関係も生まれていく。中には主人公たちに感化され、夢に挑むことにした人もいる。新しい出会いに救われたような人も出てくる。
 でも主人公兄妹は変わらない。変わらないのに飽きないし面白い。作品としてあまりにも強い。
 地味に兄の言い分が押しつけがましくないのが好感を持てます。彼が「正義の人」だったら本作はこんなに続かなかったでしょうね。
 他にも魅力たっぷりの作品ですから、年末年始にゆっくり一冊ずつ楽しまれては如何でしょうか。


 今年は本当にロクでもない年でした。疫病の蔓延、自粛ストレス、軋轢、余裕の欠如した社会……。
 私事で言えば、まともに野球場で阪神を応援できないし、地元の未来のための制度改正案は公僕の反乱と報道被害で否決に持ち込まれてしまうし、やたら太ったし! と近年まれに見る残念な年でした。

 ただ、そんな今年も良き漫画には出会えました。ここで挙げたもの以外にも良作はたくさんあります。
 今回のコラムが皆様の良き出会いに繋がれば幸いです。

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