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技術者として、スペシャリストからゼネラリストへ/ソニーセミコンダクタソリューションズ 上田朝己さん

学部の頃から、センシング技術を研究されており、奈良先端科学技術大学院大学(以下、奈良先端大)を修了して入社後も引き続き、同じ領域で研究されている上田さん。奈良先端大では、どのような研究生活を過ごし、就職活動を進められたのか、現在のお仕事で大切にしていることや面白さ、一貫して持ち続けているビジョンや今後の目標について、詳しくお話を伺いました。

上田 朝己(情報科学研究科 博士前期課程2019.3修了)
奈良先端科学技術大学院大学では、コンピュテーショナルフォトグラフィと呼ばれる、コンピュータービジョン(画像処理)をテーマに研究。ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社に入社。入社後はセンサーの画像処理や信号処理の開発を担当。

就職を意識した時期

一つ上の先輩方の就職活動が終わって、会社が決まりだした頃に就職活動を意識し始めましたね。 M2(博士前期課程2年)の直前頃に、順々に先輩の内定が決まっていくところを見て、自分達はどう進めていくのだろうかを考え出しました。

会社選びになるポイント

ロボットビジョンや画像系のセンシングを研究したくて、奈良先端大に来たので、最初の方はセンシング技術が強い会社に入りたいくらいの考えで就職活動をスタートしました。高校、大学、大学院の進路選択の軸がセンシングや物作りだったので、センシングで社会に影響を与えたいと考えていました。最初の方は、自分の専門や研究内容と近い会社が良いと思って、自分の研究をアピールしやすい会社を探していたんですよね。ただ、途中からは、今後どういったセンシング技術で、どんな風にアプローチをかけてくのか、どういったビジョンを持っているのかを見て、その部分とマッチしている企業を重点に就活を進めていました。

業界的には、FA(ファクトリーオートメーション)に使われるような画像処理を研究している会社や、例えば、新しい画像センシングで最初に世の中に接点を持つのは自動運転のような分野なので、自動車業界や自動車の部品を作る会社も面白いのではないかと思って、そういう企業も探していました。

また、同期とはよく相談していて、何か就活のイベントがあれば、「一緒に行かないか」、「あの会社の選考は大変だった」など、話を持ち寄ったりしていましたね。一人だと、就職活動は辛かったので、やっぱり同期たちとみんなでチーム制のような感じで進めていったことは非常にメンタル的にも助かりました。

ソニーセミコンダクタソリューションズに就職を決めた理由

元々、奈良先端大の研究でハードウェアとソフトウェアの両方を工夫させると、新しいことができるところに面白みを感じていました。私が現在、在籍しているソニーセミコンダクタソリューションズは、センサーカメラだけではなくて、カメラの中のセンサーからソフトウェアも含めて作る会社です。元々センサー(ハードウェア)に強みを持つ会社がAIや画像処理を組み合わせることで、画像を撮るイメージング用途だけではなく、様々な情報を取得するセンシング用途へと活用の場を広げています。これにより社会に豊かさをもたらしていくというメッセージに、とても共感して魅力を感じ、ソニーセミコンダクタソリューションズに就職を決めました。

入社後の業務内容

普通のカメラでは「RGB」(赤・緑・青)の情報を取得しますが、私が入社直後に開発を担当したのはマルチスペクトルセンサーという色々な波長の光を取れるセンサーの画像処理や信号処理です。一、二年ほど、その中の信号処理開発に携わった後、現在はエッジAIと呼ばれる、AIを活用するセンサーの開発を担当しています。職場はNAISTの研究室の頃と似ていて、相談できる先輩社員の方々との報告会が毎週ある他、仕事でも都度アドバイスをもらえますし、日々議論を交わしながら業務を進めていて、楽しい雰囲気で仕事をしています。

働く上で大切にしていること

上長からよく言われていることですが、私の所属する組織、業務の範囲は、研究開発のように技術を作るだけではなくて、作った技術の価値をお客様と共に実証していく必要があります。実用的な技術かをお客様に評価していただくために、どのようなやり方やどのような性能を持たせるかの意識を持つようにしています。

お客様の要望やより良いフィードバックを探るために、意識してデータの出し方や伝え方を変えています。私も最近、経験し始めたところですが…。お客様のニーズに応えることももちろん大切ですが、それだけだと、私たちの技術に活かせるものが実は得られなかったりするので、そのためには私たちの技術として、どのようなフィードバックがいるのか、どういう評価をしてもらいたいかの二つの視点を両方持つ必要があります。まだ勉強中なので、先輩のやり方を見て、勉強しているところですね。

現在の仕事の面白さ

技術開発だけではなくて、お客様と一緒になって技術を作っていく、作った技術の価値がきちんとあるのかをお客様と一緒に確認できることは非常にモチベーションが高まります。理系的な技術面で言うと、センサーから作れる会社なので、通常の画像処理で扱うよりも深いレベルのデータから触れることができ、それを使った独自の画像処理技術を作れるところは面白いと思いますね。

ゼネラリストになるという目標

入社後から私が持っている方針として、一つの専門のスペシャリストよりもゼネラリスト、広い専門をカバーできる技術者を目指しています。先ほどから話に上がっているようなカメラやセンサーといったハードウェアと信号処理のようなソフトウェアとの融合で、新しい価値を出していくことがモチベーションの高くなるところです。ハードウェアとソフトウェアという二つの専門を合わせて、新しいことに挑戦していくことと同じで、私自身も今後、更に、AI技術などの専門領域を広げていきたいと思っていますね。

あとは、ビジネス視点で考える力が本当に必要で、最近は課題に感じています。広い技術の視野やビジネスの視野を持って、今後はプロジェクト自体の開発に計画段階から関われる技術者になりたいです。技術視点とビジネス視点で新しい価値を持つ技術を作り出して、社会に貢献していきたいと思っています。

現役の奈良先端大生へのメッセージ

私が就職活動中に先生方がくれたアドバイスで、ずっと響いているものがあります。「最初は、今やっている研究の専門に近い技術や興味を持っている技術を元に、会社を探すと思う。そうではなくて、会社自体が掲げているビジョン、“長期的にこの会社は何をしていくんだろう”、“どういうモチベーションでやっていくんだろう”という考えと、自分が思っているビジョンやモチベーションが長い視点でマッチできるかどうかをしっかり見なさい」という先生からの言葉が、非常に大切だと、今になっても思います。

まだ三年目、四年目の若手ですが、私も二年目、三年目で業務が変わりました。担当業務や専門性は会社にいると、変わることもあります。その時にモチベーションが保てるかどうかは大切だと思います。直近の技術のマッチングや、やりたい技術のマッチングだけで取り組んでいると、モチベーションが保てないこともあると思います。それこそ、ソニーセミコンダクタソリューションズは「テクノロジーの力で人に感動を、社会に豊かさをもたらす」というミッションや「最高度のイメージング&センシングテクノロジーで、映像クオリティと認識機能の限界に挑戦し、あらゆるシーンにソリューションを展開する。」というビジョンと私の考え方がマッチしているので、少し専門性や業務内容が変わっても、いずれそこに繋がると思えば、モチベーションは保てているので、とても大切だと思います。

奈良先端大時代の勉強会のおかげで役に立ってること

大変だった思い出でしたが、毎週の勉強会と進捗会があり、非常に勉強になりました。そのミーティングで知識の幅がとても広がり、発表の仕方が学べて、鍛えられて成長できましたが、それに加えて、元々画像処理の専門にも関わらず、AIの画像センシングなどももちろん勉強会で出てきた内容だったおかげで、基礎知識が得られていたため、現在、会社の中で最新技術の議論にも積極的に参加できているので、助かっています。

また、チームで相談しながら進めていくことは同じだと思いますが、学生時代は先輩や先生にいつでも相談しに行けるような環境だった一方で、現在は相談しないといけない相手がなかなか時間を取りづらい上長などの場合、当然ですが、限られた時間の中で議論したい内容まで話をまとめる必要があるところは、学生時代と違うかなと思います。

奈良先端大を目指す学生へのメッセージ

奈良先端大は大学院だけの大学なので、一番良いところは、メンバー全員が同期も先輩も含めて、やりたい内容がある程度決まっている人が多い点です。本当にモチベーションが高い先輩が集まっていて、ヤル気を持った新入生に対して、何でも相談に乗ってくれる先輩や先生方ばかりです。集中して研究する経験を得るなら、奈良先端大はとても良い大学院大学だと思います。就職活動が進めやすくて、就職に強いことも良いですね。

※この記事に記載した内容は取材当時の情報になり、会社名や役職名等は現在と異なる場合があります。