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苦しいものづくりの仕事の中で面白さを感じる大切さ|ミネベアミツミ株式会社 村上歩さん

奈良先端科学技術大学院大学(以下、奈良先端大)での知識や技術、経験が現在の仕事に非常に多く活かされているそうで、とても濃い研究生活を過ごされていた村上さん。一貫して入社後はMEMS(メムス)センサーの研究開発に携わっており、とても面白みを持って仕事に取り組んでいる印象が強く伝わってきました。なぜ周りよりも早く内定が出たのか、現在の仕事の魅力、日々気を付けていることを含めて、詳しくお話を伺いました。

村上 歩
奈良先端科学技術大学院大学では、眼球に埋め込んで網膜を電気刺激する人工視覚デバイスの開発に携わる。博士前期課程修了後、関西の大手電機メーカーに入社。その後、ミネベアミツミ株式会社へのMEMS開発・生産機能の譲渡により同組織を新会社として分社化させたMMIセミコンダクター株式会社にて、世界トップクラスの超小型マイクロホンの開発に挑戦している。

入社までの流れと現在の会社に所属している経緯

M1の1月頃から企業の求人資料を取り寄せたり合同企業説明会へ行ったりしていたと思います。奈良先端大での研究活動を通じて半導体微細加工技術に関心を持っていたため、それを活かした仕事につければと考えていました。そんな中、ある大手電機メーカーに関するニュース記事でMEMSチップの写真を見かけ、面白そうだなと思って面接を受けたところ、4月に内定が出ました。

入社後、私の配属先は希望通り、MEMS製品の開発・生産を担う部署になりました。2021年にその組織がミネベアミツミ株式会社に譲渡され、今に至ります。外部要因により、所属する会社が変わったものの、結果的に事業ポートフォリオ・風土の違う二社を知ることができ、面白い経験ができたと前向きに捉えています。

周りよりも早く内定が出た理由

私が就職活動した年は、2008年に起きたリーマンショックの影響がまだ強く残っていた時期で企業の新卒採用枠が絞られており、大学の同期は苦戦していた記憶があります。そんな情勢ではありましたが、自分が何を仕事としたいか考え、それをモチベーションとして早い段階から業界分析するなど、能動的に動いていたことが、結果的に早い時期での内定獲得に繋がったのかもしれません。

奈良先端大は大学院大学ですので、研究に携われる時間は、学部四回生から同じ研究室に所属し続けた人と比べ短いものになります。就職活動は大事であるものの、研究活動が疎かにならぬよう、日中は研究、夜は就職活動と時間を区切り両立を心掛けていました。そういった姿勢も今振り返ってみると良い結果に繋がったように思います。

入社後、一貫して携わっているMEMSセンサーの研究開発

入社して13年、私が携わってきたのは、半導体の微細加工技術を使ってマイクロメートルオーダーの微小な構造物を造るMEMS(メムス)という技術になります。半導体と聞くと、一般に集積回路をイメージされ、MEMSは全く馴染みないもののように感じられるかもしれませんが、実は我々の身近なところでもたくさん使われている技術です。スマートフォンに搭載されているMEMSデバイスを例として挙げると、傾きや動きを検知する加速度センサー、特定の周波数帯の電気信号を取り出すBAWフィルターや音声を電気信号に変換するマイクロホンなどなど。

そのようなMEMSデバイスの商品開発に2011年から2017年頃まで携わっていたのですが、商品開発の前段となる技術開発の必要性を感じたことから、技術・知財本部へ出向してMEMSデバイスに使う機能性薄膜材料の研究に携わりました。その研究がひと段落したところで、今度はNEDOプロジェクトへ参画することとなり、2019年から2021年にかけて共同研究のため、東京の大学に通い詰めていました。今はこれまでの経験を活かす形で改めてMEMS商品の開発に携わっています。

組織の若返り化に伴う活性化と成長支援

所属部門がミネべアミツミグループに加わってから感じた大きな変化の一つに、組織の若返りが挙げられます。ミネベアミツミの事業戦略としてMEMSは積極投資する分野の一つに挙げられており、ヒト・モノ共に多大な支援を受けています。MMIセミコンダクター社は300人くらいの組織で年齢構成としてはベテラン層の割合が高めだったのですが、ここ2年で若手が30人程増えており、活気のある状況になっています。今後も継続的な採用が計画されていることから、若手の成長を支援する仕組みも充実させ、一緒にMEMS事業を成長させていこうという動きになっています。ミネベアミツミグループでは、原則として新卒はすべてミネベアミツミ株式会社で採用され、一人一人の志向性や適性に合わせて各事業部門へ配属されることになります。

日々の仕事で感じる楽しさや面白さ

ものづくりをしていると、同じような製品を開発・製造している競合他社が必ず存在し、お客様から魅力的に感じていただける他社に勝る商品を創り出すことが常に求められます。そのための取り組みの一つとして、競合品の解析を行ったり、特許調査・論文調査を行ったりして情報収集するのですが、中にはただただ感心してしまうような実に合理的でよくできた商品・技術を目にすることがあります。ひとしきり感心した後は如何にそれを上回るものを創るか頭を抱えることになるのですが、そういったところも含め、技術的な面白みを感じながら、仕事に携われることがものづくりの楽しさだと思っています。

商品サイクルが早く大変な側面と対策

先ほど、ものづくりの楽しさの話をしましたが、一方で苦しみもあります。私が担当しているのはMEMSマイクロホンという、モバイル機器などに使われる電子部品なのですが、モバイル機器というのは毎年新しい機種が設計・製造・発売されます。そこに使用される部品の選定タイミングは1年のうちわずかな時期で、そこを逃すと次の部品選定のタイミングは1年後…ということが起きます。そうなってしまうと事業計画に対して、非常に大きな空振りとなってしまうため、何としても避ける必要があります。そのためには計画の重要期日を押さえ、開発完了がそこに間に合うよう逆算してスケジュールを作り、そのスケジュールに対して、日々の設計・試作・評価の進捗が遅れないよう行動し、遅れが生じればどうすればキャッチアップできるか、と細やかに気を配りながら、開発に取り組んでいます。

また「こういう性能のものが欲しい」とお客様に言われてからではスケジュールが間に合わないことも多々あります。そこで市場のトレンドから早晩求められるであろう仕様を先読みし、それを実現するための要素技術検討用デザインを別件の試作の中に盛り込んでおいて、いざ必要に迫られた時に早期に適用できるよう備えておく、という先読みした動きも重要になってきます。

働く上で意識的に取り組んでいること

自分が携わっている商品に関する知識を深めていくのは当然なのですが、それ以外にも様々な知識を得られるよう心掛けています。学会や展示会に行き、専門外の話を聞く。ものづくりをしていると常に何かしらの困りごとを抱えていたりしますので、そうやってたくさん仕入れた知識のうち、一つか二つでも困りごとの解決に役に立てば儲けものだなと。仕入れた知識が今すぐに役立たずとも、未来の自分を助けてくれるかもしれないとも考えています。

現役の奈良先端大生へのメッセージ

職場の同僚ともよく話すのですが、「ものづくり」という仕事は非常に泥臭く地味な仕事の積み重ねです。理屈通りにことが進まず、よく頭を抱えるのですが、それでも長く続け技術を深めていけるかどうかは、ひとえに面白さを見出せるかどうかにかかっているように思います。それを踏まえ、大学院修了後、就職を考えておられる方は、世にあるたくさんの仕事に目を向け、その中から何かしら面白さを見つけられるものを自身の仕事とすれば、実り多い時間を過ごせることになります。

奈良先端大を目指す学生へのメッセージ

大学院に進学するまでの私は「ものづくりをしたい」と漠然と考えていたものの、それ以上、自分の将来を明確に描けていたわけではありませんでした。そんな私でも、奈良先端大での研究活動を通して、ようやく自分にとっての「何か面白いもの」を見つけられ、どこへ向かっていきたいかを見いだせたように思います。

私が所属していた研究室では、半導体プロセス装置一式(フォトリソグラフィ装置, 蒸着装置, スパッタ装置, RIE, Deep-RIE)や走査電子顕微鏡などが一研究室で保有されており、試したいときに試せる環境にあったことで、微細加工の面白さを知る大きなきっかけとなりました。恥ずかしながら、在学時の認識は「装置が色々使えて面白いな」という極めて単純なものだったのですが、半導体企業で働くようになり、各種装置が如何に高価なものであるか(一台数千万~数億円する)やその購入資金を調達できる先生方の手腕・研究実績、他大学の研究設備の充実状況などを知って、ようやくその凄さを鮮明に認識するに到り、改めて修士2年間を非常に良い環境で過ごせたのだと感じています。

新しい環境に飛び込むことはいつでも躊躇うものですが、飛び込むのを躊躇う環境ほど自分にとっての未知が多く、結果それまでの自分が想像もしなかったところへ連れて行ってくれるかもしれません。もし進学を迷われている方がいれば、ぜひ勇気を出して奈良先端大に飛び込んでほしいと思います。

奈良先端大の研究生活で印象に残っていること

私が所属していた研究室では、研究室の先生が企業経験者であったことによるものなのか、研究に関する日々の報告・連絡・相談をこまめにできる体制が構築されていたように思います。先生と学生が毎朝セミナー室に集まり、20分程の進捗報告・相談の場が設けられていました。報告するとなると、毎日何かしらの進捗が必要になりますので、ほどよい緊張感を持って研究活動に臨めていたように思います。

また、研究の一環として、配属された学生は集積回路の設計を経験したのですが、これがなかなか大変だった記憶があります。望む回路動作を明確にした上で、その機能が得られる電子回路図面(Schematic)を設計し、それを基に半導体の製造ルールに基づくフォトマスク図面(Layout)を設計します。設計する際は、正しい製造ルールに基づいてLayoutが作図されているか、ソフトウェアによる自動チェックDesign Rule Check (DRC)を行いつつ、最終的にLayoutがSchematicと対応する動作をしているかのチェックLayout versus Schematic(LVS)を行って図面を完成させます。注意しながらLayoutの作図をしてはいるのですが、人がすることなのでどうしてもミスやエラーが生じます。これらのエラーをそのままにしては希望通りの回路動作をしないので、エラーは全て解消させないといけないのですが、これが骨の折れる作業です。これらのエラーをすべて解消すると「Net list match!」というメッセージが出て、ようやく回路・レイアウト設計完了となるのですが、そこに至るまでかなりの時間と労力を要しており、ようやくそのメッセージ画面を出せたことによる嬉しさのあまり、声に出して「Net list match!」と叫んでいる同期もいました。

研究室外の思い出だと、学生寮の一階にあるラウンジで研究室の垣根を越えて映画の上映会を開いたりしていました。その時観た映画の一つに『秒速5センチメートル』という映画があるのですが、15人くらいで観ていてラストシーンが流れたときの何とも言えない空気は、今でも楽しい思い出です。

また、入学直後には研究科の懇親会を企画したりもしました。学内のホールを借りてテイクアウトの料理を持ち込んで…という手作り感満載のイベントだったのですが、研究科の学生約100人のうち8割程が参加してくれ、楽しいスタートが切れたように思います。

奈良先端大で経験して、今も仕事で役に立っていること

かなり実務寄りの話になってしまいますが、人工視覚デバイス用ASICの設計・実装を通して学んだ ①アナログ・デジタル集積回路設計 ②レイアウト設計 ③半導体プロセス知識 ④チップ実装技術、など半導体全般に関する知識は今の仕事の基礎になっています。

別の観点で少し抽象的な話になりますが、目の前にある課題に対して、一生懸命打ち込む姿勢の大切さを学んだようにも思います。大学院で何かしらの研究に携わり、それがそのまま生業とならない方が多数だとは思うのですが、人生いつ何が役に立つか分からないものです。困った時こそ一生懸命取り組んだ時の知識・姿勢が自分を助けてくれることがあります。現時点で博士前期課程修了後に就職を考えておられる方も、2年間という限られた時間の中で研究と誠実に向き合い、研鑽していってほしいと思います。

※この記事に記載した内容は取材当時の情報になり、会社名や役職名等は現在と異なる場合があります。

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