ゴミステーション。
長雨が続く…
「こんなのもう梅雨じゃないよ、雨季だよ。」
ため息をつきながら、私は自宅へと夜道を急いでいた。
仕事帰り、
バスから降りたところでうまい具合に雨が止んでくれた。傘をささずには済んでいるけれども、濃い湿気で身体が重い…雨が止んでる間に早く帰りたい。
ハア、ハア、
髪がベタベタと首にまとわる。
ハア、ハア、
スカートの裏地が脚にからみつく。
ハア…ハア…ハア…
息苦しい。
地上にいるのに溺れていくみたい。
ふと顔をあげると、
小さな外灯にぼんやりと照らされるゴミステーションが目に入った。
「ああ、このあいだ亡くなったおじいさんの家ってここら辺だっけ。」
ゴミステーションは、
主の居なくなった屋敷のその外壁に、沿うように設置されている。
「いいおじいちゃんだったな、このステーションもホントは当番が掃除する事になっているはずなのに、毎回なぜかあのおじいちゃんがニコニコ片付けていたっけ。」
通夜の際には沢山の弔問客が押し寄せて、
とても驚いたと、うちの家族が言っていたのを思い出した。
「死んでから評価されたって…。」
昼間の自分の要領の悪さにやさぐれて、ボツリ呟く。
以前は、老人宅の生活の灯りが助けてくれていたが、今では真っ暗闇に小さな街頭がひとつあるだけ。
人がひとり居なくなっただけで、こんなにも暗くなってしまうのか。
ろくな掃除もされなくなったゴミステーションからは、こびり付いた汚れが長雨で浮き上がって、腐った臭いで空気が歪む。
いつもなら命の押し売りの様に耳に刺してくるセミの声が
今年はどう言う訳だか一声も聞こえてこない…。
…ゾクリ…
ちょっと遠回りしても、違う道を通ればよかった。
ゴミステーションの前に差し掛かった辺りでそう思った時…
「⁉️」
何か?聞こえる。
…ズ…ピシャ、…ズ…ビシャ、…ズ…
近づいてきている気がする。
目を凝らすと、暗闇の向こう側にぬらっとした何かが…居る。
…ズ…ピシャ、…ズ…ビシャ、…ズ…ピシャ
足音?
…ズ…ピシャ、…ズ…ビシャ、…ズ…ピシャ、…ズ…ビシャ、
脇道は無い。
ぬらっとした、大型犬ぐらいはありそうな“ソレ”は
一本しか無い道をゆっくりゆっくりと、私の方に近づいてくる。
もう避けられない。
なんとか、気付かれないようにやり過ごさなければ!
そう思った。
咄嗟に、ゴミステーションの影に身体を寄せて息を殺す。
臭いの事なんて言っていられない。
…ズ…ピシャ、…ズ…ビシャ、…ズ…ピシャ、…ズ
(早く!早く行って!) 目を閉じて足音が通り過ぎるのをジッと待つ…
… … … …
……(もう行った?) そおっと薄目を開けると
「‼️」
こちらを見上げる顔と目が合った。
「わぁ!」
「なんやエイ子かぁ、おかえりぃ〜。」
「おばあちゃん⁉️ なんで、ここにいんのぉ?」
「なんでってアンタ、明日はウチがゴミの当番やで鍵開けに来たんやが。」
祖父のこげ茶色の雨具と長靴を身に付けた祖母は、
ゴミステーションの錠前をガチャリっと開けて見せて「ほれ」と笑った。
「なんやぁ〜。」
「エイちゃんこそ、なんであんなとこに黙ってじぃ〜っと立ってるんにゃの、幽霊かと思っておとろしかったで(笑)」
それはこっちのセリフだ。と言いたい気持ちをグッと呑み込んで
私は祖母と自宅への道を歩いた。
大丈夫だって言うのに私のバッグを持って歩いてくれる、祖母の丸い背中を見ながら
(おばあちゃん、小さくなったなぁ。)
と少し寂しくなった。
「エイ子〜、」
「ん〜?」
「アンタ、なんかゴミ臭ェの?」
「えぇーっ!?」
“ 明日は私がゴミステーションの掃除に行こう。”
そう思った。
おしまい。
ありがとうございます!楽しく見て、読んで、愉しんでくださったら嬉しいです\(//∇//)\ 🔔出来るだけ気をつけていますがコメントへのお返事を頂いたのに気づけない事があるかもしれません。もしも失礼があったらごめんなさい😅💦