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家を一緒に「つくる」-天然住宅

「建築は第三の肌」

取材活動の傍ら、ずっと心のすみに置いてきたこの言葉を聞いたのは、10年以上前のこと。神奈川県にあるお寺・善了寺でした。お寺に併設されているデイサービスの取材で訪問したのです。(下記URL参照)
善了寺には、第二本堂・接待所・コミュニティスペースとしての場“思聞堂”があります。聞思堂の建築アドバイザーとして関わったのが「天然住宅」の当時の共同代表・相根昭典さん。相根さんが仰ったのが「建築は第三の皮膚」だったのです。
「天然住宅」の理念は“家づくりをとおして、人と森を守ること”だといいます。
5月下旬、取締役の早田之彦さんにお話を伺うことができました。

 (向田)わたしは記者として、様々なデイサービス、低額老人ホームから入居金がすこぶる高額な高級老人ホーム、あるいは古民家型の宅老所(のような施設)などを訪ね歩いているうちに、心地いい施設には共通項があることに気がづきました。古民家で、縁側、コの字型、ぼんぼり、障子がある…といったことです。さらに椅子の高さ、手すりのかたちなど、計算しこだわって設計された空間もあって、しだいに建築に興味がわき出しました。そんななか出会った「建築は第三の肌」(正確には、肌ではなく“皮膚”)という言葉は衝撃的で…。以来、建築のもつもの、建築が持ちうる可能性のようなものについてとても関心が深くなっていったんです。その後、子どもを出産し、母乳育児を試みるものの、母乳がうまく出せず、相談に行った先で食について見直しをするように指摘され、オーガニック、自然食についても学んだりしたんです。記者としての性格上、調べるほどに、心地いい空間だとか、オーガニックなものなど、それらは“全部つながっている”と感じるようになりました。
 
(早田さん)そうですね。「建築(住宅)は第三の皮膚」であるとは、オーストリア人のフンデルトヴァッサーが言い始めた言葉で、第一が自分の皮膚、第二が衣服、第三が建築(住宅)なのですが、続きがあるんですよ。


フンデルトヴァッサーの手掛けた建築の一例
彼について調べると、興味深いことがたくさん。実際に手掛けた建築を観てみたくなりました!「フンデルトヴァッサーは直線、直角、均一な床、そして無菌、均一に並ぶ窓の間隔は人間性と合致せず、人間の体質にさえ害を及ぼす要素であると確信していました」だそう。オーストリア政府観光局公式サイトより


 ―え、続きが?
 
 第四が社会環境、第五が地球環境です。全部、循環しているんですよ。恐ろしいほどにつながっています。デイサービスなり古民家で障子があって…という場所が落ち着くと言われましたけど、目で見えるところはそうですけど、見えないところで言えば、要はシックハウス、空気質の話になりますが、一見豪華な高級老人ホームは、シックハウスになってしまっていることが多いと思います。“汚れがつきにくい”とは化学物質を使っているということ。古民家でも、リフォームしている場合、合板そのものもそうですが有害化学物質が含まれているケースもあると思いますけど、高級老人ホームよりはその使用が少ないかと。そういうものも相まって「落ち着く」というのがあると思います。
 
 あー、なるほど!ところで早田さんは、天然住宅でのお仕事は長いとお見受けしますが、もともとどのような経緯で、そのような思考に至ったのですか?

早田さん。西東京市内にある天然住宅のオフィスにてお話を伺いました。オフィスも心地いい空間です。

化学物質過敏症の存在を知って


 若い頃はごく普通の設計士で、デザインや機能性優先の設計をしていました。有害物質や建材に使われている物質については無知でした。1990年ごろ「合板に含まれるホルムアムデヒドによって身体が影響を受ける可能性がある」と書かれた小さな新聞記事のことだけはずっと覚えてましたけど、覚えていただけ。その先を知ろうとはしませんでした。
 ただ、1995年頃から化学物質過敏症の方の存在を知り、その方たちの住宅設計をし始めました。否応でも意識せざるを得なくなったわけです。2003年に国が「シックハウス法」を整備しました。これは、クロルピリボスとホルムアルデヒドの、使用できる化学物質制限をかけた法律で、クロルピリボスは禁止されましたが、ホルムアルデヒドは使用量を少なくしていこうというものです。
 揮発性有害化学物質は、それらを含む空気を呼吸し、肺から血管を巡るため、神経系に影響を与えてしまうんです。厚労省が、シックハウス法より前に規制対象とした13化学物質を発表しましたが、シックハウス法での対象は2化学物質のみ。「シックハウス」という言葉を認知させた功績はあるのですが、逆に免罪符になってしまっているという面もあります。現実はもっと深刻です。
 
ここで、早田さんは2冊の本を見せてくださいました。反農薬グループ、化学物質過敏症患者の会という団体が出している、化学物質と過敏症について書かれたもの。

エンドユーザーと社会


 これらの本のイラストは少し不気味で、内容はすごく怖い。で、化学物質過敏症の方々にも直接たくさんお会いしました。そういった方々は日常生活が厳しい。なんでこういうことになってしまったんだろうって。結局、新建材は…もともとは、高度経済成長期以降の大量生産・大量消費で、食材もそうですけど、腐りにくくするために防腐剤を使ったり、保存料を使ったりしますけど、それが建材にも使われていった。食は分かりやすいですけどね。市民運動も起きて規制もできて。でも、建築は対処が遅れた。過敏症の方が現れてようやくわかったこと。そこで社会というものが出てくるわけです。社会がそれを求めた。もともとはエンドユーザー(社会)が求めてきたことに建築側(社会)が応えた。
 
―求められなければつくらない。
 
 はい。家も同じなんですね。昔は、古民家が当たり前だった頃は、山から木を伐る人、加工する人もみんながつながっていて、みんなで家をつくるという感じでしたが、今は商品を買うような感じ。「家を買う」ことは「自動車を買う」と同じような感覚。だからクレームをつける人が多くなった。自動車は工場で完全な管理もされていますけど、住宅というのは手作りなんですよ。プレハブリケーション化で工場で大部分をつくり、現場では組み立てるだけというつくり方も多くなっていますが、それも合理化を求めた結果です。床鳴りがするなどのクレームに対応するためです。それらの建築に使われる床用合板や構造用合板は反ったり狂ったりしないんですね。建築法の構造基準も簡単に満たせる。たくさん使われていますが、有害な接着剤も大量に使われています。

建材+施工法の副作用


 建築側からすると、クレームに対応するために、エンドユーザーに必死に答えてきただけ。一方で、有害化学物質が揮発化して、住んでいる人がダメージを受けてしまう。いわゆる副作用。耐性菌とかありますよね。耐性菌が出てきたらそれを抑える薬を開発して。でもまたそれに耐える菌が出てきて…という悪循環。薬には副作用がありますが建材も同じなんです。
 各行程が全てぶつ切り。今は、国産材が見直されてきて変わってきている部分もありますけども、かつては輸入材のほうが全然安かった。東南アジアの森林を皆伐して、運搬ではCo 2をたくさん出して。丸太などの輸入材は港に着いた時に、防疫上、燻蒸処理しないといけないんです。
 
―輸入バナナと一緒ですね。
 
 そうです。そういった処理をしないと木材を輸入することが出来ないのですが、処理する過程で有害化学物質が使われる。食品も、輸入される小麦にはポストハーベストで農薬が使われていて、同じようなこと。食は少しは見直されましたけど建築はそのままなんですね。
 厚労省の規制対象になっている13化学物質についても、もっと対象が増えるだろうって言われていましたけど、全て禁止してしまうと産業(経済)が成り立たない。化学物質にまつわる仕事をしている人たちの生活が成り立たなくなってしまう。
 シックハウス法ではホルムアルデヒドも“使用量を少なくしましょう”と言われているだけで、禁止にはなっていません。モグラたたきのようなもので、代わりになるものが使用されて。ノンホルムアムデヒド、とか低ホルムアムデヒドなどと表示されますが、安全なものではないと思います。

結局、シンプル

 天然住宅の施工事例 サイトを見ると、どの住宅も、本当に住み心地が良さそうです。

 野菜についても同じですよね。大量の肥料と農薬を使って育てられた野菜は弱い。自分の力で生きていかなくて良いからです。だから放置しておけば腐る。自然農で育った野菜は、土はいい土でなければいけないですけど、野菜は自分で養分をとっていかなければならないので、根を伸ばす。そうすると強い野菜になります。虫にも強くなるし、そうした野菜はあまり変形もしない。たとえば人参なんかは、輪切りにしても芯がちゃんと中心にある。断面がすごくきれいなんです。腐敗しないで発酵していく。そういう摂理ですよね。建築も結局、すごくシンプルな話。自然な感じにしたいんです。ただそれだけ。余計なものは使わない。言葉で言うのは簡単ですけど、流通システムなどのこともあり、難しい。一般の工務店にしてみれば「なんで悪いの?」ですよね。国がOKと言っているのに。日本は先進国のなかでは森がたくさんある国です。伐採し、活用し、植林して、Co2を固定化できる。まさに循環維持していける自然資源資源があるんですよね。林業は跡継ぎもおらず、木を伐り出せば赤字になる現状です。切り出してから建築までの行程が分業で、中間業者を通すため、買いたたかれてしまうような仕組みです。

林産地と直接提携

宮城県にある、くりこまくんえん(上下)

 私たちが提携している栗駒(くりこまくんえん・宮城県にある木材会社)は、自分たちで植林し、管理し、木を伐り乾燥させ、製材・加工している会社です。実は乾燥技術も非常に大切。でも、一般的には大量生産・消費がベースにありますから、早く乾燥させたい。そのほうが経費もかからない。高温で無理やり乾燥させているんです。含水率を落とすというのが至上命令。数値だけが独り歩きしていて。でも、実は極端な言い方ですけど、木がミイラになっている状態なんです。外見はきれいですが、中は細かい割れがありがち。栗駒は60℃くらいの低温でくんえん乾燥させて、その後自然乾燥させています。一般的に、昔はそれこそ天日干し。でもそれでは時間がかかってしまい、大量生産・消費の思考に合いません。さらに生産したものにカビが生えると商品にならないため、防カビ剤が使われる。エンドユーザーが求めたゆえですけど、生産側もそれに応えてきたわけです。栗駒は燻煙乾燥の技術を研究、開発し完成させています。燻煙乾燥すると防腐・防虫効果があり、杉の強度があがり、反りにくくなる。杉は一番植林されている木ですが「建材として十分に使えるよう、もっと有効利用しよう」というのが始まりです。“新建材”と言われるものはそもそもプラスチックに近く、使用量も問題ですが、解体・廃棄するときも問題があります。私たちは安全な建材で家をつくりますが「作ったら長持ちさせる」。それが天然住宅の指針です。長持ちさせるためにどういう技術を使うのか、技術には自然の摂理に従った「穏やかな技術」とそうではない「力づくの技術」があって、抽象的な言い方ですけど“力づくの技術をなるべく使わない”。 

電磁波による身体の影響

天然住宅の家 内部(一例)木のあたたかさで満ちています

 実は、建材の有害物質だけでなく、電気の問題、電場、電磁波の影響も非常にあるんです。昔の建物が気持ちいいのは、有害化学物質がほぼ無いということと、あまり電気を使っていないからなんですよ。昭和初期のころは、一つの部屋にコンセントなんて一つあればいいくらい。照明も真ん中にひとつ。そうすると配線が断然、少なくなります。それに比べて現在の住宅は照明、コンセントが多くなり、配線が非常に長くなっています。つまり交流電流が流れることで電場(電界ともいいます)が発生していることになるので、特に2階の床で、床下に配線がいっぱい通っているところに長い時間寝っ転がったりしていると帯電している状態になるんですね。何が問題になってくるかというと、人間は、神経の伝達というのが電気仕掛けのロボットみたいなもので、電流を通して動いているわけです。そこに余計なプラスやマイナスの電気の影響を受けてしまう。かつて「(電車の中で)優先席付近では携帯電話の電源をお切りください」ってアナウンスがありましたよね。電波によって心臓ペースメーカーに影響を与えるからと。あれと同じようなことが生身の人間にも起こり得る。頭が重いとか、神経系に影響が出るんですね。古い家が心地いいとか、変な感じがしないというのは、そういうところにも要因があると思いますね。

なるべく自然に

―住宅って見えないところが多すぎて、何でもできてしまいますよね。ある意味食材以上に…。

 一般的には、「ごまかしてる」と思っていないですし、逆に例えば、構造的には、補強したり“良くしてる”と思ってしまいます。建築基準法、つまり法律によって正当化され、根拠になってしまう。私たちは「問題がある」と動き始めましたけど、はじめに障壁になったのは法律です。使う建材は基本的に公的な認定をとっているものしか使えません。漆喰はもともと原料が自然の材料なので問題ありませんが、安全なクロスを開発しても、「準不燃」等の認定をとらないとなかなか使えない。認定をとるのに、実験もしますし、資金もいります。
 タイルひとつとっても、タイル自体には問題ないのですが、何でタイルを張り付けるか。昔ながらのモルタル張りならいいのですが、接着剤を使うことが多いです。その接着剤が問題なわけですが、細かいところを挙げていくとキリがありません。要は、有害なものは極力使用しないということです。
 
―確かに。DIYも流行りですが、使う材料が問題なこともあるということですよね。でも、そういったことを一般の人は知らなすぎる。国が良いと言っているんだからいいでしょ、の理論でここまできてしまった。私たちはそれ以上、問うことをせずにここまできてしまいました。
 
 私自身もかつては、国が決めることだから問題ないだろうって。
 
ー最近は、SDGsもしかり。オーガニックなど、興味関心を持つ人が増えてきて、変化もあります。
 
 そうですね。でも、実生活で100%そういったものを実践するのは難しいと感じる時は、できるところから少しずつ。衣服でも化繊ではなく、なるべく綿、麻のものを選んだり。

体感

ーマスクで言えば、不織布のものより布マスクのほうが断然付け心地がいいです。
 
 体感って正しいんですよね。「ちょっとこれ…」と感じたときはなんかあるということなのでしょうね。私も、自然素材で家づくりをするようになって、「ここは早く出なきゃな」と感じる建物もあります。
 かつては、化学物質過敏症であっても、建材にこだわる会社は少なかったので、相談できるところが少なかった。女性が過敏症になっているケースが多かったのですが、共働きも少ない時代だと、専業主婦で自宅で長く過ごしますから。感受性も男性と女性で異なります。女性は身体に正直で、男性はどうしても左脳で考えてしまう。「そういうのは本に書いてないし」って。でも実は職場で、男性も有害化学物質の影響を受けているかもしれません。
 小学生のアトピーの比率もすごく高くなっています。食べ物が原因であることも大きいのでしょうけど、家の環境も影響しているかなと思いますし、学校の建築が問題だった実例もあります。
 
―そういったことの発信について、天然住宅として何か考えられていることはあるのでしょうか?ホームページの「建て主のコラム」は面白いです。
 
 ただそこに極端に特化してしまうと、エンドユーザーがひいてしまうので、やはりまずは気持ちいい家。気持ちよくて、デザインもよくて。結果的に天然住宅って、有害化学物質の問題に取り組み、環境にも良いことをしていると気づいてもらえればいいかな、というスタンスです。
 現代は住宅の性能、気密性、UA値(外皮平均熱貫流率)などが求められているので、数値をクリアするために様々な建材が使われますが、天然住宅では、そこも安全な建材と“穏やかな技術”で達成する努力をしています。そして『建て主のコラム』のように、建主様が「住んでみたら気持ちよくて良かった!」、さらにこういう対応(建材などのこと)も「きちんとしているんだね」と“共感”してもらえれば、それが一番発信になると思います。

山に行く 木を刈る

 僕らは建て主さんに、提携している栗駒の山へ行き、住宅に使う木を伐採してもらいます。そうすると愛着がまるで変わります。シミュレーションでなくて実際に触って、山の空気を感じる。言葉が適切かわかりませんが、木という生き物の”生命をいただく”というありがたみを実感できるんです。さらに商品として木材があるのではなく「あの人がここで作ってるんだ」っていうのとは全然違います。建物は長持ちするように作っていますけど、使う側面が非常に重要なので、愛着をもってもらうことはとても大切。

一緒につくる

 ―違いますよね。私たちは家というものを、商品というか…そういう風に見すぎてしまっているんだなと感じました。
 
 商品として見るからクレーがいっぱい出てしまう。たとえば車は資金もかけ、工場で厳重に管理され、完成品が市場に出ます。家は職人さんがたくさん集まって作りますから、どうしても誤差もでる。車に求めることを家に求めることが、家がプラスチック化されていく原動力になってしまう。僕らは「家を買う」って表現をあまりしていなくて「一緒に創りましょう」なんです。
 
―買うじゃなくて、一緒につくる。全然違いますね。つくる、なら知ろうとしますし。調べようともする。
 
 はい。
 
―「家をつくる」とは、すり合わせや対話がとても大切ですし、建築って、いろんなプロセスがあっていろんな「する」があるんですね。
 
 色んな人が関わっています。生産者、加工業者、現場に入れば大工さん、電気設備屋さん…いろんな人の複合でできているんですよね。
 人には事情がありますし、僕らのやり方はエネルギーがかかることなので、ケースバイケースにはなるのですが、今のところはありがたいことに、そういうことを楽しまれる方が多いですね。
 もうひとつ、私たちは「予防医学的な家」という表現をしています。日本の予算にかける医療費はどんどん増えている。結果的に健康的な家に暮らすことが医療費の節約になっていく。有害物のリスクを少なくしていくことが重要です。丸ごとゴロっと変えるのは難しいですから「できることからやっていく」に尽きるんですね。子どもたちの未来に、負債を出来るだけ残さないために。

未来に向けて

取材後、早田さんとこの記事についてやりとりをしていて、「未来に向けて大事な事なので引用し、最後の言葉とさせて頂ければと思います」と早田さんから連絡がありました。その最後の言葉とは…

天然住宅のオフィスにかかっていたカーテン。自然素材のもの。

 天然住宅の理念は、「人と森を守ること」、「家づくりを通して持続可能な社会を実現する」です。つまり、天然住宅で「家をつくる」ということは…

豊かに、健やかに暮らしていくために大切にしていることがあります。化学物質をなるべく避けること。日本の森から生まれた木を使うこと。あなたが、家を建てるということは、森を育み、森に生きる人をささえ、こどもたちに森を残すことです。

(天然住宅HPー「天然住宅とは」より)


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