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出会う、集う、繋がる交差点ーUME House 尾道市浦崎町

広島県尾道市の飛び地・浦崎町に、向島出身の髙橋真理子(55)さんが2021 年5 月に開設した「UME House」。子どもたちの居場所であって、でもそれだけじゃなくて…。

  浦崎町の人口はおよそ3,000人。JRの最寄り駅から車で15ほど。尾道市中心から離れているために海や山が近く、静かな町です。
 UME Houseは真理子さんの夫・一朗さん(66)の空き家だった実家を利用。地域住民、大学生や子どもたちとともに、リノベーションを進め完成しました。

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 10月7日、16時前、一朗さんが最寄り駅まで車で迎えに来てくださり、私はUME Houseに到着します。
 玄関には白いスニーカーが何足も。棚にはいくつものランドセルが。机に座り、宿題をしている子どもたちの姿がありました。ボランティアの女性が宿題を見守っており、そこに一朗さんも加わります。

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 掘りごたつのある和室では男の子数人が宿題をしているのか、遊んでいるのか…(笑)。
 「宿題、終わったの~?」
 「ほら、(掘りごたつのなかに)潜ってないで、宿題やりなさい」
 と真理子さん。

 間もなくして、「先生っ!終わった!遊んでもいい?」
外に出て遊びたい男の子たち。
 一朗さんが“見守り役”で外に出ていきました。

 こんな雰囲気で、わいわい、にぎやかです。

 真理子さんの活動「UMEプロジェクト」とは

  真理子さんは保育士・幼稚園教諭の資格を持ち、長年、小学生の学童保育に携わる仕事を東京でしてきました。転機は2018年。真理子さんのお母さんが倒れてしまい、介護が必要になった時でした。退職した真理子さんはいったん浦崎へ戻りますが、東京での仕事もあったため、浦崎町と東京の二拠点生活。尾道市・福山市―地方の保育・教育・医療の実態を知り、愕然としたといいます。

 一方、浦崎町では有志住民によるまちの現状課題や今後の在り方を考える会が2019年11月から複数回、開催されてきました。行政や社協、公民館長、各地区の民生委員らが参加しています。真理子さんのお誘いを受け、私は2020年7月に開かれた会に参加したのでした。

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(2020年7月に開かれた会の様子)

 「(浦崎は)少子高齢化が著しく、特に就学時の支援や環境に課題があると感じました。私は“子どもが主体”と常に考え、学童保育に携わってきました。地域のなかで子どもが育っていけば、地域を元気にしてくれる存在になるんです。その循環をつくりたい。子どもを元気にすることが地域も活性化させることにつながる。子どもは高齢者を手助けしてくれる。それが地域共生。地域を知っていることが防災にもなるんです」。

 真理子さんは会の後、こう話していました。

 若者はどんどん都会へ流出していってしまう。そのまま就職・結婚し、町には帰ってこない現実。そんな現実を打破しようと動き出した真理子さん。

・Urashima 浦崎地区(浦崎町・福山市沼隈町・藤江町・金江町・内海町など)の住民が一体となって
・Mirai 地域の未来を担う子どもたちの健全な育成とともに
・E-jyan みんなが笑顔で毎日を楽しみながら暮らし続けることができるように

 「UMEプロジェクト」には、こんな思いが込められています。

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 子ども食堂、学習支援、子どもの居場所づくりといったプロジェクトの具体的な活動のための拠点が「UME House」。

 UME Houseは“空き家再生事業”として、まちづくりや建築を研究分野とする福山市立大学の根本修平准教授と研究室の学生が家の傷み具合を調査したり、改修計画を進めるなどの活動に参加しています。

うらしま塾、オープニング、お店屋さん…と続いて

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 UME Houseに先行して2020年6月に始まったのが「うらしま塾」です。
地域の大人それぞれの“得意”が活かされ、子どもたちが楽しく過ごし、面白い学びの場になればと、地域の公民館の一室で、スタートしました。
 “学習で遊ぼう”“学校で教えてくれることがわかるようになる知恵袋”。

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 2020年10月には空き家の片づけが開始されます。助成金を申請し、就労支援B型の事業所の人たちに定期的に来てもらい、片付けの作業を進めていきました。

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 年明けに、棟梁といった職人、高校生や大学生も入り、一緒に作業を。3月には2日間のワークショップを行い、小学生にも壁塗り体験をしてもらうなど、様々な人たちがUME House完成までに関わることになりました。

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(大学生の設計も活かされているUME HOUSE内部)

 そして5月1日、オープニングを迎え、GW明けに本格始動したのです。
 現在、多い時で24人ほどが訪れ、宿題をしたり、各々の時間を過ごしているといいます。延べ人数280人/月という数字が“みんなの場所”であることを伝えています。

 開設からわずか3か月後の7月31日、一大イベントが開かれました。“お店屋さんごっこ”です。地域住民、大学生や高校生も参加、協力もあって、イベントは大成功。
 「屋台は地域の人たちの手作りで、公民館の机やいすもみんなで運び出して。めっちゃ大変だったんですけど、めっちゃ楽しい!!っていう…。もうね、この子たちの笑顔が最高でしょう」

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 真理子さんが見せてくださったアルバム。実に楽しそうな表情をしている子どもたちがあちらこちらに写っていました。

子どもたちの変化 

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 「あ、みゆ。見てもらった?算数」
 と真理子さん。
 常に子どもたちを気にかけながら、声もかけながら…。

「放課後クラブに行ってもいいし、ここは登録制でもないので、出入り自由なんですけど、親御さんたちにアンケートをとって、フィードバックもして、今は1回の利用につき100円を頂いてはいるんです」

 開放されているのは月曜日から土曜日まで。サービス業などに就労している場合、土曜日が仕事のあるお母さんも多いため、開けているそうです。お弁当を持って、子どもたちがやってきます。真理子さんは、生活の場を、完全に浦崎町に移してから、日中は小学校で学校教育サポーターとして仕事をしています。

 「大人がしっかり寄り添うことで、出来ることが本当に増えます。成長を目のあたりにするんですよ。半年でこんなにもできるようになるんだって。具体的にですか?たとえば、字がとてもきれいに書けるようになったとか。音読が小さい声だったのが、丁寧に大きな声ではっきり自信をもって読めるようになったとか。“担任の先生にすごいって言われたよー。髙橋先生のおかげ”なんて言ってくれて」

 窓をのぞくと、地域の人が犬を連れて目の前の道を散歩しています。つかさず犬の方向に寄っていく子どもたち。真理子さんは言っていました。

 「“子どもの元気な声がいいね”って地域の人たちが喜んでくれているんです。地域の高齢者もここを訪ねてくれますし、得意なことがあれば子どもたちに教えてくれたりしますから」

 ここで、“飴くださーい”と子どもたちが真理子さんのもとにやって来ます。

 「どうぞー」
 「宿題、終わったの?」
 「終わりました~」
 「はやと!これで〇がつくんかい?」

 子どもたちと真理子さんのやりとりは真っすぐ、ハッキリしています。

子どもたちが健やかに育つ先にこそ、
地域は光り出す

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(UME House前の水路には、魚やザリガニなど生き物が生息。ザリガニ釣れるかな…)

 事務作業スペース近くの壁には“やることリスト”が貼られていました。企業との打ち合わせ、オンラインミーティング…。真理子さん、忙しそうです。

 「今度、無印良品(良品計画)と地元のタクシー会社と連携して、今度移動販売をするんです。浦崎町には文房具屋も本屋もありませんから、無印が来るって話をしたら、民生委員さんも子どもたちもわ~って盛り上がって、笑」

 そのほか、著名なデザイナーや首都圏の大学が絡んでのプロジェクト計画が進んでいる模様です。

 「小学生のときにどれだけ体験や経験を積めるか。多様な人材と関われるかということは、とても大事ですよね。地域を担うのは、この子らなのですから。子どもが発見すること。子どもたちが自ら考えて、発信してほしい。行動してほしい。子ども目線でコトを起こしていきたいんです」

 ボランティアの女性が「プライベートと一体化してるよね、真理子さんは」と言います。
  
 本当に。唯一の休日も、介護などがあって、多忙な日々。真理子さんの原動力が非常に気になりますが、「子どもたちの楽しそうな顔、たまらないでしょう!!」との一言に、すべてが集約されているように私は感じました。

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(庭先で子どもたちとミニトマトの収穫。奥の男性が一朗さん)

 UME House最大のスポンサー、真理子さんを支える一朗さんの存在も欠かせません。

 さて、日が傾き始めて、次々とお母さんたちが子どもを迎えにやってきます。

 「はい。これ」と、車に乗ろうとする子供にお菓子を手渡す真理子さん。
  「最近、おやつを欲しがらないくらい、遊んでいる男の子が多いんですよ」
 汚れた制服姿を見て、あるお母さんが「よく遊んだんだね」とポロっと言葉がこぼれます。
 "汚して~!"と注意するのではなく"よく遊んだんだね"。お母さんの嬉しい気持ちが混じっています。

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 「これね、地域の人の手作りなんですよ」と一朗さん。看板も、玄関先に置かれている時計も、地域の人たちの手作りです。

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 真理子さんがUMEプロジェクトについて地域の人たちに説明すると 「そりゃー、ええことじゃ。子どもたちや親を支えていける、システム構築。わしらに、私らに出来ることがあるならなんぼでも協力するでぇ!」と返ってきたといいます。

 「浦崎のおじいちゃん、おばあちゃんの力はすごいです。教育には力を入れてきたまちだと聞いてきましたが、単に頭がいいではなくて聡明な方が多いんです」との真理子さんの言葉を思い出します。

斜めの関係

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(真理子さん)子どもたちの抱える課題を先生や親御さんたちと共有することを大切にしています。私たちみたいな斜めの関係だからこそ、子どもは一番サインを出してくる。そのサインを出すときにどうつながるかですよね。教員の質も重要です。関わる大人の質によって、子どもには雲泥の差が出てしまうもの。都会はお金でほとんどのことが解決でき、どうにかなるところもありますが、地方は経済が回っておらず余裕がありません。また、話を聞いていると、親世代に、“大人になっていない大人”が多いなと感じるんです。子育てに悩みのある人たちは、周囲の一言に右往左往してしまう。大したことじゃないのに、どうしたらいいんだろうって。世の中は思い通りにならないことが多々あります。そこでどう折り合いをつけるかということをお母さんたちに伝えなければならないんですね。だって、お母さんがどう生きるかを子どもは見ているのですから。そこから学んでいるんです。“これでいいんだ”ってことをお母さんにも子どもにも伝えていきたいと思います。

(筆者)さきほど、房子さん※と「承認されないと不安に陥る人たちが増えている」というような話をしていたんですけど、なかなか自分のしていることに自信が持てない。肯定できない。SNSの“いいね”ボタンは簡単に押せても、自分に“いいね”を出すことができない世の中なのかもしれませんね。

※房子さん…尾道市向島で私設図書館「さんさん舎」を主宰している瀬戸房子さん。この日、瀬戸房子さんに私はお会いしてから、浦崎町を訪ねていました。

(真理子さん)そうですね。子どもの居場所という表現をしていますけど、居場所というのは心のありよう。UME Houseはそこに気づくための空間であって、機会でもあるんです。子どもたちの姿が答えですから。学童のスタッフをしてきた地域の人が言ってくれたんです。“(ここは)信頼関係ができあがってるね。無条件に自分を出してる”って。嬉しいですよね。

 UME Houseで、いじめが起きてしまったときがありました。真理子さんはビシッと叱ったといいます。

 一朗さんからは“言い過ぎじゃない?”と言われたんですけど、(叱られてもここに)来る・来ないはその子の意志。子どもは分かっているんですよ。感情任せて叱っているか、本気なのかということを。子どもには見抜く力がある。だから私も体当たりするんです。どれだけ怒鳴られても叱られても、子どもたちは来る。それもね、これまでの経験で分かっているからできること。私自身が子どもたちとの関係性を築いていけるって思えるから、この姿勢を貫けるんです。
 都会に比べると子どもたちの居場所が少ないです。だから立ち上がる。私にできることはしていく。子どもは力がある。失敗してもいいからやってごらんって伝えたいんです。だから本当に“お店屋さんごっこ”には胸がつまりました。値段決め、値札付けも自分たちでやって…。子どもたちほどクリエイティブな存在はいません。3か月で、自分たちでやり抜けた。地の力というか底力というか。小洒落てなくていいんです。子どもたちの生き生きした表情がすべて語っているんですよ。だから(敷地にある空いている)倉庫も、後々は『雨が降っても遊べる場』にと思っていますが、この間“先生、倉庫はいついじるの?”って言われたんです。“自分たちで考えてよ”って返しました。それが自分たちの力になるのだから。高校生・大学生や大人がサポートしてくれるから。

大人や地域が子どもに対して、できること。

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 どうして、子どもの数が減る一方なのだろう?
 地域に子どもたち(若い人たち)が帰ってこないのはなぜだろう?

 CSRだとか、SDGsだとか。企業CMでは「持続可能」目線でつくられているものもよく見かけるようになりました。取り組み自体は大切だけども、違和感があります。企業のイメージアップ、売り上げアップのため、という”強目的”から抜けていないような気がして。本質、違うことない?って。

 はっぴーの家ろっけんの代表・首藤さん(※)が言っていたような「いやいや。遠くでなくて、目の前にあるでしょ!!」ということなのだろうなとも思うんです。

※「教育事業というすごくいいコンテンツが生まれたから、それを事業のなかで子どもたちが扱っていってお金を投資していくというのを、そもそも学びにしてしまおうと。それはリアルに言うとSDGsなのかもしれないけど、あんまりSDGsって言ってない。これをやっている人ってあんまりリアルじゃないんよな。学生で「私、SDGs勉強していて…」って言うけど、じゃあ例えばどんなの?って聞くと、「カンボジアの…」とか「アフリカの…」とか。いやいや、身の回りに社会課題はないんかい?って」
―2020年10月 首藤さんへのインタビューの一コマ。記事は下記URLです。

 小さな笑顔をたくさん導いていけば、地域も生き生きしだす。

 「子どもは街の力だ」(ー象設計集団『空間に恋して』)

 こう言える地域があったら、今すぐに飛んでいきたい。

 何が健やかなのか。

 元気よく、子どもたちが過ごしていること。遊んでいること。学んでいること。
 時に喧嘩したり、嫌なことがあっても、やがてまた笑っている。

 こういう場が、日常にあること。
 そんな日常がある風景を大人がつくる。支えられる。
 私たちの大事な“役割”なのかもしれません。

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