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風景をつくる”農”ーくぼさんのとうふ 久保さんのまなざし

 物書き傍ら、無農薬野菜やオーガニック商品を扱うお店のスタッフをしているとは今まで何度か書いてきました。
 私が食に深い関心を抱くようになったきっかけは6年前。母乳が上手く出せなかったから。民間の相談所に行き、食の大切さを説かれたのです。
 もともと記者なので、調べることは得意。添加物のこと、遺伝子組み換えのこと、農薬のこと。マクロビオティック、ビーガン…現在はそうではありませんが、乳製品や肉類を極力食べないようにしていた時期もあります。いずれにせよ、食の世界は深くて、切り口がいくらでもあって…。家の食材や子どものおやつなどは、なるべく無添加のものを選択していますが、限界もあります。時にゆるく、折り合いをつけて…。

看過できなくなった

 さて、娘の小学校入学説明会が行われたときのこと。その日の学校給食で使われた食材の「詳細献立表」の資料が添付されていました。アレルギーなどで細かな情報が必要な場合はこういうものをお渡しします、と。

 食品名:こいくちしょうゆ:脱脂加工大豆(遺伝子組み換えでない)、食塩、小麦、大豆、アルコール/冷凍豆腐 鉄強化:豆乳、でんぷん、トレハロース、豆腐用凝固剤、酸化防止剤、ピロリン酸第二鉄、/かまぼこ:魚肉(すけそうだら、その他)、澱粉(馬鈴薯澱粉、タピオカ)トレハロース、食塩、保存料(ソルビン酸)、酸味料(アミノ酸等)、甘味料(ステビア)、着色料(赤10)

…というような具合に。

“あかんやん、コレ”

見たくなかったものを見てしまった…

見過ごしたくないけど、どうしたらいい?
胸がざわつき始めました。

知ること、聞くこと、考えること:対話へ

 変化せざるを得ない日常で、SNS、zoomを通して人との交流を楽しんだ方は多かったと思います。同じ思いを持つ人とつながることが容易になりました。私自身、憧れだった人とzoomで直接話が出来た機会が幾つもありました。

 「香川で環境保全と学校給食を考える会」という存在を知ったのはフェイスブック上で。香川で無添加で安心な豆腐づくりをしている久保食品の代表・久保隆則さん(69)が会のメンバーになっていることに気づいたのは、春先でした。

「くぼさんのとうふ」の原材料は次の通り。

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水・国産大豆・米糠・凝固剤(粗製海水塩化マグネシウム)

一方、ドラッグストアなどで売られているような1丁39円の豆腐の原材料は…

大豆(遺伝子組み換えではい)/凝固剤(塩化マグネシウム)/消泡剤(グリセリン脂肪酸エステル、炭酸カルシウム、レシチン(大豆由来)、シリコーン樹脂)

 原材料は使用料が多い順に明記されるということからすると、”くぼさんのとうふ”では「水」が初めに明記されていて…改めて、豆腐作りへの真摯な姿勢を感じるのです。口に入れたら、”くぼさんのとうふ”の美味しさはスッと分かります。

 現代生活では、食をきちんと味わうことが意外とできていないもの。味わうより、掻き込む感じ。とりあえずのエネルギー補給としての食事になってしまっていて。

 時々でいいから、丁寧にゆっくり食事をしたい。自分の気持ちがあたたかくなるのを感じたい。その部分を満たしてくれるのは、きちんと作られた食材を使った一皿から始まっている。

 “あぁ、美味しかったぁ”と心から言える。“また、食べたい”と素直に思う。そう感じられるお店を時々訪ねるのもいいし、自分で料理をするならば、そこにつながる食材を選びたいと思うのです。

 だって、豊かだもの。

 久保さんの考えを伺ってみたい…。

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 お店のある宇多津町を訪ねました。

契機

久保さん

 久保さんは25歳の時に家業を継いだ2代目。継いだ当時は、外国産大豆に消泡剤も使った、ごく一般的な豆腐づくり。「中国産のにがりを使い、大豆も…」。転機は30歳、淡路島モンキーセンターでの奇形猿の写真に衝撃を受けたことでした。なぜ奇形のサルが生まれたのか。原因はその飼料。外国産小麦や大豆に使われているポストハーベストという農薬。久保さんは実際に奇形猿を見に行ったといいます。
 「ショックでした」
 農薬はもちろん、周囲の食材に使われている様々な添加物についても調べ始め、今までと同じ豆腐作りを続けることができなくなり、原材料を変える決意をした久保さん。

―周囲の理解はどうやって得られたのでしょう。

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(久保さん)10年かかりました。経営しながら、従業員さんもいる。いっぺんに全てを変えることはできませんでしたね。国産大豆に切り替えて添加物を抜いていく。消泡剤をなくすことについては、昔のやり方を学ぶ…色んな文献を読んだけれども、消泡剤が出来るまではお豆腐屋さんというのはやっぱり泡との闘いでした。消泡剤は、父の時にはすでにありました。昔のやり方は…100年前ね。沖縄では豚の油を使って。山陰のほうは椿の油。圧倒的に多かったのが米ぬか。そこで見様見まねですけど、米ぬかを使ってみた。すると出来たんですよ。それらに一致しているのは“油”。米ぬかにも油分がありますね。油を使うことで泡の粒子を小さくする。そういう風にして泡を消すんじゃなくて抑える。抑えながら炊き上げる方法。そしたらね、美味しいんですよ。甘い・辛いとかではなくて…なんて言うんかな、ホッとするような美味しさなんよね。

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 次はにがり。もう40年のつきあいになるけどね、高知県に「土佐のあまみ」があります。完全天日の塩(あまみの塩)で、主は小島さんていう、塩が専売だった時代(※)から、塩づくりをされていた方。僕は会員になって、会費として毎年5000円を払って、お塩を頂く。売買は禁止されてたんですよ。専売法で。今、黒潮町には5,6軒お塩を作っている会社があるけども、みんなお弟子さん。小島さんが伊豆大島(※2)へ一年勉強に行かれて、ふるさとは高知だから地元でやろうって。

(※塩はかつて法律によって、伝統的だった塩田式の塩づくりが廃止。化学工業的な製塩法へ切り替わりましたが、消費者グループなどによって自然塩復活運動が始まり“自然海塩”が生まれた。現在市販されている塩の質は、3分類できるといいますミネラルをほとんど含まない超高純度の塩、自然海塩のもの、両者の中間の質のもの。※2 塩田式の塩づくりが廃止されていた時代、唯一自然海塩をつくることが許可されていたのが、伊豆大島での製塩=“海の精”。)

―小島さんのことは存じ上げないのですが、私が勤めるお店でも少し前からあまみの塩を導入し始めました。納品時に同封されている手紙がとにかく素敵で。小島さんの奥さまですよね。文章が美しくて、“うわぁ~”って。すごいご夫妻なのでしょうね。

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 奥さんは四日市出身で、四国に来る時に、自然農法を実践している福岡正信さんのところへ行っていたのね。そこから高知へ来て小島さんと知り合うのね。あの文面、いいでしょう。リンドバーグの『海からの贈り物』みたいで…

―はい。情景が浮かびますものね。

 小さな生き物の世界とかね…素晴らしいご夫妻ですよ。
 あまみのにがりは舐めたら美味しいの。普通は舐められるもんじゃないんですよ。中国のにがりなんて、ビリビリきてね。“あぁ、これはいい豆腐ができる”と思った。豆腐に合う濃度の調整は大変だったけども、人間の勘はすごい。舐めたら濃度がわかる。そういう五感は…人間のすごいところですよ。

―面白いですよね。娘、塩を欲しがる時があるんですよ。我が家ではもともとあまみの塩を使っています。質の良さはわかっているので「いいよー」と気軽に塩壺を渡せてしまう(笑)。自分で調整しているんだろうなと思います。甘いお菓子を摂ったあと、汗をかいた後とか、塩を欲しがりますから。

 そうだろうね。我々も動物だからね。

ナカセンナリという大豆
風景を生み出す“農”

 大豆はね、北海道から鹿児島までのこれというのは全部使いました。色んな大豆があるんですよ。「さとういらず」とか「ひでん」とかね。色々試していて、「コレは」と思ったのが長野県安曇野のナカセンナリという大豆。そのあとも色んな大豆を少しを購入して試してはいるんですけど、未だまだナカセンナリにはかなわない。

―どのあたりが?

 その大豆生産者さんと知り合ったのが大きかったですね。安曇野は寒冷地。雪はあまり降らないけども、寒暖差が激しい。食物は何でもそうですけど、寒暖差があるほうが美味しくなるって言いますね。
空気がいい、水がいい、土がいい、人がいい。
 味は人なりって言うけども、「作物だけつくってるんじゃない」って言うんですね。「景観を作っている」って。よく見ると、確かに綺麗なんですよ。風景が。なるほどなぁ…って。
 北海道のラベンダーが咲き誇る風景も同じですよね。農家の人がつくっている。農業って多目的な良さがあって。現実に悲しいのは、お金だけで比べていること。そういう合理じゃないんだけどね。

―はい。農業って、お金の物差しにはあてはまらない。つり合うわけがない。

 40年ほど前、経済学者が「食料は安い国から買えばよい」と日本農業不要論が出て経済界が同調した。そこから日本の食料自給率が下がっていった。当時、75%ほどあったのにね。(自給率が)年に1パーセント落ちている国は日本だけ。一方で、JAたじまの「コウノトリ育むお米」(※3)、酒造りをしたり、観光にも寄与して成功していますけど、ああいう発展の仕方、地域一丸となって…。日本的でいい。そういうことに気づいて欲しいね。

(※3 農薬に頼らない米作りを進めている兵庫県豊岡市。農薬などによって一時絶滅したコウノトリが再びこの地で生活できるような様々な取り組みが行われています)

 と、ここで久保さんの携帯電話が鳴りました。電話対応の間、私に例の奇形猿の写真集を見せてくれました。

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―これに衝撃を受けたわけですね…

 中橋実さんという方がおられて…亡くなったけど、克明に記録していたんです。最初は1952年大分県高崎山の猿に、人工的な餌付けをして3年後、奇形猿が生まれています。輸入大豆と輸入小麦をたくさん与えていた。「関係ない」と言う学者もいますけど、大きなけん引となったのは、ポストハーベスト農薬でしょうね。人間には二世代後に影響が出るんじゃないかと言われている。人間だって同じものを食べてますから。ニホンザルは雑食だしに近い。人間に一番近い。…ショックやったな。

―久保さんの考えもこの写真集で変わったんですものね。

 実際に、行って見てね…。そりゃあもう凄かったですよ。写真で驚いた以上にね。

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(上下:店内には、くぼさんの豆腐、土佐あまみの塩も加入している「良い食品づくりの会)の商品のほか、生活周りで安心できる商品が多数置かれています)

店内

―そこから10年かかって、原材料も見直していった。その過程は決して楽ではなかったですよね…

 大変だけどね、すごくやりがいがあった。色んな学びがあった。仕事のなかでこれが唯一の救い。ただ機械的にものをつくるのではなく、品質を追求していけるわけじゃないですか。職人の勘というのがそこで出てくるわけですけど、いろんな人に意見や話を聞きに行く。そこでは大きな学びがあるんです。

―具体的には

 Mさんという、徳島と高知の境でお豆腐屋さんしているところがあってね、石臼で大豆を挽いて、水車で石臼をまわす。そして地窯で炊くんですよ。その豆腐は高知から流れてきた食文化。高地には固い豆腐があるでしょう。長曾我部氏が朝鮮に行った。その時連れて帰った朝鮮人に作らせた豆腐がそれ。高知や徳島の固い豆腐は、朝鮮豆腐の名残りなんですよ。

―へぇ~!!

 その豆腐は非常に栄養価が高い。僕はMさんを訪ねて一緒に豆腐をつくりましたね、3、4回は。昔っからのやり方です。でね、できあがった豆腐を入れる水槽がないの。豆腐を板の上に転がしているんですよ。そこに近隣の人がやって来て、カゴのなかにお金をチャリンと入れて豆腐を持って帰る…

―すごい風景…

 おからは裏の山へ捨てる。するとイノシシやらが食べてくれる。もちろん農業もしているし、おからはたい肥にもなる。

―自給自足的な生活が可能だった…

 今で言う循環型農業だよね。素晴らしかったな。今も続いていたら…それはすごいものが出来たでしょうね。オートメーション化なんて一切興味なかったんです、私。今見ておかないとなくなってしまうような豆腐屋さんを探していた。ビデオなんかなかったけど、あの光景、録れていたらな。
強烈な印象はとにかくそこやね。水車で回して…ソフトクリームのようなものが出てくるんですよ。それをじわ~っと炊くわけ。そこに行くと大豆の香りがしてくるの。地窯のなにがいいかって、焦げるの。あの焦げた匂いがまたいいんです。わざとちょっと焦がす。おこげって言うでしょ。

ーよだれが出そうですね(笑)、食べてみたかったなぁ…。

 今ね、ちょっと立ち止まる必要がある。ゲノムまで行く必要が果たしてあるのかどうか。伝統に立ち返るほうがいいんじゃないかと思う。

―久保さん、HPのなかのコラム“民藝”と題したなかで河井寛次郎さんの言葉を挙げておられましたけど、私も好きなんです、民藝にまつわることが。『物買って来る。自分買って来る』という言葉など、すごいなって。民藝の良さ…何なのでしょうね、昔の…原点というか、消えない良さがある。現代に通じる話。本質でシンプル。それが今はなぜできなくなってしまったのか。

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 あれこそ利他の精神。今、ほとんどが利己ですよ。ある哲学者が面白いことを言っています。「温かいお金と冷たいお金がある」と。今、冷たいお金が流通している。

―確かに。そして実際、お客様の反応はどうだったんですか?値上げされて、離れたお客さんも…

 もちろんいましたよ。当時、大手スーパーとの付き合いもありました。国産大豆は値段が高いから豆腐も当然値上げする。すると「久保さん、取引やめますよ」って。「久保さん、つぶれんようにしてくださいね」って。「うちもイメージ産業ですから久保さんが倒産されたら、うちのイメージが悪くなる」と。そういうことも言われました。

一緒にやってきたわけだから?

 そうです。

―離れたお客さんがいる一方、大事なことに、味の違いに気づいたお客さんもいた

 その頃有難かったのは、地域に幾つか集団があったの。消費者集団が。「丸亀食べ物を考える会」とか、「土と自然の会」だとか。30人、40人の、そういった主婦の小さなグループが点在していた。そこからオリーブコープが出来て。そういう人たちがうちに見学に来て「へぇ」って。「私のところに(お豆腐を)卸してください」と言ってくれた。助けられましたよ。彼女らが買ってくれなかったら辞めていたと思います。でね、もう彼女らは80代とか。今もうちの豆腐をずっと買いに来てくれている。とんでもないエネルギーでしたね。消費者運動…あの頃のエネルギーはすごかった。食の安全というのは、すごいエネルギーを出させるものだと。

―なるほど…

「買い支え」ということが要りますね。「食べ支え」もそう。

―そして時間が経過して、久保さんの豆腐は香川県内各地に根付いた。久保さんは“豆腐づくり教室”など、あちこちでされてますよね。

 呼ばれるままにね。以前は学校に行ったりして、そこではしゃべるだけ。でもあまり通じないんです。五感で感じる食育がいい。少人数で10人くらいのね。食べて飲んで匂いを感じる食育がいいなと、やり方を切り替えていったら色んな人から声がかかるようになりました。今はコロナの影響で出来ないですけど、月に3回と4回とかやってましたよ。豆腐教室、出汁教室、味噌…“さしすせそ”を見分ける。離乳食に差し掛かった母親たちにとにかく知ってもらいたい。このままいくと日本はおかしくなる。20年後、我々をね…支えてくれる人たちがどうなるか、糖尿病予備軍がこれだけいてね…香川はね、特に。

―香川出身ではない私には、「それ、当たり前だよ」って。うどん文化、天ぷら文化(笑)。近くの移動でも歩かない。すぐ車に乗る。一方、外出自粛を促された昨年は、四国の自然の豊かさにすごく気づかされた年でもありました。

 そやな。瀬戸内は豊か。1時間走れば太平洋。2時間走れば日本海。大きな川も3つある。仁淀川、四万十川、吉野川。西日本最高峰の山がある。

―ホント豊かな土地だと思います。

 香川の小麦も生産が盛んになった。

―そうですよね。香川県産の小麦をつかったうどんも開発されて、実際に美味しい。それなのに、市販されているパン等の原材料欄を見ると“小麦(国内製造)”とある。それは国産小麦ではなく、外国産の小麦であることが多い現実。エグいなって思ってしまう。

 逃げ道をつくってるよね。ペットボトルのお茶だってそうで、原材料に書かれている「ビタミンC」。知識を持っていなければ、ふつうなら“栄養分”だと思うよね。実際は添加物なのに。

だから学校給食を

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―安ければいいという価値観から脱却しなけれいけないですね。

 うん、うん。食品を見分けること。食費とね医療費を比べてほしい。糖尿病になって透析が必要になるとひとり年間600万円ほど必要なんですって。それを国が負担している。医療費はうなぎ上りにあがっていますから、国民皆保険がなくなるんじゃないかって思う。学校給食を変えようというのは、未来への投資。こんなに安くて確実な投資はない。だから学校給食改善がいいよ。

―学校区という単位、サイズ感。身近な給食。食の問題に気づきやすい“お母さん”がそこには必ず存在する。確かにマインド変化を促しやすいのは給食かもしれない。かつての私は1丁39円の豆腐だとか1パック100円の卵とかに食いついていましたけど、もう戻れない。食に対する物差しがくっきり変わりました。

 四国には先行事例―今治の例(※4)がある。あれを真似したらいいんですよ。学校給食から始まって、様々な広がり。農業的な広がり。これこそ、日本が求めるものなんです。持続可能で。

(※4 地産地消の学校給食づくりから始まった、有機農業や食育を柱にしたまちづくりが進んでいるのが愛媛県今治市。安井孝著『地産地消と学校給食』に詳しい)

ー最近だったら、SDGsが流行り。あれも“消費”されてしまっている。何でもかんでもSDGs。ある人が言っていたんです。「学生がよく『アフリカの難民に興味あります』『SDGs学んでます』って言ったりするけど、いやいや、もっと身近に問題あるでしょ」って。どんどん視点が遠くなってしまっている。本当に必要なことって、そっちじゃなくってこっちだよねっていう…

 キャッチコピー的なね。

―あのSDGsのバッチ、マークつけたらいいんでしょって。その感覚が資本主義目線。

 もっと身近にね。自宅の排水溝なんか入口だという、そこから考えていけばいいのにね。

―食費と医療費の数値をリアルに紐解いていく授業があったらいいのかも。教科書に書かれていることよりも、より具体的だし、関心を惹くだろうになって思いました。学校というシステム自体も現代にあっていないのに、変えていけない。そういったことの解決のヒントのひとつが学校給食なのかもしれないですね。

 もっと声を出す必要がありますね。出さないと。いい連戦をしていけば、自治体は動く。政治は世論が動かすんです。最初から政治に求めていったって動かない。でも世論が動けば。まず共感者を増やしてね、ひとりでも多く。そこからです。

―久保さんも、SNSで発信されていますね。

 そう。お客さんがね、子供連れなのでまずおすすめして。ひとりひとりに向かい合って、「食に気を付けてね」と伝える。でも、食は劣化中ですよ。

―“コープ自然派”の利用者も増え、私が勤めているお店の売り上げも年々上がっている。食を大切にしている人が増えているし、考え方も変わってきているのかなと思うのですが、やはり劣化中?

 劣化してますよ。我々はマイノリティを相手にしている。声をあげているのはコアな人たちにすぎません。もっと普通のひとが普通に向いてくれないと政治は動かない。

―そのためにまずは共感者を増やしていくことなんですね。食の大切さに気付き、社会システムの構造に気づき、私は民放のテレビを殆ど見なくなりましたけど、たまにCMを見ると「うわぁ~こわ~」って思います。我が家の洗濯は、あるプロの洗濯屋さんが教えてくれた純植物性の粉石けんを使っているんです。お風呂の残り湯をバケツに入れて、粉石けんを振り入れて棒でグルグル泡立てる。口に入ってしまっても問題ない。食べられる石けん。柔軟剤いらず。巷は何でもかんでも除菌、消臭、香りつき。その匂いに耐えられなくなってしまいました。メディアの力はすごい。消費行動も思考もぜんぶ操作されてしまう。”操作されている”って、なかなか普通の感覚では気づけないですね。

 豆腐市場が5000億に対して、添加物が一兆円市場ですから。巨大なグローバル食システムのお金の流れがある。学校給食もよく見ると社会の縮図。父兄、納入業者、先生方、栄養士、政治家も介入する。利権もある。それを民のパワーでどうにかしようということ、正に草の根運動で消費者ひとりひとりが手をつないでいかないとね。

―先行事例がある。それこそ、子どもを育んでいる私たちがつながって、うねりを起こしていくことですよね。

 これからです。今治市の安井さんを呼んで、現状を話してもらって「こういうことが起きている」とまず知ること。まだまだ少数派ですが、食育という形で一人一人に向き合って共感者を増やします。

―すると久保さんの使命はまだ…

生涯現役でね、やっていこうと思います。

―お店でも無農薬野菜売ったりとか、新商品をつくったりだとか新しい動きもされていますよね。

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(店内で食べられる絹ごし豆腐を使ったジェラート。私は”ソラマメ”をチョイス。絶品でした!!キッシュなどのお惣菜、他のスイーツも並びます)

 娘夫婦が理解してくれて継いでくれたんですよ。嬉しかったな。だからね、まだまだ頑張っていきたい。

 久保さんと話をしながら、私はかつて旅した南米の、パラグアイにある日本人移住地で売られていた豆腐を思いだしました。週に一度、豆腐づくりをしている日系人がいたんです。パラグアイは大豆の生産が盛ん。その曜日・時間がくると、プラスチックの器を持って、豆腐を買いに行く人々の姿がある…。そんな光景が今も遠くの地では続いている。学ぶことが非常に多かった、南米各地にある日本人移住地を訪ねた旅。“善きもの”を身体で体感した旅でした。

 ブラジル・ユバ農場には、こんな言葉が掲げられています。

「珈琲より人を作れ」

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それは、うつくしい風景へとつながっている。


取材日:2021年5月13日

くぼさんのとうふ(久保食品)

http://www.kubosannotofu.co.jp/


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