Reading Psychologyに論文を出版しました
Taylor & Francis社が発行するReading Psychologyに以下の論文を出版しました。
Nahatame, S. (2020). Revisiting second language readers' memory for narrative texts: The role of causal and semantic text relations. Reading Psychology. Advanced online publication. https://doi.org/10.1080/02702711.2020.1768986
本論文は,タイトルの通り,L2読解における物語文の記憶を文章内の因果的関連と意味的関連の観点から検証したものです。Revisitingとあるのは,因果的な関連を要因としてL2 読解の物語文記憶を検証した先行研究をベースとし,そこに意味的な関連を新たな要因に加えて再検証してみようというニュアンスを出すためです。
L2読解における因果的関連と意味的関連の影響というのは私のここ数年の主要な研究テーマなので,また同じような論文かと思われるかもしれませんが,これまで刊行してきた2017年のRFL論文,2018年のMLJ論文,2019年のLET論文はいずれも2文単位の文章を用いた研究でした。2文単位の検証ではもう視線計測くらいしかやることは残っていないので,さすがにそろそろ長めの文章での検証が必要だろうと思い行ったのが本研究です。なので,テーマ自体は同じですが,実際の内容はこれまでの研究と結構違っています。
文章が長くなると2つの文の単純な関係ではなく,多数の文や節との結び付きを考慮する必要があります。このような場合,因果的関連に関しては,文章内の情報を因果関係のネットワークで表すCausal Network Analysisという理論・手法が認知心理学の分野では伝統的に使われていて,本研究(というか厳密にはベースとなる先行研究)もそれを援用しています。ただ,そうなると内容がかなり心理学寄りになってしまったので,今回はL2研究系のジャーナルではなく,思い切って心理学の文章理解研究のジャーナルに投稿することにしました。
研究手法は比較的単純で,L2 Readersの物語文記憶をCausal Network Analysisによって検証した先行研究の実験材料(2つの物語文)と実験手順(読解→筆記再生)を概ねそのまま用いています。違うのは,因果ネットワークに加えて,潜在意味解析 (LSA) による情報間の意味的な類似度を要因に加えていること,文章全体のつながりという大局的な関連に加えて隣接する情報間のつながりという局所的な関連も扱っていること,統計分析に混合効果ロジスティック回帰分析を使っていることあたりです。
結果としては,因果的関連は当然,L2 Readersの物語文の記憶(情報の再生率)を強く予測しました。では,新たに加えた意味的関連はどうだったかというと,こちらは隣接する情報のみとの関連が物語文の記憶を予測していました。この結果から,文章理解理論における因果的関連と意味的関連の重要性がL2読解の文脈でも示されたと同時に,L2読解では処理するつながりの単位(局所的 vs, 大局的)という別の要因も関わることでより複雑なメカニズムが働く,と結論づけています。結果の細かい考察は論文を読んでいただければ幸いです。
このジャーナルはトップページに書いてありますが,Readershipがreading researchers, psychologists, cognitive scholars, special educators, and reading educatorsなので,読んだもらいたい人たちに多く届くのではないかと期待します。Nahatame (2020) を早めに出版できたこと,ホッとしています。