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たぬき


何年か前に、たぬきに(ある意味)化かされた話を思い出しました。


数年前住んでいた家の周りは、ちょっとした山でした。

田舎という訳でもなかったのですが、地形的に小山になっていて、少し踏み込むと森になっているような場所だったんですよ。



ある日の夕方、仕事の帰りに、道路に野良犬らしきものがてくてく歩いていました。

『これは!噛みつかれたりすると危ない!』

と、思いつつ、警察に通報した方が良いか否か、少々悩んでいました。

『いや、めんどうだから早くそっと追い抜いて家に帰ろう…。』

そう決めて、ロックオンされないようにそろりそろりと道路を挟んで野良犬らしきもののいない側へ渡ることに決めました。

渡る際、一応車が来ないか後ろに目をやり、道路を渡って、また犬の位置を確認しようとすると、なんとその犬が道路の端でするすると小さく消えていくではありませんか!

『え!縮んでる!てか、消えてく!何!?妖怪!?初めて見た!って、妖怪なんかいるわけないじゃん!』

私の頭の中はパニックです。

しまいには尻尾だけが道路から生えたような形になり、その尻尾もすっと道路の中に消えていきました。

こんな怪奇現象を目の当たりにしても、人間好奇心が勝つものですね。

恐る恐る、犬が消えた場所に近付き、魔界の入り口か何かがあるのではないかと覗き込んでみると、そこには側溝の蓋が10cm程の隙間を開けて鎮座していました。

そう、何のことはない、その犬はその隙間から側溝の中に入っていっただけのようでした。

『なんだ…。側溝に隠れたのか。』

と、側溝の少し先に視線をやると、アミアミの蓋の中からたぬきがこちらを見ていたのです。

『犬じゃねぇ!たぬき!!!』


と、こんな都会(田舎じゃない場所)にたぬきがいることや、たった10cm程度の隙間に入れるはずのない犬が入れた謎の真相に合点がいったこと、これはたぬきに化かされたわ!と感じたことなど、驚きと納得が同時に押し寄せ、私の頭の中は再び大パニックとなりました。

そんな様子の私を見て、ちょっと
『してやったり』
と言わんばかりにたぬきはそそくさと側溝の奥深くへと消えていったのです。



『たぬきって、本当に人を化かすんだ!』
と妙に確信に近い何かを感じたときの話です。

そろそろ春も近付いていますので、皆様もたぬきのいたずらにはお気を付けくださいね。


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