産土(ウブスナ) ィイ・ヤシロ・チ⑩

ウブスナという言葉は、不思議な響きを持っているな、と、いつも思う。そして、当てられている漢字は、土なのにスナ(砂)?とこれまた不思議さがいや増す。

そういえば、アダムは土と神の息吹から作られたと、聖書に書かれているとか。人間は土から産まれたと、日本でも昔から考えられていたからの漢字だろうか。ウブスナは、内包する意味も実はかなり深そうだ。

さて、わたくしは女性なので、イブが肋骨から作られたとされているのが、以前より少々心にひっかかっていた。自然界を見渡せば、オスよりもメスの方が先に存在しているのだから、本来ならイブの方が先に産まれているだろう、そうでなければ少なくともアダムと同時に土から産まれただろうに?と。

そこに、肋骨というのは実は誤訳、本当は「癒やしの大地」という意味だった、とする説をネットで見かけた。この説だとナルホドね、と得心できる。土よりも更にスケールが大きく、おっかさんなイメージ。まさに大地母神の存在ともスンナリとつながる。

とにかく、人間は土から産まれた、男女問わず。その説に立ち、人の仔にとって土が母であり、生命の養い親であると、わたくしは素直に承知奉る。

そういえば、神様のなかに、土公神という存在があった。土に宿る神様で、人の仔の住まいの敷地内で、季節によって居所を移しておいでになるという。土公様が居られるタイミングに重なって、その居場所の土を掘り起こしたりすると障るとされる、まあ怖い神様である。

https://kotobank.jp/word/%E5%9C%9F%E5%85%AC%E7%A5%9E-104782

家内の土中には神様が巡回中となれば、その手入れや時期に慎重にならざるを得ない。やたら人が地面を掘り返さないことは、最も身近な環境である住まいの保全の知恵と言える。わたくしにはあながち迷信とは思えず、注意点と捉える方が良さそうだ。

土と言えば、長年リウマチを患っている友人がかなり回復できたのは、土の中から発見された物質から作られた新薬のおかげだったことを思い出した。

それとは別に、新型コロナ治療に最近注目されている薬も、日本の土から培養されたと聞いた。従来、動植物などの自然物から薬効を探すのは漢方だと思っていたわたくしには、西洋薬の分野でも、土から人を癒やす妙薬を見つける道があることに認識を新しくする出来事である。

https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20200408-00172075

その場所に身を置くことで心身に癒やしをもたらす聖処(イヤシロチ)の土中には、薬効豊かな物質も含まれているかもしれない。そのように想像すると、そうだ、古代の祭祀の記憶もその土中に保管されていた、と思い出した。

古社の宝物館では、重要な聖処から発掘された縄文や弥生の土器が多く展示されていた。まさしく土器こそが、その土から産まれたものであり、ウブスナを象徴するものだった。

「縄文神社」なる書籍を記す武藤郁子さんの存在を知った。縄文の痕跡と重なる神社についての楽しい製作活動をされている。

https://jomonjinja.jp/

  このサイトをのぞくと、わたくしは東日本の神社にはほとんどお参りできていないけれど、素晴らしい聖地がたくさん存在すると知れた。東のイヤシロチにいつかお参りできる機会に恵まれたい、と願う。

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ところで、土と器といえば、昨夏それとは知らず、高い実績を持つ陶芸家の方と出かけた先の食堂でのたまさかな出会いを、思い出す。一つのテーブルでランチとお茶をご一緒しながら、気楽におしゃべりをさせてもらう好機であった。後日、その方が有名な作陶家だったことを知り、驚くとともに一流の芸術家の語る貴重なものごとに触れられた幸運を嬉しく思った。

南米への指導旅の体験談や、食堂周辺の隣人たちとの親しい交流話の他に、「良い土」について興味深いことを教わった。

良い陶土とは、土の中の細菌の働きで作られるのだと。

土を掘り出して、すぐに加工するのではなく、暫く寝かせて(熟成させて)から練り上げ、器の製作に入ること。その土地の土壌は、最高の発酵が進む珍しいほどに良質なものであること。焼き上がりの肌が理想的な手触りになるのだと、力説されていた。

素人のわたくしには、陶芸の世界も細菌の発酵の賜物とは初耳であった。帰宅後に調べると、そのとおりのことが更に詳しく知れた。

イヤシロチは、地磁気から感じる心地よさの他に、その土中にも生命の循環を促す豊かな世界が広がる土地なのだろう。其処で土器を作った先人たちは、バランスの優れた細菌環境の土地、ウブスナをイヤシロチとして保管してきた。その場所で営まれる豊かなエネルギーの循環の中に自らの命も組み入れて、代々につなげてきた。その痕跡が土器や遺跡によって示されている。

イヤシロチであるウブスナについての実体験を交えた解説を見つけた。このマドモアゼル愛先生の動画のお話しは大変分かりやすく、わたくしの理解がよく進んだ。

https://www.youtube.com/watch?v=j64-b3pnY4c

ウブスナとは、生命活動を活性化し繁茂させる、あらゆる階層との複雑なネットワークへの窓口である。その仕組みの存在こそ、現代に生きるわたくしたちへの大切な古代からの伝言であった。

聖処(イヤシロチ)の土を健全に保って暮らせば、其処に住まう人の仔は子々孫々守られるのだ。その土地からもたらされるモノで、人の仔は十分に養われ、健やかに命のリレーはつながっていく。「ウブスナ」は、人の仔の幸せを約束する神との合言葉なのかもしれない。

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