南雲マサキのマイクロノベル001

001
おばあさんがやってる角店がある。僕がアプリで注文すると、おばあさんが黒電話で内容を確認して送ってくれる。お店は狭いのに荷物は多い。よく見ると、棚が縦に長い。おばあさんの体も長い。にゃーん。ちゅーるの時間だ。


002
コップの中の氷がみるみるとけて消えていく。新しい氷を入れてもすぐとける。この夏は暑すぎるんだ。ダメだダメだ。このままではコップの氷は絶滅してしまう。山田くん、冷凍庫をフルパワーにして。


003
ついにヒゲが生えた。お父さんとお母さんは大喜び。これでお前は一人前の大人だ。諸葛孔明タイプだね、将来は策士になるぞ、って。でもぼくは、怪盗・ルパン三世タイプがよかったなあ。文房具屋の息子じゃ、やっぱ無理かなあ。


004
確かに床に落としたはずのウインナーのかけらが見つからない。昨日はミカンを一房落としたけど、これも見つかってない。出てくるのは、いつ落としたかも覚えていない洗濯ばさみ。でもこれ、こんなに大きかったっけ? 俺の頭がはさめそうだよ。


005
「違う、そっちじゃない」棋士の冷や汗が止まらない。AI対AI将棋対局は迷走していた。両AIが棋士の提案をガン無視するのだ。誰のせいだ? オペレーターか? 棋士の指示を運ぶメッセンジャーの足取りも怪しい。だから真夏のショッピングセンターの屋上で開催するのは駄目だと言った世界が回──


006
人間にはツボがあって、そこをうまい具合に押すと血の流れがよくなったり病気が治ったりするそうだ。時には笑いが止まらなくなることもある。ツボの大きさは百字程度。ハマれば効果抜群、数撃ちゃ当たるの百文字拳! お前はもうおしまい!!


007
通りの向こうに電車が走ってるだろ? あれ、昔は上を走ってたんだ。高架を建てて、その上をな。本当だって。そうしたら景観がよくなってさ、みんなで花見もしたもんだ。でも、元気に伸びちまった桜の枝を電車が頭を下げてくぐるようになってな。今じゃ元通りなのよ。


008
トンネルで電波が切れて、サッカー中継が見られん。え、お前さんが切れた電波を繋いでくれる? なるほど、延長ケーブルの応用なのか。多少のタイムラグはあるがこりゃいいや…うわっ、タコ足配線するな! 遅延が遅延を生んでボールがいつまで経ってもゴールに入らねえ!!


009
彼女が持つカップには宇宙が入っていた。宇宙はカップから溢れ出して夜になった。彼女は微笑む。「おやすみなさい。明日、本当の夜明けを見せてあげる」


010
春を延長してほしいだって? 駄目だ駄目だ。今年は、前倒しで春の撤去をやることになってるんでね。そうしたら俺たちは前倒しで夏休みに突入さ。へへへ。

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