426 これから毎日書いていく

の設定を利用した断片図のようなもの。ヒーローいっぱいの群像劇(予定)。


右手にGEARを持つ男

【抜天島地下一層・僻地】

【白虎】のほんの片隅。路地裏には、いくつもの小さな空き地が点在する。
かつての住居とも、避難用の空き地とも言われるが、もはや理由を知るものはいない。とにかく減れば増え、増えれば減る。ゼロになることだけは皆無だった。
とにかくその内の一つ。狭い空き地は、男共の残骸で埋め尽くされていた。みなうめき声を上げ、地面に転がるばかり。既に大勢は決していた。
立っているのはわずかに二人。一人は威風堂々と、一人は既に体を震わせていた。

「まだやるかい?」

右手を光らせた、ヤクザスーツの男が問いかける。白いスーツの所々に、返り血がアクセントを与えていた。

「ま、まだだ。お、おれは」

頭目と思しき与太者は震えていた。声や姿だけではない。心が怯えていた。
その証拠に、強がりのセリフを吐きつつも、ジリジリと空き地の隅へと追い詰められていた。

「お、俺は。えら、選ばれたんだ」

与太者はナイフを構えた。刀身の部分がほのかに光り、歪んで見えた。しかし、ヤクザスーツは眉一つ動かさなかった。

「選ばれた、ね……」

ヤクザスーツは、拳を構えた。右の拳が、与太者のナイフ以上に。光を発した。

「お前はただの、実験台だよ」

ヤクザスーツが、哀しげに笑った。しかしその姿が、与太者には憐憫と感じたようで。

「うるせええええ! 死ねえええええええッ!」

咆哮と涎を撒き散らしつつ、ナイフを振りかざしてヤクザを襲う。大振り。袈裟斬り、逆袈裟。ヤクザは体捌きだけでかわし、付け入らせない。

「~~~~~ッ!」

焦れた与太者が、ナイフを大上段に振りかざし、下ろす。その時、ヤクザの目が、にわかに煌めいた。
遅れて、金属音。ヤクザの右腕が、ナイフを受け止めていた。物理的には、あり得ない現象。

「GEAR(ギア)ってのは、そう使うんじゃない」

目を見張る与太者の下で、ヤクザが鋭い目を放つ。

「GEARってのは。飲み干して、育てて。輝かせるんだ」

左の拳が、与太者の腹をえぐる。内臓を狙いすました、必殺の一撃。
与太者は軽く胃液を吐き出した後、その場へとあっけなく崩れ落ちた。

***

数分後。

「ああ、俺だ。与太者を数人、寝かせてある。座標はBの……」
「うむ、頼む。もう少ししたら、組に戻る」

ヤクザはどこかへ、電話をかけていた。既に空き地からは離れている。地下のことには鈍い警察が来る前に、後始末は済むだろう。

「……いい加減、元を断ちたいものだが」

ヤクザ……レイは紫煙を吐きながら、ひとりごちた。

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