436 群像劇の断片図⑦

女探偵

【抜天島・中央タワー某所】
女は、朱雀――中央タワーの五層以上の住人を嫌っていた。
簡単な話だ。奴等は常に上から物を見て、彼等の常識でしか物事を判断しない。
そのくせ、困難に直面すると。

「お願いします! 金ならいくらでもあるんです! 娘を、娘を探してください! 貴女が、女性探偵の中では一番の腕利きだと、噂を聞いて!」

金に任せて、安い土下座を繰り返す。
女の目の前、半分禿げ上がった頭を持つ男は。目から涙を流し、本土でも大富豪と言える金をテーブルに積み上げ。本人は椅子から降りて土下座をしている。
男は、中央タワーの上層も上層、三十八層に住むという。きっと安いものなのだろう。金も、土下座も。

「警察はどうしたのです? 場末の探偵に頼るより、司法組織の方が信頼できるでしょうに」

故に、女は信じない。むしろ切り捨てる構えだった。朱雀の案件には、警察の足は早かったはずだ。

「たった一人の娘が行方知れずなんて! 警察に言えば四方に知れ渡ります! 私が世間に、軽んじられてしまいます!」

一層声を張り上げる男。しかし女は、更に興味を失うばかり。男に背を向け、努めて冷たく言い放つ。

「私も、女だてらに探偵を名乗っております。依頼は受けます。ですが、そのお金は一度下げてください」

一時の間。札束をしまう音。最後にカバンのチャックが閉まる音を聞いた後。女は、もう一度振り向いた。短髪にワイシャツと長ズボンの姿は、青年にさえ見えかねない。

「私が望むのは、世間体に基づく、隠蔽のための大金ではありません」

汗をかいてうつむく男に、顔をあげるように促し。その目を直視して。

「貴方の、真心です。それを見せてください」

女探偵、『真実を射抜く目のマコ』はハッキリと言ってのけた。


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