12/22 溜め込みノベルの解放【習作】

 世界が二つに別れてから、もう何世紀が過ぎたのだろう。
 南の陣営と北の陣営は、毎年毎年どこかで戦いをやっている。
 ラジオで流されるニュースは友軍の勝利を謳ってるが、そんなの嘘っぱちだ。そんなに毎回勝っているなら今頃敵の陣営は白旗揚げてるに決まってる。
「案外毎年打ち合わせしてるのかもな。俺達には絶対見えない場所で」
 そんな事を言っていたのは同期のサムだったか。アイツも音沙汰をさっぱり聞かない。どこかで高潔たる我が陣営、その繁栄の礎になってるのかもな。いや、礎ならマシか。この世には無駄死にって言葉もある。全くクソな話だ。

「歩兵十三番! 遅れとる! 手を動かせ!」
 クソ上司の声が、俺の耳を叩く。五月蝿え、誰のせいでこうなったと思ってるんだ。元はといえばお前のクソな英雄願望のせいだ。味方から突出して進撃したがために、こうして救出を目論む味方を釣り出す、その餌にされちまった。だいたい番号で呼ばれるのも気に食わねえ。

『軍兵は国の共有資産』だ? 嘘っぱち言うな、お前達が管理しやすいだけだろ。なんせ番号で呼べばいいんだからな。
「佐官。アレ使いましょう。【工機兵】。アレ、元々はそのためでしょう」
 バカが上司に訴えた。俺は内心でそいつの冥福を祈った。結末は目に見えている。
「歩兵四十九番……。貴様はなっちょらん! いいか! 【工機兵】はお国の決戦兵器ぞ! 決してお前達の代わりなどではない! 今もああして敵中に在り、我等の耳目となって雨の中を探っておるのだ! そこになおれ!」
 バカを叩きのめす殴打の音が響く中、俺はそっと崖の上に視線を移した。そこには高さ七メートル程の鋼鉄の戦士が、静かに駐機されていた。

 曰く、「人の魂が原動力」
 曰く、「適性者は死ぬまで搾られる」
 曰く、「敵軍はもっと効率も性能もいい【工機兵】を持っている」
 まったくもって良い噂を聞いたことがない。それが【工機兵】だ。もともとはその名の通り工兵用の補助兵器だったと聞いている。だが性能が上がるにつれて、様相は変わっていく。

 敵軍を蹂躙し、突破する。
 あらゆる弾丸を弾き返し、戦場にて神となる。
 一際高い場所から、敵軍を睨め付ける眼となる。
 空行く手段を持たぬこの世界で、【工機兵】は戦車に代わるものとしての宿命を添付されていく。大量生産・工兵運用が主眼だった兵器は、いつしか一点物へと。戦場の覇者へと。その姿を変えてしまっていた。

「小休止! 各小隊は交代して番に当たるべし!」
 大雨のさなかでも無駄に響くクソ上司の声で、俺達はようやく人心地つく。とはいえ、腰を据えるにも糧食に手をつけるにもためらわれるのが現況だ。敵の攻勢は、例え槍が降ろうが行われる。なにせ――

「敵襲ーッ!」
 その言葉を拾った次の瞬間には、遠くの地面が爆ぜていた。クソッ、ついにこの日が来たか。いつかはなぶり殺しにされるとは思っていたが、存外に早かった。
 俺の目に見えているものが真実なら。奴等は【工機兵】を数多く生産し、部隊を作って集中的に運用している。今まで聞かされてきた良くない噂。その内の幾つかが。真実として襲い掛かっている。
 クソが。
 もはや俺達にできる行為はない。逃げるしかない。

「逃げるな! 戦え! 踏み止まって玉砕せよ!」
 クソ上司の声も無視する。アイツはどうせクソだ。生き残ったら生き残ったで我が陣営を嘲笑うのだろう。敵に尻尾を振るのだろう。【工機兵】に豆鉄砲で戦ったところで踏み潰されるだけだ。
「AAAAAAAAAAAAAA!」
 妙な唸りと共に、ようやくウチの【工機兵】が下りてきた。だが、多勢に無勢だ。なにせ五対一だ。おまけに向こうはやけにシュッとしてるし、こっちは無骨だ。間違いなく動きはあちらの方が早い。そうに決まってる。
 そして予想は当たった。俺が木陰に隠れ、息を潜めて覗く頃には。こちらの【工機兵】は膝をつき、動くのもやっとという有様になっていた。


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塩漬けにしていた未完の短編を取り出して候。

おわれ

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