432 群像劇の断片図⑥

ロック・オープン

【抜天島・地下一層】
番長七郎の機嫌は、最悪だった。地下での通信試験の頃には復帰していると信じていた相方が、未だに通信に応じてこないのだ。

「クソッ、ヘソを曲げちまったか?」

人通りの少ない路地で毒づく長七郎。このままでは、色々と厄介だ。特に厄介なのは――。

「おう兄ちゃん、金持ってそうじゃねえか」
「ちょっと俺達に恵んじゃくれねえかな?」
「大人しく出せば、悪いようにはしないんだがね」
「ヘッヘッヘ……」

下から睨め付ける、気味悪い視線。
ニヤニヤとした酷薄な笑い。
奇抜な髪型やピアスまみれの格好。
手に持った危険な武器。
あからさまなゴロツキ。
一対四。
マトモな勝負は期待できない。

ひとまず、騒ぎにはしたくない。さりとて、調子に乗せる義理もない。しかし対抗するには手がかかる。
絶妙なわずわらしさであった。

「兄ちゃん、どこ見てんだよ」

長五郎は目を合わせずに、グリグリと動かす。
周囲の物体。
逃走経路。
力量の分別。
最適な行動。
ゴロツキの語りをほとんど無視して、脳内を練り上げる。が。

「テメ、ナメてんのかゴラア!」
「ふぐぅっ!?」

腹部に入る膝。思わず顎が下がり。

「やっちまうか!」

その顎をめがけて、鈍器が下から飛び込む。歯を食い縛る前に、骨が軋む音が響き。たたらを踏んでしまう。

「っ、ぁ……」

長七郎は構えを取る。こうなったら、もうやる他ない。とはいえ、厳しい戦いになる……と、考えた時だった。

『失礼。報告事項により、席を外しておりました。通信、聞こえますか』

救いの声。こうなれば判断は早い。

「ロックオープンだ。コードをくれ」
『はい? また突然な』
「戦闘テストだ」

承知。その声さえ聞ければ、もう十分だった。目だけで右の薬指を見る。指輪が嵌められていた。そこに数文字の言葉が浮かんだのを確認して。
蹴りとパンチで敵対者を引き剥がす。そのまま右手を心臓の位置に持っていき。

「GEAR、ロック・オープン!」
「ぬわっ!?」

長七郎を守るように何らかの波動が放たれ、ゴロツキ共は間合いを取らざるを得ず。
その間に長七郎は変身を完了する。もっとも、ゼロコンマ数秒のことであったが。

「解錠完了。これより、状況を制圧する」

黒一色に銀眼。ボロボロの外套を身に着けた戦士が、堂々と宣告した。


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