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細胞の1つ1つが鮮明に透ける神秘の世界。顕微鏡写真に魅了された名大生。

名古屋大学東山キャンパスで開催「顕微鏡で観る野外観察園」

 名大野外観察園で8月末まで開催された写真展「顕微鏡で観る野外観察園」。会場に入ると目の前に飛び込んでくる大きな図形?幾何学模様??に目を見張ります。これらは実物の1000倍、直径1m超に拡大された植物の茎の断面写真。細胞の1つ1つまでくっきり透けて見通せる、神秘で不思議な世界に魅了されたのが加藤優太さん。展示会を企画した、本学生命農学研究科・後期課程3年生です。

ボーナスつぎ込み植物の顕微鏡観察に没頭

 加藤さんが顕微鏡写真にハマるきっかけは5年前。大学院前期課程で葉緑体運動について研究するなか、顕微鏡観察の面白さに気付きました。「顕微鏡で観る微細構造の美しさに魅了されました。種ごとに違うのは当然ですが、同じ植物でも観察するタイミングや環境、切る角度によって見えてくる構造は大きく変わります。観察すればするほど新たな発見があり、すごく魅かれました」と振り返ります。
 前期課程を修了した加藤さんは2018年に食品会社に就職。研究から離れたものの、顕微鏡での観察を続けたく、初めてもらったボーナスをつぎ込んで顕微鏡と専用のカメラを購入しました(トータルで40万円程度)。趣味として顕微鏡写真を撮り始めた加藤さんは、どんどん顕微鏡写真の世界に没頭していきます。

スギナの茎(左)とテンジクスゲの茎(右)の断面写真

研究から一度離れたことで気付いた「一番好きなこと」

 花屋やスーパーで植物や野菜・果物を買ってきては、ひたすら切って撮影する日々。仕事後や休日、週3~5日ほど行っていたとのこと。撮影した写真をTwitter(現在のX)に投稿するうち、じわじわとフォロワーが増え、今では3500人以上に増えました。
 撮影を続けるなかで、“何よりも植物の顕微鏡観察が好き”な自分に気付いた加藤さんは、再び大学院で研究することを決意します。一念発起して会社を退職し、名大の大学院試験に臨んで見事合格。2020年の秋、大学院後期課程に進学しました。
 「もし就職せず研究を続けていたら、研究対象の植物だけを観察、研究し、自宅で趣味として多様な植物の顕微鏡写真は撮ってなかったと思います」。植物への純粋な探求心が再び研究に戻る原動力となり、観察の幅を広げるきっかけにもなったのです。

大学での出会いがもたらした写真展の開催

 大学院に戻った後も顕微鏡写真を撮っていた加藤さん。身近にある植物や野菜はほとんど撮ってしまい、新たな観察対象を探していたところ、研究室の先生に野外観察園の吉野さんを紹介されました。その出会いをきっかけに博物館の学芸員・宇治原さんとも知り合い、昨年秋「実の表皮」の顕微鏡写真展を開催することとなりました。初めての展示会は、SNSのフォロワーをはじめ若者も多数来場するなど好評で、第二弾となる今回の写真展につながります。
 「顕微鏡で観る野外観察園」の企画や、透明フィルムに大きく印刷するという展示方法は吉野さんと宇治原さんから生まれたアイデア。透明フィルムにプリントすると裏側から光が差し込み、“顕微鏡で観る”というコンセプトにも合致。実際に顕微鏡で観察する感覚に近付きました。
 顕微鏡写真の美しさを際立たせつつ、学術的な面白さも兼ね備えた今回の企画展。加藤さんは「自分一人では絶対に思い付かなかったので、吉野さんと宇治原さんのおかげです」と感謝ばかりです。宇治原さんも「加藤さんの写真やコメントからは展示を観てもらった人全員に楽しんでもらいたいという気持ちが伝わってきます」と手ごたえを感じています。

クレマチスの茎の写真を前に、左から宇治原さん、加藤優太さん、吉野さん
研究者でもほとんど全問正解できる人がいないという難問ばかりが用意されたクイズコーナー

 加藤さんイチオシの写真は、自身の研究材料でもあるイネ科の「シコクビエ」。効率的に光合成ができる植物で、微細構造の美しさとCO₂を高濃度に保つ機能面が結び付いているのがポイントです。一つ一つの細胞がどのように働いているかをもっと知りたいという想いから加藤さんの研究は始まっており、顕微鏡写真に目覚めたきっかけになった思い入れのある植物なんだとか。

加藤さんの研究対象でもあるシコクビエの葉の断面写真

 加藤さんの撮影方法は、専用のカメラを顕微鏡に差し込み、パソコンとつないでソフト上で明るさなどを調整する方法。私物のカメラは研究室のものより高解像度で撮影でき、1000倍というかなり大きなサイズでの展示を可能にしました。
 また、植物の切片はカミソリでカットしますが、「細胞1個分の薄さでカットできる加藤さんの技術はまさに熟練の技。いかに多くの植物を観察してきたのかが分かります」と吉野さんもうなります。

1000倍のサイズでプリントしたスギナの枝と茎の断面写真

顕微鏡写真から伝えたい植物の奥深さ

 今年、加藤さんは本学の「学術奨励賞」を受賞。10月に開催するホームカミングデイのプレ企画、研究紹介コンテストに出場します。加藤さんは「後期課程は今年の9月に修了予定ですが、来年3月までは大学に残って研究を続ける予定です。その後は未定ですが、顕微鏡写真はこの先もずっと続けていきたいですね。28万種以上あるとも言われている植物のすべてはさすがに撮影できないですが、少しでも多くの植物を撮影できるよう地道に頑張ります。そして、顕微鏡写真を見て植物に興味を持つ人が一人でもいてくれればうれしい限りです」と意気込みを語りました。

加藤さんが参加する10月13日(金)開催の「NU3MT」。詳細は下記リンクをチェックhttps://note.com/nu_sotugyoumeibo/n/n183f96491c53
野外観察園でシコクビエを観察する加藤さんと吉野さん
8月末まで野外観察園で開催された写真展「顕微鏡で観る野外観察園」

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