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2026年アジア・アジアパラ競技大会で学生と企業の役割は――名大×松坂屋企画

名古屋大学 学術研究・産学官連携推進本部は百貨店の「松坂屋」と連携して8月22日、地域活性と企業の地域貢献のあり方について有識者の対談イベントを開催しました。
この日のテーマは「2026年アジア・アジアパラ競技大会に向けて」。
名大総合保健体育科学センターの佐々木康教授、株式会社豊田スタジアムの田村誠社長、同大会組織委員会の猪股康博事務局次長が、同大会でサッカー会場となる豊田スタジアムの取り組みを事例に、地域の活性化と社会貢献について意見を交わしました。

アジア競技大会と地域活性について意見を交わす猪股氏(左)、田村氏(中)、佐々木氏

スポーツ文化イベントを通じて人々の交流と健康づくり、街づくりに貢献

豊田スタジアム 田村 誠 社長

豊田スタジアムは、観客席44,380席を有する国内で2番目の規模を誇る球技専用競技場で、2001年7月に開場しました。2023年度は165万人の方にご来場いただき、開場から23年間で来場者数は3,400万人に上ります。

当社は企業理念として、「スポーツ・文化イベントを通じて人々の交流拠点となり、まちづくりに貢献すること」を掲げています。サッカー、ラグビーなどの試合開催だけでなく、スタジアムツアーや健康づくり教室、キッズサッカー教室などを自主事業として運営しており、スタジアムツアーは、地元のボランティアがガイド役を担い、市内外から社会見学で訪れる子どもたちの学びの場としても定着しています。
また、健康増進プログラムとしてウォーキングイベントを地元のスポーツクラブと連携して定期的に実施しており、地域の皆様の健康づくりの場にもなっています。

当スタジアムは豊田市中央公園に位置し、スタジアムと周囲の緑地を一体として管理しています。中央公園一帯は豊田市の広域避難地に指定されており、災害発生時には避難所へ救援物資を運ぶ救援拠点となるなど、地域の防災拠点としての役割も担っています。

観客の視界を遮らないための吊り屋根構造を支える巨大な“マスト”が目を引く外観

スタジアムが地域の人々の集う場、拠り所として機能、役割を担う

名古屋大学 佐々木 康 教授

豊田スタジアムは世界的にも、デザイン的にも素晴らしいスタジアムです。スポーツ経営の視点でいえば良好な運営状況にあると考えています。さらなる発展に向けて、海外の取り組みを参考例として紹介すると、例えば南アフリカ共和国のラグビーリーグでは「ピンクボールプロジェクト」という取り組みが広がっています。

試合中に一定時間、ピンク色のボールを使う時間を設け、その時間帯にホームチームが得点を入れたらスタジアムがチャリティーする企画です。乳がんの早期発見と治療を啓発する「ピンクリボン活動」のように、女性支援などに寄付されるそうです。

英国リーグでは「アニバーサリーイベント」が実施されています。試合前やハーフタイム、試合後などに、スタジアムの電光掲示板を使って来場者がそれぞれの「記念日」を2秒間PRできる企画です。「私たち結婚しました」など、アナウンスした本人や家族にとって忘れられない思い出となり、記念日にスタジアムを再訪することもあるでしょう。

欧米では古くから、街の中心に教会や広場といった人が集まる場所がありましたが、現代ではスタジアムがこうした社会的な機能、役割を果たすようになっていると考えています。今、何万人もの規模の人が集まる場所はなかなかありません。スポーツを核とする街づくりはとても大切で有効だと考えています。

豊田スタジアムへの協賛を通じて街づくりをサポートする企業がずらり

アジア・アジアパラ競技大会は、世界に愛知と名古屋を発信するまたとない機会

愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会組織委員会
猪股 康博 事務局次長

「アジア・アジアパラ競技大会」は4年に1度開催されるアジア最大のスポーツの祭典で、2026年9月に開催される愛知・名古屋大会は、国内では1994年の広島大会以来32年ぶりの開催となります。この大会には45の地域、国から選手や関係者が集まり、カバディ、セパタクロー、eスポーツなどオリンピックにはない競技もあります。大会を通じて国内だけでなく世界に愛知と名古屋を発信するまたとない機会になると考えています。

この地域にはプロ、実業団、クラブ、高校、大学などほとんどの競技で全国トップクラスのチームがあります。そんな地域は全国どこにもありません。アジア大会には“おらが町の選手”が多く出ると思います。ぜひ会場に足を運んで間近に見てもらいたいですね。

「アジアパラ競技大会」は、国内で初めての開催となります。大会を通じて障害者スポーツの振興が進み、障害を持った方に対する人々の意識が変わっていけば、共生社会の実現にすこしでも寄与できるのではないかと考えています。パラスポーツを親子で観戦して、間近に見た子どもたちが「すごい!」と感じ、人にやさしい街づくりにつながってくれたらいいなと思います。

最大斜度38度に配列された観客席から天然芝のフィールドを見下ろす眺めは壮観

次世代を担う若者たちへメッセージ

【田村社長】
以前、当スタジアムを訪れた豊田市の市長さんが子どもたちに対し「今はスタジアムの上(観客席)から試合を見ているけれど、これからは下(ピッチ)から上(観客席)を見るようにがんばってほしい」と言葉をかけていて、非常に共感しました。まずは世界大会を間近に見てもらい、ボランティアなどで少しでも関わって体験してもらいたいです。

【佐々木教授】
世界的な大会が地元で開かれることは一生に一度あるかないかの貴重な機会です。人の生きる力、社会の力が弱っている中で強く生きていくために、スポーツは力になると思っています。スポーツをするのでもいいし、応援するのでもいいし、サポートするのでもいいので、とにかくぜひ参加してほしいですね。

【猪股事務局次長】
当組織委員会は、愛知県内の全52大学の学長などでつくる「愛知学長懇話会」と連携協定を結び、学生がアジア・アジアパラ大会に主体的に関わり成長につながる取り組みを推進しています。学生にはぜひボランティアをやってもらい、様々な国際的なかかわりを経験して視野を広げ、今後の人生の何らかのプラスにしてほしいです。

取材ノート:
佐々木教授と田村社長は、学生時代にラグビーで戦ったライバル校の選手同士。佐々木教授は筑波大学のフォワードとして、田村社長は帝京大学のスタンドオフ、司令塔として活躍したそうです。
佐々木教授によると「当時の帝京は現在ほどの強豪校ではなく、ウチ(筑波)が勝っていた(笑)」とのこと。そんな時代、田村社長が主将として帝京チームを初の大学選手権出場へと導き、現在の強豪校としての礎を築きました。
田村社長は卒業後、実業団での活躍を経てトヨタ自動車、豊田自動織機の監督や日本代表コーチを歴任。佐々木教授は研究者、教員の道へと進み、現在は本学の教授とラグビー部監督、日本ラグビー協会ハイパフォーマンス委員、JOC強化本部ナショナルコーチアカデミーメンバーなどを務めています。
そして実は…! 2019年ワールドカップ日本代表など一線で活躍している田村優選手は、田村社長のご長男だそうです!