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抑制と興奮のバランスが重要です~音の識別能力のナゾ~

動物が自らの子孫を残すためには、異性に好まれることが必須です😊。そのために、「求愛」と呼ばれるアピールをします。クジャクのように派手な装飾を見せびらかすものや、カエルやコオロギのように鳴き声で雌を呼び寄せるもの、そのアピール方法は実に多様です。
では、これは・・・??
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動画提供:名古屋大学 大学院理学研究科 石川由希 講師

何の音か分かりますか?
これは、ショウジョウバエのオスが発する求愛歌です。私には何かが動くような音にしか聞こえないのですが、メスはなぜこの音を識別できるのでしょうか・・・🧐?

その謎に挑むのが、名古屋大学の上川内かみこうちあづささん(理学研究科 教授/トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM))です。今回は上川内さんと井本圭亮いもとけいすけさん(理学研究科 博士後期課程)に最新の研究成果についてお話を伺いました。

ポッドキャスト埋め込みます。


井本 圭亮いもと けいすけさん(理学研究科 博士後期課程)

──ショウジョウバエの求愛歌、ただの音にしか聞こえませんでした…😥

(井本さん)ヒトが聞いたらそうでしょうね🤭。種によって、リズム(パルスの間隔)が異なります。

上川内かみこうちあづささん(理学研究科 教授/トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM))

── 同じ種のオスの求愛歌は、違いってあるのですか?

(井本さん)全く同じ、ということはないと思います。羽の長さが違うと実際出る音に変化があったので、個体差はあるのではないかなと思います。

──その音を聞き分けてメスは「イケメンだわ💖」、「イヤ💔」を判断しているのですね。でも、聞き分けられるということは、「音」を覚えている、ということですよね?😲

(上川内さん)そうですね。小さなショウジョウバエでもヒトと同様に音を覚えていきます。その音のリズムを識別をする能力は、実は「学習」によって向上することが2018年に私たちの研究で明らかにできました。それを調べていくと、脳の中の抑制性の神経伝達物質であるGABAぎゃばを、配偶行動の意思決定に重要なpC1ぴーしーわんニューロンが受け取ることが重要であることが分かりました。

── GABAって、あのチョコレートやサプリメントで話題のGABAですか?

(井本さん)はい、あのGABAです。ヒトと同様にGABAは、ショウジョウバエの脳にもあり、同様の働きをしています。以前の研究で、GABAが音の記憶に重要ということは分かっていたのですが、GABAがどこから出てきて、どのように制御に関与しているのかについては分かっていませんでした。

──どのような実験を行ったのですか?

(井本さん)☝🏻こんな風に、メスのショウジョウバエに同種もしくは異種の求愛歌の音源を聞かせて学習させました。実は、このショウジョウバエが入っている半透明の容器は、タピオカストローを短く切ったものです🤭。

──タピオカストロー!?新しい活用方法ですね。笑

(井本さん)はい。ちょうどいいサイズだな、という話になり使用することになりました。このタピオカストローに8匹ほどのメスを入れて求愛歌を学習させた後に行動を測定しました。その結果、GABAを作るニューロンはショウジョウバエの脳の中にたった8つしかないpCd-2ぴーしーでぃーつーニューロンであることが分かりました。

──たった8つの神経細胞群で歌識別学習を制御しているなんて・・・スゴイですね🧐

(井本さん)はい、最初は間違いかな?と思ってしまうほどでした。
(上川内さん)たった8つを操作すれば色々見えてくる、という意味でショウジョウバエを使うことはとても理解しやすく分かりやすいです。

──歌識別学習にはGABAが必要ということは、GABAっていっぱいあった方がよいのですか?

(上川内さん)多ければよい、というわけでもなくて、そのバランスが重要って言われています。井本君が見つけたGABAを出すpCd-2ニューロンは、実は興奮性のpC1ニューロンを抑制し、一方でpC1ニューロンはpCd-2ニューロンに興奮性の信号を送って・・・互いに制御し合っているようですね。なので、そのバランスをとっていくところに、この歌識別学習の機構があるのだと考えています。そこから、ヒトでも共通するような仕組みが分かるといいな、と思っています。

歌識別学習の機構-抑制と興奮のバランス-
井本さんの研究で分かったのは、①pCd-2ニューロンが出すGABAをpC1ニューロンが受け取り、配偶行動に繋がること、②更に、ドーパミンやGABAがpCd-2ニューロンを制御しており、pC1ニューロンから放出される興奮性の神経伝達物質も関わる可能性があること。この絶妙なバランスでそれぞれのニューロンを制御することが、歌識別学習には重要なんだそうです。
(写真はプレスリリースより)

── ヒトでも同様の機構があるのですか?

(井本さん)例えばヒトですと、幼少期に聞いた言葉はその音の識別能力を高めることが知られています。例えば、英語の「RとL」の識別能力です。日本人の家庭に育つとこの識別能力は下がってしまいます。

── なるほど。井本さんは入学当時からショウジョウバエで研究したい!と思っていたのですか?

(井本さん)最初のクエスチョンとしては、動物がどのようにモノを考えて行動決定をしているのか?でした。それを知りたくて、名古屋大学に入学したら、動物の意思決定の研究をしている上川内先生の研究室があることを知り、入りたいな~と思っていました。

── 志が高い!!今後はどうされるのですか?

(井本さん)実は卒業後はメーカーへの就職が決まっています。残りの時間で、更にこの神経回路の機構の解明に取り組みたいと思っています。その後は・・・僕の後の研究を志してくれる後輩にお願いしたいです。

── 音を聞き分け、そして記憶していくことは、脳内で絶妙なバランスで成り立っていることを知ることができましたが、まだまだ分からないことだらけなのですね。井本さんの志を継ぎたい方、このナゾの続きを上川内さんの研究室で解明してください!!

インタビュー・文:坪井知恵


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