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魚の食べ過ぎ注意…その理由はヒ素!?

魚を1日1回以上食べる人は、血液のヒ素の濃度が高く、高血圧のリスクが高い──。日本人を対象とする疫学研究からの発表です。

魚はなるべく食べた方がいいんじゃないの?
そんなギモンが浮かびませんか…?

実はこの知見、日本屈指の大規模コホート研究「J-MICCジェーミックスタディ」に参加する約2700人の調査データからわかってきた根拠ある新事実。論文発表を行った加藤昌志かとうまさしさん(名古屋大学大学院 医学系研究科 教授)と香川匠かがわたくみ(医学系研究科 博士課程)さんに詳しく聞きました。

研究を行った左:加藤昌志かとうまさしさん(医学系研究科 教授)と右:香川匠かがわたくみさん(医学系研究科 博士課程)

↓インタビューのポイントを絞り、ポッドキャストでお届けしています。

── ヒ素って有毒な元素ですよね…?魚にヒ素が含まれるのですか?

ヒ素は自然環境中に広く存在する元素のひとつです。ヒ素には様々な化学形態があるのですが、毒性の高い形のヒ素が土や水に含まれていることがあって、がんなどの病気との関連がわかっています。魚にもヒ素が含まれているのですが、人が魚を食べても特に目立った病気にはならないということもあり、魚のヒ素は比較的安全と考えられていました(香川さん)。

── 魚が自分でヒ素をつくるのですか?それとも、どこかから取り込んでくるのですか?

魚が自分でヒ素をつくるわけではないと考えられています。魚がヒ素を体内に持つ理由は、魚が生息する環境に存在するヒ素を取り込むことによります。ヒ素は土壌や水環境などに広く存在していますので、海水に溶け込んだヒ素がプランクトンや他の微生物に取り込まれ、さらにそれらを食べる魚介類の体内にたまっていきます。なので、魚肉がヒ素を含んでいるのは、魚が食物連鎖を通じて環境中のヒ素を蓄積した結果です(香川さん)。

── 魚に含まれるヒ素は安全といわれていたのですよね。それでも、魚肉に含まれるヒ素と病気のリスクを疑っていたのですか?

J−MICC研究では、研究参加者がどのような食品をどのくらいの頻度で食べているかアンケート調査を行っています。この食事摂取データと、健康状態の調査データ、さらに血液中のヒ素やナトリウムなど元素のデータを統合して、それぞれの関連を解析しました。その結果、魚を多く食べることで血液中のヒ素が増え、それに伴って高血圧のリスクも高まることが明らかになったんです(香川さん)。

J-MICC研究については、↓で詳しく解説しています。

── 高血圧といえば塩分ですが、実は塩分がリスクになっていたりしませんか?

たしかに、塩分(ナトリウム)も多く取りすぎると高血圧のリスクとなることはよく知られていますよね。刺身や焼き魚などには醤油がつきものなので、もしかしてこの塩分が高血圧に関連しているかもしれません。そこで、塩分摂取も考慮した上で解析を行っています。その結果が、魚に含まれるヒ素による高血圧のリスクを示すものでした(香川さん)。

食事調査票(一部)
J−MICC研究では、食事習慣をこのような調査票で調べる。54の食品グループについて、過去1年の摂取頻度をマーク式で回答する。魚介類は色をつけた部分を含む8項目で調査する。

── なるほど。この調査票で「魚を1日1回以上食べる」と答えた人は、血液中のヒ素濃度が高く、しかも高血圧のリスクも高かったということですね。

その通りです。ただ、今回報告した血液中のヒ素濃度は、日本で特別に高いわけではないんです。他の国の報告でも同じくらいのレベルなんですね。世界的に見ても水産物の消費量は年々増加しています。魚摂取による血液中ヒ素の増加や、それに伴う高血圧リスクは、魚を多く食べる日本で見つかった知見とはいえ、世界の国々でも起こりうると考えています(香川さん)。

── ところで、血液中のヒ素濃度はどのように調べるのですか?

自分たちの研究室で測定しました。1kg あたり0.1 μマイクロg 以下くらいの、ものすごくミクロなレベルで、数十種類の元素の濃度を一括で測れる装置があって、専門のスタッフが測りました。今回は、1つの血液サンプルにつき66元素の濃度を測定したんですが、2700以上もあるサンプルに対応するのに2年以上もかかりました(加藤さん)。

ヒ素の測定につかった分析装置「ICP-MSアイシーピーマス
数十種類の元素を一括分析できる。J-MICC研究の約2700名の参加者から提供された血液サンプルについて、66の元素の濃度を測定した。この装置を自前で持つ研究室はかなりレア。

── 今回の結果を、私たち一般生活者はどのように受け止めるべきでしょうか?魚は体にいいといわれているので、少し複雑です…。

今回の研究では、魚肉を食べ過ぎてしまう場合に、ヒ素を介して高血圧のリスクに影響する可能性が示されました。その一方で、魚はタンパク質豊富で、ビタミンやミネラル、DHAやEPAなど健康に良い成分がたくさん含まれています。魚に限らず、いずれの食品にも適度に食べる有益性と食べ過ぎによる危険性はあります。なので、「同じものを摂りすぎないで、色々な食品を組み合わせてバランスのとれた食生活を送ること」がよいと考えております(香川さん)。

── ところで、なにやら解決策としての「ドクター食器®」を開発されているとか…?

そうなんです!ドクター食器®は、食材のヒ素を吸着してくれる食器です。ヒ素だけでなく、カドミウムや水銀なんかも吸着できて、食品の安全性を高めるために開発を進めています。既に特許を取得している粉末状の浄化材(有害元素を吸着する素材)を固めて、食器の形に成形するところまでこぎつけました。今はまだ素焼きの茶色い縄文土器のような風貌なのですが、商品化し、販売できるよう、食器メーカーとの連携を模索しているところです(加藤さん)。

開発中のドクター食器®
ヒ素、カドミウム、水銀などの有害元素を吸着できる粉末状の浄化材が原料。
使用後は重曹水にくぐらせれば、吸着力が復活する(特許出願中)。

── 食品の安全性についてはいろいろな情報が飛び交っています。リスクについてしっかりと理解しなければ…と思いつつ、全てに配慮していては毎日の生活が成り立たないようにも思います…。

例えば江戸時代に流行った化粧品の中にはたくさんの有毒元素が入っていて、元素中毒の事例が記録されています。今、当たり前に使われているようなものでも、何年後かに毒性がわかることがあるんです。我々のような環境労働衛生学の専門家は、普段の生活の中に潜む毒物を見つけ、取り除いたり、警告したりして、みなさんが病気になる前の予防に貢献したいと思っています(加藤さん)。

── 私たちも怖がるだけでなく、情報に敏感に、そしてそれを正しく理解していく必要がありますね。大事なお話をありがとうございました。

画像提供:加藤昌志さん・香川匠さん
インタビュー・文:丸山恵

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