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映画備忘録(劇場版メイドインアビス)

ご存知の方もいらっしゃるとは思いますが一部の界隈で大変な人気を博している漫画の映画化であります。
その中でも大変に個性的で独自の世界観を持った人気キャラクター、黎明卿ボンドルド(通称ボ卿)との一連の闘いの部分を描いた物語でございます。
アニメや漫画を読んだ方向けの内容と思いますのでまだの方は先に履修するべきでございましょう。

いわゆる萌え絵と言われるものに近いキャラクターデザインなので本質から離れたファンの方、と言いますか普通の女の子が普通に冒険をするお話を期待する方々がいくらかいらっしゃったようで的外れな批判も感想の中にはありました。

このような物言いからわかるかと思いますがこのメイドインアビスという物語、大変力強いファンタジーなのですね。
端的に言えば(人や原住生物の食事のリアルな表現としての)グロ、(自然の)暴力、(中世的、野性的な)エロがふんわりした絵柄でコーティングされた
いわばベルセルク糖衣版と言った趣なのです。

私は漫画は買って読んでいる程度には好きだったつもりなのですが映画を見た時に
こんな素敵な話だったかな?
と疑問に思ってしまいました。
その為一度原作を読み返してみたのですね。

やはり同じ内容のお話でした。

これは私が四、五年の間に成長し人の感情を読み取れるようになった為でしょうか?
はたまた時間に余裕ができた為ゆっくり考える余力が生まれたからでしょうか?
答えはわかりませんが今の私が思うことは
ボンドルドってそんな悪い奴じゃないんじゃない?
ということでございます。

ボ卿といえばアニメ、漫画史上でも中々上位にランクインするであろう鬼畜キャラクターとして有名(だと思うけど…友達が居ないので評価がよく分からない)ですが今回の映画、あらためて読み返した漫画。
どちらにおいても私の感情は彼を悪人とは思えなかったのです。

何故か?
思うにですが、彼の悪意の無さに尽きるかと思います。
もちろんレグを勝手に解剖(かってに改蔵じゃないよ!)しようとしたり、ミーティ・ナナチをはじめとした孤児を買いつけて人体実験をしたり。
現代法治国家であればあっという間に吊るし首になるような事をできるメンタルの持ち主のうえ、本来国家の物となるアビスの発掘品を横流ししてそれを研究費に充てるマッドな研究者でもあります。
ですが彼には悪意が感じられない。

彼は狂っているだけなのです。
見ようによっては可哀想な男です。
アビスの呪いを引き受けてもらい祝福のみを身に宿す方法を実践するためにおそらく何人もの孤児を優しく、丁寧に、大切に育ててきたのでしょう。
擬似的な家族のように。

彼の精神は既に人間を(良くも悪くも)凌駕しています。
それをふまえて考えれば彼は非常に優しい人間です。
実験動物でしかない彼らに本当に愛情を持って接しているのですから!

私には彼の気持ちがわかる気がします。
私も買ってきた魚や肉、野菜等々が愛しくてたまらない時があるのです。
はっきり言ってこれらは生き物の死体です。
そんなものでも、ものすごく魅力的で大切なのです。
もちろん人命と食材を同列に語るなという意見もあるでしょう。
当然です。
しかし人の心というのは見ず知らずの他人の命よりも身の回りの人の平穏を優先してしまう面があるわけです。
そこの価値観に他人の常識を当てはめても筋違いではないかと思うのです。
ボンドルドにとってはアビスの謎を解き明かす事は大切な家族の命、自分の命すらかけても惜しくない憧れだったのです。
その上で彼は自分を打ち倒し先に進もうとする主人公達を激励?祝福?するのです。
アビスの深淵に進み謎を解き明かせるなら、それが自分で無くても許せる寛容さを彼は持っています。

私はそんな彼が根っからの悪人とは思えないのです。
この映画は数多の他人と数多の自分を手にかけた悪役の夢が潰えるシーンを切り取った映画です。
ですがその夢を主人公達が(半ば勝手に)託される映画でもあると思うのです。

その純粋な夢、憧れの輝きを見ると私は彼を悪人と断じれないのです。

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