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無神経お悩み相談室室長の話

コンコンコン

「どうぞ、お入りください」

私はお悩み相談室室長のたけだ。

「あら? お見かけしない顔ね。
何をお悩みかしら?」

私の仕事は、人々の悩みを聞いて解決の手助けをすること。

今日もたくさんの相談者が代わる代わるやってくる。

「あの……
来月、文化祭があるじゃないですか」

「文化祭、あるわね」

「彼に、文化祭一緒に回らないか? って言われて。
でも私、みんなの前で一緒にいるの恥ずかしくて」

なるほど、可愛らしいお悩みじゃない。

「なるほど、それであなたはどうしたいんですか?」

お悩みにおいて、一番大切なのは
その人の意思だ。
意思がなければ、咄嗟に身体は動かない。

「一緒には回りたいんです」

「それなら答えは簡単なのでは?」

「え?」

「一緒に回りたいのなら回ればいい。
それ以外に答えなんてないでしょう?
周りの目なんてどうでもいいんじゃない?」

「そうですか……」

あら?
思ったより反応が悪い。

「恥ずかしいとおっしゃいましたが、
他に何か理由でもあるの?」

「え? いやぁ」

お?
突然緩み出す口元。
髪を触り出す指。

これは長年の経験上、惚気特別警報だ。

でも大丈夫。
私はお悩み相談室室長よ。
そんな小さなことで心乱したりはしない。

「文化祭って何日でしたっけ?」

相変わらずの様子で彼女、続ける。
たけだ、警戒態勢。
限界まで、椅子に腰掛け相手と距離を取る。

「文化祭は、確か。
6日じゃなかったかしら?」

「え!6日なんですか!」

「な、何か問題でも?」

「1ヶ月記念日だ」

デレデレな彼女。

警報!警報!
目の前の彼女、確信犯です!策士です!
雷に撃たれた。

たけだ総司令塔では激しい警報ランプとサイレン。
モブA「総司令官! この女、やはり!
惚気けるのが目的です!」

総司令官「慌てるな、みんな。落ち着くのだ」

モブB「総司令官!
そんな悠長なこと、
言っている場合じゃないでしょう。
早くご指示を!」

モブC「これ以上被害をもたらす前に」

総司令官「落ち着くのだ。
たけだを見てみなさい」

モブA.B.C「え?」


「そうですか、おめでとうございます」

にこやかなたけだ。

「いや、すみません。
惚気みたいになってしまいまして」


モブA.B.C「あ……」

総司令官「前回、ブチ切れた日があっただろう。
あの日、ずいぶん落ち込んだみたいでな。
もう心が狭い自分は見せない、と
心に決めたようだ。
立派になったものだな」

モブB「そうだったのか……」

モブC「僕らの主人はただのバカじゃなかったのか」

「ところで室長さん!」

前のめりな女。
たけだ、ここでさらに深く椅子に腰掛ける。

「何でしょう?」


総司令官「ん? こ、これは……」

モブA「総司令官? どうなさいましたか?」

総司令官「まずい、特別警報だ!」


「室長さんはぁ
彼氏さんとかいるんですかぁ?」

選手ここで決めてきた!
あざとさ全開、何故だ!
何故ここで上目遣い&首傾げ!
女子が一番可愛い角度、
これは狙ってしかできない大技だ!
しかも何だ!
その小さい「ぁ」は!!
頭悪く見えるぞ!辞めなさい!!

モブA「総司令官!!
たけだ限界に達しています!
これ以上いくと、
イライラバロメーター限界突破して、
人外のものになりかねません!!」

総司令官「その小技にはまだ対応できなかったか」

モブB「しかし、あの女やりやがる。
このタイミングでまさか
マウントを取ってくるとは」

モブC「だから、たけだもこんな相談室なんて
辞めればいいのに。
肌に悪い」

パキン!

総司令官「何だ!」

モブA「総司令官!!
警報ランプが割れました!
もう、限界です!」

総司令官「もはや、これまでか……」

モブB「あんたが諦めてどうするんすか!
守りましょう、俺達の主人を!」

総司令官「お前たち……
そうだな!まだ諦めるべきではない!」

モブC「あの、
熱くなってるところ申し訳ないんですけど
僕達の出番、もうないかもしれませんよ」

モブB「なに?」

モブA「どういうことだ?」

モブC、正面の大画面を指さす。

「彼氏……ですか?」

「はい!」

ルンルンな女。

「いません」

朗らかなたけだ。

モブA「あ……」

モブB「あれだけマウントを取られたのに……」


「ええ!?いないんですかぁ?」

わざとらしく口元を覆う女。
可愛らしい仕草ばかりを狙ってくる。
その度にたけだは、プロボクサーに殴られたかのような衝撃を受けているとは知らずに。

「作らなきゃ、勿体ないですよ!」

「ご指摘ありがとうございます」

「いた方が絶対、楽しいですよ?」

「ご指摘ありがとうございます」

「室長さん顔は良いのになぁ」

「ご指摘ありがとうございます」

「おーい、帰るぞ」

相談室にノック無しで入ってくる男。

「あ、はーい!」

キュルルンとそちらに尻尾を振る女。

「じゃあ!室長さん、また!」

「はい」

爽やかな笑顔で最後まで乗り切り
ここで試合終了!

総司令官「ここまで成長していたとはな」

モブC「正直驚きです」

モブB「成長してんだか、何だか」

モブA「え?」

モブB「ご主人様の手の平、見てみ?」

総司令官「爪の痕……」

モブB「必死に耐えてんだな、あの人も」

「ふぁぁ」

あー!やっと大きく息が着ける!

こんな仕事してて、
肌がボロボロになったらどうしよう。

手の平には爪の痕。
知らず知らずのうちに、
耐えようと握りしめていたんだな。

やったじゃん、自分。
上出来。

「我慢できたぞー!!」


モブB「よくやったよ」

総司令官「お前たちも、良い判断だった。
あそこで特別警報措置をしていたら、
こう穏やかに済まなかっただろうな」

モブA「特別警報措置はヤバいですからね……」

モブC「発令されなくて良かったです」

モブB「後片付けが大変だからな」


女性と男性って比べるものじゃないと思うけど、

今日だけは
「女性は男性より真っ向勝負を挑もうとしない」
というど偏見をぶちかまさせて頂きます。

リア充という安全圏に身を置いた者にしかできない
マウントはその代表例です。

今日の方だって、一見恋愛相談に見せかけて
盛大に惚気かましてきましたし。

もう私の脳内では途中から、バトル展開でしたよ。

自然なのか、わざとなのか知らないけど女性ってマウントを好む。
優越感こそ、女性の美しさを保つ究極の媚薬。
致し方ないわね。
世の女性は日々こんなマウントの泥試合を闘っているのね、大尊敬。

女性にとって恋愛って大問題。
それはすごく分かります。

若いうちの恋愛は結婚に繋がる。
結婚は家庭に繋がる。

みんな私みたいな人間にはなりたくないのね。

じゃあ、何で私はお悩み相談室の室長なんてしてるのかって?

それは話すと少し長くなるのですが、
よろしいですか?

あれは時を遡ること小学生時代……

コンコンコン

あらあら来客ですね。
なのでこの話はまた次の機会で。

「はい」

「おじゃましまーす」

ゆるっとふわっとした挨拶で入ってきた彼女。

椅子へと案内して、いつも通り温かい紅茶を出す。

「今日は何のお悩みですか?」

「実は、昨日彼から電話が来て……」

おや?
この様子、まさか別れ話?

「それで?」

「すごい真剣な声色で……」

あらあらあら、泣きそうな声。
慰めなきゃ。

「それは……」
「別れるって言われたらどうする?って」

「え?」

「別れるって言ったらどうする?って聞かれたんです!」

た、例え話ぃ?

「そ、それで?」

「そりゃあ、全力で嫌だって言いましたよ!
そしたら、笑って言ったんです。
聞いてみただけだって!」

「聞いてみた……だけ?」

「はい」

「それで?」

「それで」

急に様子が変わる彼女。
惚気に走る女子の危険信号、口元が緩む、髪を触る。

これは、戦闘準備。

モブA「総司令官!!
再び特別警報です!」

総司令官「またか!
今日は多いな!」

モブB「総司令官、どうするんすか?」

総司令官「もう少し様子を見よう」


「絶対そんなこと言わないから安心しろって言われたんです」

本日二度目の雷。

モブA「総司令官!!
ご指示を!」

総司令官「特別警報……だな」

モブA「特別警報!特別警報!
準備にかかれ!」

煌々と光る赤ランプ。
バタバタと慌ただしい総司令塔。

モブB「ご主人……」

モブC「B、何してる」

モブB「いや、何でもない」

モブC「あれを見てみろ」

モブB「あれは……」

大画面がいつの間にか黒く、閉じていた。

モブB「どうなっているんだ?」

モブA「総司令官!
制御が聞きません!
特別警報も発令できません!」

総司令官「これは……
イライラバロメーターが限界に達する
可能性があるな」

モブA「それってかなりまずいんじゃ……」

総司令官「万事休す。
こちらで制御不能となったらあとは
ご主人様を信じることしかできんよ」

モブB「ご主人……」

総司令官「こうなったらあれしかないな」

モブC「あれ?あれってもしかして」

総司令官「ああ、マウント返しだ」

モブA「それだけは!禁止では?」

モブB「お悩み相談室室長ともある者が
程度の低いマウントに対して、
喧嘩腰になるなんて」

モブC「それに、そんなことしても
泥試合になるだけです」

総司令官「だがしかし、特別警報が出せない今、
我が主人を守る手立てがそれしかない」

モブB「待ってください、総司令官」

総司令官「B、何だ?」

モブB「大丈夫です、
きっとご主人様なら大丈夫だから。
俺にいい考えがあります。
制御不能、特別警報発令不可能。
それでもご主人様に届く最後の手立てが!」



最近本当にこのような事例が多いですね。

「それは良かったですね」

よく言った!
よく頑張っている、私。

「そうなんです〜」

安心しきった、ゆるっゆるの顔。
もしかするとこれ、女の子が1番可愛い顔なのかもしれない。

「室長さんは恋人などいらっしゃいますか?」

またこの話か……
何故みんな同じことを聞いてくるのだろうか。

「いません」

学習能力はある。
イライラはしない。

「ええ?勿体ない〜」

「勿体ない?」

「だって、一人って寂しいじゃないですか!」

寂しい? 私が?
やっぱり世間からはそう思われているんだなぁ。

人の価値観なんて十人十色なのに。
常識が全てなのかしら。

「ご相談は以上ですか?」

笑顔は保ったまま。
あ、声がちょっと低くなったかも。
毒を吐きたいわけではないのだけど。

「え?」

一瞬、見えた彼女の変化。

一度息を吐く。
落ち着きなさい、落ち着くのよ。
たけだ、あなたはここの室長よ。
しっかりしなさい。

あら? 何か聞こえる。
ついに……幻聴!?

モブB「落ち着けって言うのは
全てを飲み込めってことじゃない!
あんたはお悩み相談室室長。
お悩みには答えが必要だ。
まだ彼女に伝えなきゃいけないことがある!」

モブC「ただ、キレるなって話」

モブA「冷静に判断を下し、
自分が正しいと思うことを伝えればいい」

総司令官「全ての決定権は君にある」

何これ、やだこれ。
本当に幻聴?

体の奥から、耳に直接届く声。

え?怖……

キレるな、ですって?
そんなこと私が一番分かってるわよ!
見てなさい、これが私の答えよ!

自分の中ではよく考えているように思えるが、
実の所は本能だけで動こうとしていたのかもしれない。

「恋愛において絶対的なのはお二人です。
言い方は悪くなりますが、
周りの人を巻き込んでしまうと
お二人のご評判に響きます。
きっとお二人は純粋に恋愛を楽しんでいるのだと
私はそう思います。
ですが、不用意な周りへの干渉や
現代の言い方を致しますと、マウントでしょうか?
それらの行為は周りの応援が離れてしまうだけです。
それこそ勿体ないです」

急な説教……
ごめんなさい。
自分でもウザイ女だと思います。
何か文句がありましたら、どうぞ。

「あ、ありがとうございます」

「え?」

「すみません、時々周りが見えなくなる時があって」

あら、もしかするといい子なのでは?

「嬉しかったです。
改めてそう言ってもらえて、安心しました」

あらあらあら。

「ちょっと目が覚めました」

笑う彼女。
先程とは少し違う、落ち着いた笑顔。

「また何かありましたら、ご相談にいらしてください」

しっかり戦闘準備をしていた私は拍子抜け。
心がふっと軽くなって、思わずそう言った。

「それでは、失礼します!」

ガタッと勢いよく立ち上がる彼女を目で追うことしかできなかったが、彼女は意気揚々と部屋を出て行った。

モブB「あ!」

モブC「見えた」

総司令塔の大画面がようやく視界を捉えた。

相談相手の彼女が部屋から出ていく場面が映し出された。

モブA「これは……一体どういうことだ?」

ジャラジャラと戦闘服に身を包んだモブAが拍子抜けした表情で画面を見つめる。

総司令官「我々が思っている以上に
彼女は成長したのかもやしれんな」

モブC「だいぶん無理して押さえ込んだみたいだな」

モブB「ご主人……」

モブC「他の者に助けを求めるなんて
B、らしくないな」



酸素くん「血管司令塔総司令官に電報!電報!」

血管司令官「何だね?
おお、これは懐かしい。
理性を司る総司令塔のメンバーからだ。
なになに。
彼らの声をご主人様に届ける?
奴ら何をするつもりじゃ?」


モブA「血管司令塔総司令官って優しいよな」

総司令官「物分りのよい同期を持つと助かる」

モブC「それで?
何でお前はそんなしけた顔してんの?
物思いにふけるキャラでもないでしょうに」

モブB「そんなんじゃねぇよ。
ただ、成長してんなぁって。
それだけ」

総司令官「お前たち、よくやった。
B、良い判断だった。
お茶にでもしよう」

モブA「やった!
じゃあ僕紅茶とモンブランで!」

モブB「梅昆布茶と桜餅」

モブC「ブラックコーヒーとナタデココ」

モブA「Cは相変わらず変な組み合わせだなぁ」

モブC「はぁ?バカにしてんのか?
コーヒーゼリーだってあるだろ?」

モブB「ああ、やかましい」

モブC「ああ?B、何つった?
いい度胸してんな」

総司令官「お前たちが喧嘩してどうする。
我々は総司令塔。
ご主人様の理性のキーパーだ。
我々こそ常に冷静沈着でいなければならぬ」

モブA「総司令官、誰も聞いていません」

総司令官「な!なんとけしからん……」

モブD「総司令官は何にしますか?」

総司令官「私はカフェオレとティラミス!
何度言ったら分かるんだ」

モブA.B.C「てかお前、今までどこにいたんだよ」


女の子は今日も悩める子羊として私の元を訪れる。
美味しい紅茶を飲んで、惚気を垂れ流し、
私はそれを必死に受け止める。

なぜ私がそんな人生を選んだかは次の機会として、

大丈夫。
女の子はみんな主役、みんな可愛い。

だから安心して私の相談室にいらしてください。

ですが、どうか行き過ぎた惚気はご勘弁ください。
どうなるかは、私のイライラバロメーターと
私の優秀な総司令塔の判断によります。

ああ、後やっぱり解決方法を提示されたなら
それを受け入れる心持ちでお越しくださいね。

それではみなさん、またの機会に。

お悩みの際はたけだの相談室まで。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

おはようございます
こんにちは
こんばんは

たけだです!

以前書いた「お任せ!無神経お悩み相談室」の続編を書かせていただきました!

新キャラクターも発動させて、とても楽しかったです。

新キャラクターの大まかな紹介をさせていただきます。

モブA…理性を司る総司令塔で働く。
正義感が異常に強く、総司令塔のエース。
好物は洋菓子。全力の甘党。
好きな扇風機の強度は「弱」

モブB…総司令塔の喧嘩番長。
曲がったことが大嫌いな九州男児。
→たけだは出身九州でもないし男児でもない
和菓子をこよなく愛する。

モブC…総司令塔きってのマイペース。
しかし、頭の回転は速く優秀。
偏食の類いであるが、
ナタデココへの執着が異常。

総司令塔総司令官…イライラバロメーター制御に最も
重要とされる総司令塔のリーダー
頼りがいのあるリーダーだが、
お茶目な一面を持つ。

モブD…びっくりするくらいのモブ度。

酸素くん…身体中を駆け巡る宅急便屋さん。

血管司令塔司令官…総司令官とは同期。
趣味は人生ゲーム。
人生もゲームみたいに簡単なら…

こんな感じで新キャラクターもわんさか出てきました。
メンバーが増えると楽しいですね(笑)

ぜひ次回作もご期待ください!
それではまたお会いしましょう!

ああ、最後に。
みなさんがずっと思ってきたことを代弁します。

はぁ?
何この超大作、劇場版かよ。


今日も独り言に付き合って頂き、ありがとうございます。
今日のは完全に最初っから最後まで茶番でした。
どうかお許しを。

素敵な一日をお過ごしください。

















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