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So kakkoii 宇宙の「ある光」

2022年6月25日土曜日、2年待った小沢健二の「So kakkoii 宇宙 Shows」は様々なライブに参加した中でも、この先ずっと忘れられないような1日となった。

チケットを取った当時は「TOKYO2020」が控えていることもあり、世の中は明るく希望に満ちたムードになっていることだろうと思いを馳せていた。しかし実際には違った。Covid-19の感染拡大に加え、「TOKYO2020」は1年延期の上に始まる直前までのゴタゴタ、想像していたきらびやかで華々しいムードとは真逆のものとなった。かと思えば戦争が始まり、ますますどんよりと暗いムードで溢れている。

「オザケン」と出会ったのは2013年の冬。友達に借りたでんぱ組.incのアルバム「WORLD WIDE DEMPA」に収録された「強い気持ち・強い愛」のカバーだ。いわゆる「シブヤ系」という言葉を認識したのもこの曲からだった。でんぱ組.incの楽曲提供陣のなかにはかせきさいだぁやカジヒデキなどもおり、「シブヤ系」のエッセンスは自分の中に知らず知らずに染み込んでいった。「LIFE」に収録された「今夜はブギー・バック」や「ラブリー」のような90年代の底抜けに明るくて、おしゃれで、クールな時代に憧れを抱いた。

しばらくたった2020年10月、真夜中に流れるラジオからの1曲が「オザケン」のイメージを変えた。「銀杏BOYZ峯田和伸とサンボマスター山口隆のオールナイトニッポン0」で峯田和伸がレコードに針を落とした「ある光」だ。今まで「オザケン」に感じていた「多幸感」は薄く、「諦め」や「寂しさ」、「やるせなさ」がみなぎっていた。この「ある光」は彼が一時活動を休止し、アメリカへ渡る前に出したシングル「春にして君を想う」に収録されていたことを鑑みると、私が感じていた「諦め」や「寂しさ」、「やるせなさ」は間違っていなかったのかもしれない。唯一見つけたTVのライブ映像では、J-POP的ではなくパンキッシュな「オザケン」が何もかも投げ捨てるように演奏していた。

この「ある光」はCovid-19の感染拡大が広がりによる自分の中に芽生えた未来への「諦め」や世の中への「やるせなさ」、変わっていく日常への「寂しさ」を体現してくれる曲になった。

6月25日、有明ガーデンで幕を開けた「So kakkoii 宇宙 Shows」。「流動体」や「今夜はブギー・バック」、「天使たちのシーン」、「強い気持ち・強い愛」といったアルバムからのヒット曲も多く、ストリングスやブラスによる豪華な生の「オザケン」に初体験の自分は多幸感に包まれた。

しかし終盤までアルバム曲が続く中で、心の隅で流石にシングルはやってくれないかと諦めかけていた、その時。何度も聞いたあのリフが、ストリングスの掛け合いも加わって煌びやかに響いた。発せられた「Let's get on board」は有明の海に一筋の光を見せた。ライブサウンドで聴いた「ある光」は「諦め」の歌ではなかった。暗がりの中でもがき、足掻き、見つけたかすかに差し込むこの先の時代への光へと「オザケン」が観客を導くように感じた。90年代の映像では見ることが出来なかった凄まじいまでの「生」への執着が自分には衝撃だった。このような幸を得られるのであるのなら、さして良い思いができるわけではないが、がむしゃらに「生」に執着して、「ある光」を追いかける日常を過ごすのも悪くはない。そんなことを思った。

彼は90年代、00年代を乗り越え、20年代を生きて、溢れた愛で私たちのようないわゆる「LIFE」以後世代をも自らの言葉で「見つけてくれてありがとう」と暖かく迎えてくれた。日常へと帰って2ヶ月ばかり経ってしまったが、JFKへと旅立った「オザケン」に思いを馳せる。続いていく儚い永遠を、アーバンブルーズをまた聴くことを期待しながら。

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