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彼女は頭が悪いから

「彼女は頭が悪いから」姫野カオルコ著 読了

これはとある事件を元にして作者がフィクションとして書いた話。東大の学生がいわゆるFランの女の子をわいせつした疑いで逮捕された事件。

後書きにある公判での証言は私にとっても興味深かったし作者がこの本を書く大きなきっかけでもあったのだろうな。

久々に心にグサグサくる本を読了。寝る前に読み進めていたのだけど、終盤を読むにつれて眠れなくなるほどいい意味で後味悪い、嫌な感じの本。ここまで心が抉られたのは宮部みゆきの「ソロモンの偽証」を読んだ時以来かも。

物語の構成としては、ごく普通の女の子、美咲周辺ターンと敷かれたレールを順当に歩むエリート男の子、つばさ周辺ターンを交互に組み合わせて高校生〜大学生(大学院生)までを描いている。結構頻繁に入れ替わるから今、いつの話だっけ?ってなることもちょいちょいあったかな。そんなには気にならなかったけど。


思ったことをつらつらと

この本の一番面白い?考えさせられることは様々な見えない優越感と劣等感、ヒエラルキーで当人はそれが当たり前だと思っている、という点だと思う。

〇〇ちゃんは〇〇附属高校に行ってるからすごい。東大に行ってるからすごい。とにかく私とは違ってすごいんだ。みたいな感情で溢れている美咲はまるで自分を見ている気分だった。美咲だって申し分ない家族と友達に囲まれて自分の選択肢がたくさんあって十分幸せであるのに。

反対につばさはまるで親に敷かれたレールを順当に歩くことが当たり前かのように生きている頭の良い子って感じがした。管理された塾に通い、東大という日本のトップ大学に入ることが当たり前、そこにはお金の使い方がまるでわかっていない、親のお金なのに当たり前に好きなだけ使う人で溢れかえっている。

もちろん、つばさのような人しか東大にいないってわけではないと思うし、そこは私もわかっているつもり。だけど、こんな異次元のような(少なくとも凡人の私からしたら)人たちばっかりが官僚になって、国会議員になって国を動かしているのかと思うと思いやられるというか。昨今、話題になっている女性軽視発言やセクハラ発言もきっとつばさのような環境で育ったから何が悪いのか純粋にわかっていないのだろうな、と思ってしまって軽く絶望。

最後のつばさや他の東大生、その親たちの考えは美咲側で育ってきた私にとっては恐怖でしかなかった。口先では謝っているけど、その行為の何が悪かったか全くわからない。

それに対して作者はこう答える。「ほとんどの事象に対して正解を出す東大生にとって美咲の返事は不正解だったから戸惑っていた。わいせつ行為をしたつもりは彼らに本当になかった。彼らはただ、自分より頭の悪い彼女を馬鹿にしたかっただけなのだ。」と。

これを読んだ時、前に読んだ「意味の環境論」や「エコロジカルデモクラシー」を思い出す。すなわち、一方にとってはただの石ころで遊んでいるだけなのだけど、もう一方にとっては凶器でしかなかった。同じ石ころでも捉え方は異なる。ここが格差社会における捉え方の違いの核心ではないかなと思った。

何が言いたいかっていうと格差社会の恐ろしさはただ学歴の違いとかそういうことだけじゃない。真の恐ろしさは世間一般ではよくないとする事象に対してそれを悪だと思わずに育っていくことだと思う。

結局、美咲は自分自身が通っていた女子大学の学長と話をし、救われていくような書き方がされていたが、傷は癒えないし、人間不信にもなりそう。ただ、すごい人たちのことをすごいって純粋に捉えただけなのにそれを下心、と世間では言われてしまうのだから。



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