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03 「夕焼けに触れるとき、」




私、もちろん夜が一番好きなんだけれど、陽が沈む瞬間にはとても悲しくなるの。まだ行かないで、ってお願いするの。


燃えるような夕焼けがクリーム色の褪せたシーツに映し出すレースカーテンの模様なんてとても綺麗なの。ずっと見ていたいし撫でていたい。夕焼けに触ったよって自慢したい。


薄汚れた窓に打ち付ける雨の音。そんな日は雨粒模様のシーツになる。映像みたいに模様が動いたりなんかしちゃうんだよ。可愛いでしょ。

そして今度は、真っ白なパジャマに着替えて窓辺に立つの。ほら、私だけの雨粒柄のパジャマの完成。

最後には、笑っちゃうくらいに不規則な雨音のドラムで踊って、夜が来れば疲れ切って溶けるように眠るの。1日はあっという間で物足りないくらい。

こんな素敵で贅沢なこと、私だけにしか出来ないのよ、って何度も何度もあなたに自慢したい。

その時は、そんなおかしなことを言うのはきっと世界で君くらいだよ、とあなただけは私を褒めていてね。


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静かになった部屋、綺麗に整えられたベッドだけが変わらずそこにあった。

未だ君がいないこの世界を受け入れられない僕には、シワひとつないシーツがそれを催促しているように思えて腹が立った。それから乱暴に腰を落とし、空っぽの部屋には不釣り合いな大きさの窓に目をやる。


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どれほどの時間こうしていただろう。燃えるような夕焼けが渇き切った僕の額を焼く。痛みで下を向いた僕の目に映ったのは、君がよく自慢していたレースカーテン模様の影を映したシーツだった。そしてその影もまた、君が撫でてくれないことを悲しむかのようにゆっくりと床に垂れていった。

夕焼け色に染まり、窓越しにじんわりと伝わる熱たちがおぼつかない輪郭を露わにしていく中、僕は体温が内側から沸騰する感覚を覚えた。太陽の熱のせいでもない、風邪を引いた時に発する熱の感覚とも違う。僕の身体は確かに、湧き上がる何かに温められていた。


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歳を重ねるたび欲張りになっていた。ないものを欲しがり、それは世間での価値が高ければ高いほど僕の中で美化され綺麗なものになった。

だけどたった今、常に身近にあるものたちが作り出した小さな景色を何にも代え難いほどに綺麗だと思ったのだ。高いお金を払ったわけでもなければ、何かこれといって努力をしたわけでもないのに。大したことではない。いつでも見られるような景色だ。それなのに悔しいほどに綺麗だった。

幸せが、夕焼けが、さっきとはまるで違うもののように身体中に染み込んだ。僕は既に渇き切ったはずの額に水をやるようにして泣き出し、そして何かに取り憑かれたかのようにしばらくそれを撫でていた。



僕は今、この感情をとてつもなく君に自慢したい。

そうしたら、そんなおかしなことを言うのはきっと世界であなただけよ、と君だけは僕を褒めていてね。



夕焼けに触れるとき、

それは君を想うとき。


想うことは思い出すこと。

思い出すことは想うこと。







= 死せる孔明''note''ななのかかんプロジェクト =


1日目 『イントロダクション』


2日目 『お気に入りの漫画たち feat 独断と偏見』



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