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私は親バカではない、全てはオキシトシンの成せる技

「LINE来た?今何番目くらい?」

「ううん、まだ。今、53番目」

「やっと半分くらいかぁ・・・」

最近の病院の診察はLINEで予約をする。
自分の順番が近くなったら家を出れば診察に間に合う。
娘の受付番号は127番目。
今日は土曜日だから混んでいるのだろう。

時計を見上げると午前11時15分。
この調子だと、診察時間はお昼を過ぎるかな。

「ママ、膝と腰が痛い」

丸まったタオルケットの中から弱々しい声。

「床の上で寝るからだよ。ちゃんとベッドで寝なきゃ良くならないよ
月曜日からテストでしょ?」

「ここがいいの・・・」

子どもの時からいつもこうだ。
風邪を引いて学校を休むとき
ちゃんと自分の部屋のベッドで寝なさいと言っても
リビングにお昼寝の布団を敷いて寝る。

理由は、、ひとりで寝るのは何か嫌だから。
小さい子なら分かるけれど、もう21歳なのに。。。
仕方ないなと思いながら、タオルケットから覗く目とおでこを眺める。
私そっくりだ、そんな幼い子どもみたいな娘が何だかんだ言って愛おしい。

ごはんがいい、の声に
お箸で摘まんだささ身フライをお皿に戻し
ご飯をソファーにもたれ掛かかった娘の口に放り込む。

昨夜、体調が悪くて食べ損ねたささ身フライを朝ご飯に食べる。
これじゃ、まるで雛鳥に餌を運ぶ親鳥だ。
雛鳥は親鳥に黄色い口を見ると本能的に
「エサを見つけて、この口の中に入れなくては!」という
給餌行動に駆られるらしい。
鳥より高等動物の人間だってオキシトシンのホルモンの前には
子どもを守る母性本能に抗えないのだ。
全てはホルモンの成せる技。
私は親バカではないはず。。。

先に診察券出しといで、と病院の車寄せで娘を降ろした。
車を停めて待合室に入ると
奥の診察室から、嫌だ―、ギャン泣きする女の子の声が聞こえた。
ここは耳鼻咽喉科だから
鼻の奥に細い棒を入れてのウィルス検査もあるよね、、
そうだよね、嫌だよね、、、と思いながら娘と順番を待っていた。

すぐに娘が呼ばれて診察室に入る。
するとさっきまで泣き叫んでいた女の子がお母さんと一緒に出て来た。

「りなちゃん、あんまり泣かなかったでしょ?
泣かなかったでしょ?アイス食べる」とお母さんにおねだりしている。
お母さんも、えっ?そうかな、と呆れ笑いをしていた。
その子とお母さんのやり取りに
嘘じゃん、あんなに泣いていたのに、と笑ってしまった。
同時に私はもう子育て終了なんだなと寂しくもなる。

診察室から出て来た娘に、どうだった?と聞くと夏風邪だって、との返事。

「土曜日の夏祭りに浴衣着て、たーちゃんと行くんだ。早く治さなきゃ」

たーちゃんとは付き合って2年になる娘の彼氏。
その前にテストでしょ?と思いながら、うん、と頷いた。

薬局で薬を受け取り、帰りにスーパーへ寄ろうとしたけれど
具合が悪そうなので一旦家に帰る。
その前にコンビニでハーゲンダッツの抹茶味を買った。
レジでピッとバーコードを通すと351円の表示に驚いた。
ハーゲンダッツってこんなに高かったけ?
でも、仕方ない、病気の娘が食べたいものだから。
私が甘いんじゃない、たぶん、世の中の親は一緒だよね?

帰宅して娘に、何食べたい?と聞くと、ハンバーグという答え。
今からスーパーへ行って、その後ドラックストアに寄って
帰って来たら肉を捏ねてハンバーグか、、、
あっ、それからお風呂も洗わなきゃ
洗濯物も、、やることだらけじゃん、私も休みたい・・・

一通り家事を終らせて疲れ切った私はソファーでうたた寝をしていた。
喉、いった、、目が覚めると娘が何やらスマホを私に見せた。

「ママ、かごバッグと髪飾りが欲しいんだけど」

何のこと?寝起きの頭で考えた。
かごバッグも髪飾りもあるじゃん、新しいの買えってこと?
はっとすると、無性に腹が立ってきた。

「もってるじゃん、買わないよ!」

そう一喝すると、エアコンでカサカサの喉が痛かった。

「じゃあ、おばあちゃんに頼むからいい!!」

出たよ、必殺おばあちゃんにおねだり作戦。

洗面所でうがいと化粧を落としていると
おばあちゃんは娘に浴衣を2枚も買ってくれたなぁ
これ以上は負担をかけたくないなと冷静さを取り戻した。

「ねぇ、かごバッグと髪飾りで全部でいくら?」

「そんなに高くないよ、3000円くらい。
たーちゃんに見せたら黄色い浴衣がいいって言ったの。
その浴衣に似合うのがどうしても欲しくて」

「仕方ないな、ママが買ってあげるよ」

ネットで下駄とバッグと髪飾りをカートに入れながら思った。

この、大きな雛鳥め!
親鳥の本能をくすぐる黄色の浴衣だって!
ママ、つい買ってあげたくなっちゃうじゃん。。。

私は親バカではない、娘に甘いのではない。
全てはオキシトシンのせい、母性本能のせいなんだ。。。










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