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横道それてみた結果

例えば広めのベランダだとしても、あれもこれもと植物を育てていれば、やはりスペースの限界がくるものだ。新たに棚を置くスペースなど、とうの昔になくなり、もう限界だ!となったとしても、それでも鉢が置ける場所をどうにかして作りたい!…これがベランダーの欲望ではないか。

棚を高くすればいいじゃないかと思われるかもしれないが、高くすれば洗濯物に当たるし、何より軒先のせいで日差しが届かない。上の空間以外に使えそうなところといったら、もはやベランダの手すりしかなかった。
最初、手すりにハンキングポットを吊るすというのは、なかなか良いアイデアだなと思った。道行く人にも緑あふれるベランダを楽しんでもらうことが出来るなんて、素晴らしいことではないか。

しかし、よく考えたら多肉植物は、真夏の直射日光と真冬の霜はNGだったのだ。つまり春と秋以外、手すり付近はあまり良い場所ではなかったのだ。
こんな基本的なことすら、うっかり忘れてしまうくらい、私は新たな場所を欲していたようだ。どれだけ鉢を増やそうとしているのだろうか。多肉への欲望は恐ろしいものである。

そういう訳で、手すりに壁掛けハンキングポットを吊るすという案は、残念ながら却下ということになったのだが、前のめり気味の私は、ハンキングポットを既に買っていたのだ。サザエさんもびっくりである。それが3年前の秋の出来事だった。そして、使い道を失ったハンキングポットを見ては、どうしたものかとずっと頭を抱えていたのだ。

そんな中、翌年の正月明けにアロマフィカスという多肉と出会ってしまった。このシソ科の多肉植物と出会ったことで少々浮かれ気味だった私は、あろう事か(ハーブも悪くないかもしれないな)と思い始めていたのである。
ベランダにハーブがあると生活に潤いがあるような気がする、と素直に思えてきたのだ。そして、(あのハンキングポットにハーブを植えてみたらどうだろう!)という考えに行きついたのだ。

この思いつきのせいで、ハーブを増やす計画が一気に加速した。
「春のハーブ祭り」である。私の中で需要と供給が完全に合致したのだ。ターゲットになってしまったハーブにとって、いい迷惑だったかもしれない。何故なら私が勝手に(ハーブはハンキングに耐えられるじゃないか)と思ったからだ。100%直感だった。私はハーブの特性など何も知らないのだ。それなのにアロマフィカスの香りを嗅ぎながら、あのハンキングポットにはハーブしかない!と決意したのだ。

しかし、それではあまりにも適当すぎると思った私は、軽くハーブを調べてみた。するとドライタイプとウエッティータイプがあることが分かった。簡単に言えば、与える水の量が多めか、少なめか、ということなのだが、私は迷わずドライタイプを選ぶことにした。少しでも多肉植物に似ていれば、タニラーとしての体裁が保たれると思ったからだ。

こうしてタイム、オレガノ、ローズマリーを迎え入れ、ハンキングポットに植えてみた。これらはドライタイプだ。多肉みたいなものだろう。
しかし毎日水をあげる習慣がないせいか、うっかり水をあげ忘れてしまうことが多々あった。習慣とは恐ろしいものである。2、3日経って、ようやく忘れていたことにハッと気付き、慌てて水をあげるのだ。
そんな調子だったので、初夏の暑さで早くもオレガノが早々と枯れてしまった。愛知は初夏でも厳しいのだ。そして枯れるまでいかないが、タイムとローズマリーも非常にカサカサな状態になってしまった。
もしかしたら多肉用の土にしたのがいけなかったのだろうか?多肉用の土は水はけがとても良いのだ。その上、水をあげる回数が少なかったので必要以上に乾いてしまったのだろう。いくらドライタイプとはいえ、ハーブに多肉用の土を代用したのは間違いだったのだ。

当たり前のことだが、ハーブは多肉植物ではなかったのだ。私はアロマフィカスとの出会いで、やはり浮かれていたのだろうか。
今まで多肉植物以外は目もくれず、タニラー道まっしぐらだった私が、ハーブなら許容範囲内だと思ってしまったのが間違いだったのだ。
あの時はそんな事に気づきもしなかったが、アロマフィカスの香りに惑わされ、タニラーとして横道外れた選択をしたのだ。それほどアロマフィカスとの出会いは、私の中の拘りをぶち壊すほどの衝撃があったのだ。

私の軽はずみな行動で、ハーブ(主にオレガノ)に申し訳ないことをしてしまった。暫し茫然自失となったが、このままでは見た目も良くない。何よりタイムとローズマリーも枯れる危険性があったので、植え替えをすることにした。気持ちを切り替え、オレガノの代わりに今度はラベンダーを植えてみることにした。オレガノでも良かったのだが、店頭には色んな種類のラベンダーが売られており、風に揺れている姿がとても可愛かったのだ。
植え替えの際、今回はハーブ用の土に替えた。娘がたまたま持っていたのだ。ラッキーだった。

新しくラベンダーが加わり、またポットの中が賑やかになった。ラベンダーの薄紫色の花が、思った以上に素朴で可愛らしい。昔、北海道のラベンダー畑に憧れていたので、ちょうど良かった。こんな機会がなければ育てることもないだろう。

しかし、このラベンダー、タイム、ローズマリーも、後の夏の本格的な暑さであっさりやられてしまうのだ。多肉ペースの水やりで、水が足りなかったことも原因だと思われる。多肉は多くても2週間に1回しかあげないのだ。

こうして私が横道それてみた結果は、残念ながらハーブたちに多大な迷惑をかけてしまったことだけだった。
慣れないことはしないに越したことはないのだ。


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