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架道橋をくぐると

かつての会社の最寄り駅を、北に向かって歩いていくと、右手に線路の下をくぐる狭い道がある。本線、中央線、私鉄と3つの線路を潜るので、架道橋がまるで長く薄暗いトンネルのようだった。そこを通らないと会社に行けなかったのだが、最初はこのトンネルを通っていくのが嫌だった。薄暗く人気のない所は、いつ襲われるか分からないと思ったからだ。もう襲われるほど若くないだろう?と思われるかもしれないが、金品目的もあるかもしれないではないか。
そんな心配な気持ちを、友人に伝えたら、
「そんなに金持ちそうにみえないから大丈夫だろう」と一笑された。
まぁ…確かにそうだ。ユニクロで固めた身なりは、どこからどう見ても平民そのもの。そう考えたら怖いどころか、最後には妙に愛着が沸いていたから不思議だ。

ところで、そのトンネルには、道幅が車1台と人がギリギリすれ違えるほど狭く、しかも高さが1.7mしかない箇所がある。私はチビだから大丈夫だけど、男の人はちょっと屈まないと頭がぶつかりそうだ。
その低い箇所は、トンネルと呼ぶにはしっかりした造りではなくて、線路がむき出しでモロ見える。最初の頃は、電車が通る度そのスピードや音にビックリしたんだけど、慣れてしまえば平気なもので、いつしか電車が通るのを楽しみにしている自分に気が付いた。

電車が通り過ぎるのを見るのは簡単だが、真下からとなると意外とレアなもので、例えばトンネルを出たら電車が来た!とか。トンネル潜り始めた時に電車が来た!とか。兎に角、本当にタイミングが合わない。
「あぁ、今日も真下じゃなかった。私があと10秒早ければ…」という感じで、なかなか真下ですれ違えることが出来なかった。

そうなると、どうしても真下で通過する電車を見たくなるのが、人の情。
もちろん少し走ってみたり、ちょっと立ち止まって待ったりしたら、すぐにでも真下から見れるかもしれない。しかし、こんな道でもそこそこ人通りがあって、妙な動きなんて出来ない。真下のタイミングを狙っているなんて、恥ずかしくて気付かれたくない。それにいつしか、
(普通に歩いて、偶然真下を通過する電車を見上げたい!)
という、よく分からない自分ルールが出来てしまった。そんな変なルール作ったもんだから、益々レア度が上がってしまった…。
ずっとタイミングが合わないまま悶々と過ごし、1ヶ月経ったある日の帰り、ようやく真下のタイミングが一致した!この時の興奮といったら!

やっと見れたーーーーーっ!!!!!

なんて、感動している瞬間に、あっという間に通り過ぎてしまった!しかも暗くてあまり見えなかった。やっぱり明るい朝に見たい!
通過する電車を真下から見て、やたら興奮しまくる私。
電車通過ごときで萌えてる…そんな自分を見て、初めて気が付いた。

…もしかして、私って電車好き?

アラフィフでようやく、自分が電車好きだと気が付いた。思い返せば、ホームに入ってくる電車を見てカッコイイ!と思っていたし、特に新幹線の近代的なフォルムに最高に萌えていた。
どうやら走っている姿でないと萌えないようで、展示しているものは興味がない。現役がいいようだ。銀河鉄道999のようにステーションを何本もの電車が行き交うような、そんなシチュエーションはもう最高だ!そういえば、息子は小さい頃、機関車トーマスにハマっていて、よく寝そべって、走っているトーマスの車輪をずっと覗き見ていたけれど、あれは私の遺伝だったかもしれない。

架道橋をくぐると、いろいろなことに気づくらしい。


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