魅惑のクルクルになれ
アルブカ・スピラリス・フリズルシズル。
もの凄く長い名前である。
短縮して呼びたいのだが、どこをどう短縮したら良いのか分からない。
ヒントが欲しくて調べてみたら、アルブカは属名のようだ。
ならば、スピラリスと呼んだら分かりやすいかもしれない。そう思ったが、スピラリスとスピラリス・フリズルシズルは違うものらしい。ケープ原産のスピラリスの巻きが強くなるよう、オランダで改良したものがスピラリス・フリズルシズルなのだ。
なので、フリズルシズルと呼ぶことにする。
本で見かけた時から、アルブカ属はずっと気になっていた多肉植物だった。
細く長い葉がクルクルっと巻かれ、見た目のインパクトがすごいのだ。お蝶夫人もびっくりするような縦ロール。そんな風貌のせいか、スピラリス・フリズルシズルには『ナンジャコレ』という、まるで冗談かと思えるような別名が付いている。
余談だが、フリズルシズルは直訳すると、「ジュージュー焼いて縮らせる」だ。フリズルシズルは日光に当てると、よりクルクル度が増すらしいので、ピッタリな名前だと思った。『ナンジャコレ』より数段良いと思うのは、私だけだろうか。オランダ人の方がネーミングセンスが良いと思った。
そんなフリズルシズルを園芸店で見かけ、たった880円だったので買ってしまった。因みにその時の風貌は、先っちょだけ巻き毛だった。それでもインパクトは大だった。さすが別名『ナンジャコレ』である。
家に帰って、さっそく植えかえをした。鉢から出して土を丁寧にほぐしたら、中から白い物体が出てきた。真っ白なその塊は、まるで何かの幼虫かのよう見え、私は固まった。
その昔ー。
息子が小さかった頃にムシキングが流行った。その人気はもの凄く、息子もアニメとゲームにハマってしまった。そして息子は虫が好きではないのにも拘らず、あろうことか「カブトムシを飼いたい!」と言ってきたのだ。
恐るべし!ムシキング!
私も虫は苦手だが、可愛い息子の頼みならば仕方ない。
しかし、飼ったのはいいが、本物の虫を目の当たりにしたら、やはり息子には無理だったようで、世話をしなくなった。結局、私が泣く泣くお世話をする羽目になったのだ。
「世話をするから飼って!」とは言われてなかったのだ。あの時、「お世話するなら飼ってもいいよ」と、なぜ言わなかったんだろう。男子たるもの、虫くらい触れるようになってほしいと思っていたのだろうか?
本当に失敗した。まだ「世話するから犬飼って!」の方が100倍良かった。犬は可愛いから、私が世話する羽目になってもまだ許せるが、相手はカブトムシだ。カブトムシがどんなにカッコよくても、やはり虫は虫、なのだ。
そしてこの時、カブトムシの幼虫に関する大事件が起きる。
ここで語るにはグロすぎる(私も文字にしたくない)ので、詳細は省略するが、兎に角、私にとってそれは大事件であり、以後、幼虫は私のトラウマの対象となってしまったのだ。それ以降、なるべく思い出さないように生きてきたが、この植え替えで、走馬灯のように鮮やかに思い出してしまった。
しかし、これは大好きな多肉なのだ。脳内ですぐ「幼虫」を「ユリ根」に置き換えた。後で調べたら、この白い部分は球根だった。あの時、ユリ根に置き換えたのは適当な思いつきだったが、割と適切だったのでは?と思った。
このユリ根の半分を地上にだそうか、それとも全体を地中に埋めようか迷ったが、ここは全体を地中に埋めることにした。
やはり白い物体は目にしたくなかったのだ。これが吉と出るか、凶と出るか。これから日差しをいっぱい当てて、クルクル巻いていく様を見れると思うとワクワクする自分がいた。