序章:私はベランダー属 タニラー科
ベランダの一角で、多肉を育て始めたのは2016年5月。
誕生日に当時の相方さんが多肉植物を買ってくれたのがきっかけだった。
それからの私は、ぷりぷりの葉や茎を見ては萌え、奇怪で異質な姿を見ては驚きそして萌え、数々の多肉たちを星にしては落ち込み、懲りもせず新しい多肉たちを迎え入れてきた。多肉植物をこよなく愛し、いつしかサボテンまで愛するようになった。
傍から見たらその姿は理解出来る範囲を超えているかもしれないが、なんてことは無い。
私はそこらによく居るベランダ―属のタニラー科の1人なのである。
思い返せば私の父も植物を愛する男だった。
山や野から気になる植物を持ち帰っては植え、そして挿し木しては増やしていたので、庭や室内はむせるほど植物に溢れていた。
私ら子供よりも植物を愛しているのではないか、と嫉妬に近い感情を持ったこともあったが、植物には罪がない。そんな父を見て、私も自然と植物が好きになったと推測する。
そして自分でお金を稼ぐようになった頃、部屋に飾る花を買い始めた。
クリスマスローズやキャットテールなど、生活に潤いが欲しいから花を買うものの、ついウッカリ水をやり忘れてしまい次々と花を枯らしていった。
(ズボラな性格だから枯れるんだよな…)
父が育てる生い茂る庭の草木や、室内で活き活きと育つ蘭を見ては、これは植物側の問題ではなく、自分のズボラさが原因なのだと考えた。
今なら自分の部屋が北側で光量が足りなかったと分かるのだが、当時の私は水やりが足りなかったことが原因と思い込んでいたのだから仕方ない。
自らを「植物を枯らす女」と罵り、徐々に植物を買うことを自重するようになった。しかし時折、我慢できずに花を買ってしまうこともあったが、相変わらず枯らすばかりで、事態は一向に良くならなかった。
そしてついに、これがダメなら最後しよう、とサボテンを育て始めた。
サボテンは水をあげなくても大丈夫だろう、そう考えたからだ。
この考えも今なら間違いだと分かる。サボテンも水分は必要なのだ。しかし当時の私は、サボテンは水がなくても生きられると、そう信じきっていたのだ。水をほとんど与えられず光量不足のサボテンは、当然のことだがカピカピに萎れ、いとも簡単に天国へ旅立ってしまった。
「なんでだよ!もう植物は買わない!」
植物は光合成をするー
小学生でも知っている基本を忘れた結果、植物を枯らし続けてきたのだが、そんなことに気づかない愚かな私は、一方的に植物と決別したのだった。
20代前半のことだった。
その後、植物を買うことも育てることもなく過ごしてきたのだが、あれから四半世紀経った今、相方さんが買ってくれた多肉植物をきっかけに私はベランダで4年間も植物を育てている。数は少ないが、封印のキッカケになった禁断のサボテンも育てている。不思議なものである。
大人になった私は、二度と同じ過ちをしないようにあらゆる情報を収集し、甘やかしすぎではないかと思われるくらい植物たちを大切に育てている。
暑ければ暑さに弱い多肉を室内に入れ、寒ければ寒さに弱い多肉を室内に入れる。台風が来るたび全多肉を室内に避難させる。立て続けに台風がくる時は大変だ。ベランダに戻したと思ったらすぐ避難することになるのだ。振り回されることになるが、台風が来るまでの間、日光に当てたいので分かっていても入れっぱなしにできない。意外と重労働なのだ。
ここまでケアしても、残念ながらズボラで大雑把な性格は変わらないので、この4年間で星になってしまった多肉植物たちも多いのだが…。
こうして試行錯誤しながら育てている多肉やサボテンのことを、これから勝手気ままに書いていこうと思う。