見出し画像

【完】チュピくん伝説でした

1話前話
中学校の少林寺拳法部の思い出を文字にしました。
ーーーーーーーーーーーーーーー

「卒業証書授与式を開式します」



 三月九日、中学校の卒業式を迎えました。思い返せば、入学前には想像もしていなかった激動の三年間でした。もしも青春の思い出を聞かれたら、少林寺拳法部の話を真っ先にするでしょう。
 中学校の入学時に140cmだった身長は、160cmまで伸びました。163cmのまっつんの背中がようやく見えてきました。チュピくんの進化は止まらず、180cmを超えています。僕が成長している間に、彼も成長しているので、一向に追いつける気がしません。



「卒業生 答辞」



 まっつんが壇上に上がります。例年、答辞は生徒会長が担当でしたが、前日にインフルエンザになりました。ドクターストップより、副生徒会長のまっつんが代役に抜擢されました。彼が学校の代表挨拶をしているのは不思議な感じでした。


「いつの間にか桜の木の芽が膨らんで、気が付けば、春の優しい日差しに季節が移っています」




 まっつんが答辞を読みあげます。彼は明らかに緊張していて、声が震えています。いつも一緒にいる僕にはすぐわかりました。


「三年前、私たちは新たな生活への期待と不安を抱きながら、初めて中学校の門をくぐりました」



 緊張しながらも胸を張って立派に大役を務めています。「まっつんがんばれ!」と心の中で応援します。
 学園祭や修学旅行など、中学校の行事の話を順調に読み上げていきました。

「部活動では、少林寺拳法部に入部した私に先輩たちが親切丁寧に1から指導してくれました。想像以上に武道は厳しい世界でしたが、先輩たちの背中を追いかけ毎日頑張りました。苦しかったり、焦ったり、大会に負けて悔し涙を流すこともありました」


 部活動の話になると、他の話よりも明らかに感情がこもっています。先輩たちが親切丁寧だったかはわかりませんが、「苦しかった」という言葉に夏合宿を連想しました。「大会に負けて」という言葉では三人で坊主になった日を思い出しました。三年間の部活動の思い出が頭の中に次々と湧き出てきます。

「時には、練習へ行きたくない。休んでのんびりしたい。と思う日もありました。」



まっつんは続けます。



「それでも頑張ろうと思えたのは、仲間の存在があったからです。一緒に…居てくれて…ありがとう…」



 最後は消え入るような声になっていました。まっつんはうつむいて涙ぐんでいます。僕ももらい泣きしてしました。



「・・・・・」




 まっつんは感極まり、答辞の途中で沈黙してしまいました。卒業式が止まってしまい、会場の空気が少しずつ重くなってきました。




「ファイトー!!」



 会場に大きな声が響きました。チュピくんが叫んだのです。



「がんばれー!!」




 僕も叫びました。身体が勝手に動きました。



「…失礼しました。私達は、今新しいスタート地点に立っています。中学三年間で学んだことを活かして次の道へ進んでいきます。これからも、私達は様々な困難に出会うでしょう。しかし、私達は三年間で身に着けた心の強さを糧に何事も乗り越え、失敗も成功に変えられるよう努力していきます。約束します。」



 まっつんは復活すると、立派に答辞をやり遂げました。会場は大きな拍手に包まれました。
 その後、無事に卒業式は閉式して中学校生活は終わりを告げました。
 人間にかかわることで永遠なるものは何ひとつなく、すべてはその初めから最後にいたるまで、つねに下降をつづけていくものなのでしょう。



「うわぁ、恥ずかしいッ!」



 まっつんは答辞で泣いてしまったことに頭を抱えて恥ずかしがっていました。僕は一生懸命さが伝わって、むしろ好感度は上がっただろうと思いました。


「けど…ほんとありがとな!」



 まっつんは照れ臭そうに言いました。そんな彼の肩をチュピくんが優しくポンポンとたたきました。



「四月から高校生かぁ、不安だよ…」 




 ネガティブな僕は帰り道でつぶやきました。「高校生になったら受験勉強あるなぁ」「先輩みたいに大会で活躍しなきゃダメだよなぁ」などと、次から次へと悪いイメージが湧いてきます。未来を想像すると、心配しなければならないことは山ほどありました。
 背が伸びて、白かった帯が黒く染まっても、僕のビビりな性格は変わりませんでした。



「なぁ武田?ワクワクしてこねぇーか?」


 誇らしげな顔でチュピくんは僕に言いました。その隣で、まっつんはニヤニヤしています。
 そんな二人を見て、僕は少しだけ、ワクワクしてきました。

ーーーーーーーーーーーーーーー
終わりです