「なぜ大麻で逮捕するのですか?」
2020年12月にリリースした電子書籍「なぜ大麻で逮捕するのですか?」のダイジェスト版です。こんな内容は出版社では出せないので、初めてキンドルで自費出版しました。世界の大麻事情は大きく変わっています。日本はどうなのか?大麻問題に関係の深い人たちとの対話を綴った本です。
第一章 激しいバッシングに晒されて ~元女優・高樹沙耶と考える~
2020年9月、俳優の伊勢谷友介氏が大麻取締法で逮捕された。知的なイメージで社会貢献活動も行っている彼が大麻で逮捕されたことに、多くのひとが驚いたことだろう。マスコミも連日、伊勢谷氏にまつわる情報を流している。しかし、今回のマスコミや世間の反応は、今までと少し変わってきているように、僕は感じた。
そこで、過去に同様に大麻で逮捕され、激しい批判を受け続けてきた高樹沙耶さんにお話をうかがうことにした。
私がバッシングされる理由
長吉(以下N):僕は2012年に、高樹さんの著書「ホーリープラント」の編集をさせてもらいました。これは、高樹さんの大麻への思いを初めて綴った本でした。また、大麻草検証委員会などでも一緒に活動をしてきたこともあって、逮捕後の裁判にも立ち会わせてもらうなど、割と身近な場所にいました。あの時も、その後もバッシングは凄いですよね。この状況をどう思いますか?
高樹(以下T):私の場合は、伊勢谷さんと状況が少し違うと思うんですよね。私は、法律で禁止されている医療大麻を国民に勧めていて、それを公約として立候補までしました。そこが違う。だから、単なる芸能人の大麻事件ではなく、多方面からのバッシングがあったんです。
N:あの当時はまだ、「医療大麻」という存在そのものを社会は知らなかった
T:そうですね。でも大麻のことは、勉強すればだれでもわかることです。大麻には強い依存性はなく医療でも役立つことは、科学的にも既に認められています。つまり、現代日本で大麻が禁止されているのは、経済的、倫理的、政治的な理由なのです。そんな日本の社会構造の中で、それを維持しようとする誰かの意図があるわけです。状況が変わることで、その人たちの不都合が発生する可能性もある。そういう、物凄く複雑な構造の中で、私は医療大麻の合法化を訴えるため、2016年の参議院選挙に立候補しました。その時は、医療大麻を合法にさせたくない人たちからの圧力というのが、すごく大きかった。私も社会の仕組みや動きを勉強させられました。
常に正しいことが正義ではないし、それを訴えてもどうにもならない。そんなことに、苦しみとか不条理感をめちゃめちゃ感じましたよね。だから逮捕後は、国民からのバッシングに関しては、すごく悔しくて悲しくてせつなかった。国から間違ったことを教えられ、その情報を何も疑わずに信じているひとたち。彼らはある意味すごくいい人たち。善良な市民です。そんなひとたちからのバッシングが、一番つらかったですよね。
だって、その人たちに一番使ってもらいたかったわけですから。皆のためになると思ってやったことが、結果的にあのような形になってしまった。そのことが、ものすごく悔しいんです。
N:なるほど。高樹さんの場合は、選挙に立候補した後に逮捕されたことで、さらに激しいバッシングを受けることになったんですね。
大麻で逮捕された芸能人たちが激しくバッシングされるという状況については、どう思いますか?
T:芸能人という立場は、常に目立つし注目を浴び続けます。だから私からいえば、そこはしょうがないことだと思いますね。女優時代には、いいことはすごく絶賛されたけど、不倫をしたり社会的なルールを間違ったりすると物凄く叩かれる。特に、女性誌にはよく叩かれましたね。しかしもちろん、芸能人であることによる世間やマスコミの反応には、それなりの覚悟はありました。
N:いいことも悪いことも広がるということですね
当局やマスコミは、法律を違反している
N:大麻に限らずですが、家宅捜索などで当局が踏み込んできた時に、マスコミのカメラが先回りしたりして、現場の瞬間を報道することはおかしいと、僕は思います。報道機関は、明らかに当局から事前に情報を得て行動しています。
2016年に長野県のある集落で起きた大麻事件の時も、一般人が住む家に捜査員とともにテレビカメラが入って、逮捕の模様を報道した。裁判所からの捜査令状は出ているだろうけども、まだ逮捕もされていない段階の個人情報が報道機関に流れ、しかもそれがメディアによって報道される。あるいは、一般の人たちが大麻で逮捕された時点で、実名報道されるケースもある。これは明らかに人権侵害です。
先日も、大麻取締法違反容疑の大学生が実名報道された。疑いがあるという時点で、書類送検も起訴もされていないのにです。そんなことが日常的に行われています。それについては、どう思いますか?
T:基本的に私たちは、運転時にお酒を飲んじゃったとか信号無視といった、日常生活を取り巻く法律以外のことは、普通に生活をしている時にはあまり意識しませんよね。だからこれらの報道も、一般の人たちは何も感じずに観ています。だけど、捜査時にカメラが入り報道するということは、確実に守秘義務違反という法律違反なんですよね。メディアも、この情報を与える警察やマトリ(厚生労働省麻薬取締官)も、法律を侵しています。それなのに、このことに対してはメディアも黙ってしまう。国民の人たちもそんなことは知らないから、「ふーんそうなんだ」と普通に見ているだけで終わってしまう
N:国民の多くは、そのことに対して疑問を持ちませんよね。
T:そうですね。そんな現場を見られるということは、一視聴者としてはやはり面白いことですよね。映像があればなおさらです。そういうことに対して、誰も何も言わないということにも疑問を感じます。私がそれを知ったのは、実は私が逮捕されて判決が出た後なんです。
元KAT-TUNのメンバーの田口淳之介さんとともに逮捕された小嶺麗奈さんの弁護士の望月宣武さんと話した際、「実は私たちは守秘義務違反ということで訴えているんです」と仰っていました。それを聞いて、私のケースも守秘義務違反なんじゃないのかと思ったんです。なのでそれを知ったとき、私が逮捕されたときももっと早めに準備をしていればいろなことをできたんだなと思いました。しかし、メディアにあそこまでやられてしまうと、さすがに気力がなくなります。普通の感覚であれば、黙ってしまいますよね。でも、あれからいろいろわかってきて、私以外の芸能人の逮捕や裁判についての報道姿勢には、やはり違和感を持ちます
N:そうですよね。かなりひどい。もてあそばれている感じがしますね
T:大麻取締法でカップルや夫婦が逮捕された時には、多くの場合は大麻の持ち主が起訴されます。もうひとりの尿から大麻成分が検出されたとしても、21日間拘束されて不起訴というケースがほとんどだと聞いています。
私の場合は尿から大麻成分が出てきました。しかし現場にあった大麻は、私のものではありませんでした。しかも一緒に逮捕された人物が、「私のものです」と証言していたので、真実は明らかになっていたはずです。それにも関わらず、「証拠隠滅の恐れがある」といって、私は3ヶ月間拘留されました。さらに3ヶ月という期間で4回の裁判を受けました。
N:通常の大麻所持事件であれば、1回から2回の裁判で終わりますが、そんなにかかったのですか