弁護人冒頭陳述要旨(その3) 石塚弁護人

前橋地方裁判所 令和3年特 (わ)第296号 大麻取締法違反

被告人 大藪龍二郎

弁護人冒頭陳述要旨(その3)

 

前橋地方裁判所刑事第 1部 御中

2022年3月25日

 

(主任)弁護人 丸井 英弘

 

弁護人 石塚 伸一

第1 はじめに

 

1 逮捕に至る経緯、犯行状況等

 

被告人は、令和3年8月8日午前5時55分頃、公訴事実記載の路上に駐車中、通報を受けて臨場した警察官から職務質問を受けた。警察官は、被告人に対し、所持品検査を実施し、バッグから「大麻草のようなもの」を発見し、任意に提出したチャック付ビニール小袋入りの植物の予試験を実施し、THC(テトラヒドロカンナビノール)を検出したことを理由に被告人を大麻所持罪の現行犯として逮捕した。

 

2 検察官の主張

 

検察官は、「被告人は、みだりに、2021(令和3)年8月8日、群馬県吾妻郡長野原町大字与喜屋1624番地社会福祉法人長野県原町社会福祉協議会長野原町保健センターから南西方約1キロメートル地点の路上に駐車中の自動車内において、大麻を含有する植物片約3.149グラムを所持した」として、大麻規制法第24条の2の第1項違反で起訴した。

 

第2 主張の概要

 

1 大麻規制法24条の2の第1項の構成要件性について

 

(1)大麻草か否かは、植物学的知見に照らして、科学的に特定されなければならない。

 

大麻規制法第24条の2第1項は、「大麻」を、「みだりに」所持した者を処罰している。同法第1条は、「大麻とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品」と定義する。同法は、覚せい剤取締法や麻薬取締法などのように、特定の化学物質の所持等を禁止する法律ではなく、「大麻草」という植物およびその製品の所持を処罰する法律である。

したがって、被告人の所持していた「大麻のような物」が「大麻草」に該当するか否かは、植物学的知見に照らして、科学的に特定されなければならない。

 

(2)自己治療目的の少量の大麻草の所持は、処罰すべきではない。

 

大麻取締法は、大麻の使用を処罰していない。その理由は、正当な目的のための使用は、自己または他人にとって有害でないからである。所持についても、「みだりに」所持した者を処罰していることから、自己治療目的の少量の大麻草の所持は、社会的に許容される行為(社会的相当行為)であり、大麻取締法の構成要件には該当しない。

大麻草の使用や少量所持に対して、刑事罰で臨むことが不合理かつ有害であることは、国際社会の一致した見解である。

 

(3)大麻成分の治療目的の使用は、医学的に治療効果がある。

 

治療目的の適正量の大麻使用が、医学的に治療効果があることは、すでに世界の医学界で共通の知見になっている。

被告人の大麻使用は、自らの持病である「パニック障害」を治療するための適正な使用であり、依存症が原因の病的乱用でない。

 

(4)被告人を処罰する必要はない。

 

被告人は、芸術活動を生業とし、平穏な社会生活を営む芸術家である。このような被告人を懲役刑で処罰し、社会から隔離することはあまりに苛酷である。

 

(5)小 括

 

したがって、被告人の「大麻のような物」の所持は、社会的に相当な行為であり、よしんば違法であるとしても、処罰を必要とするような重大な違法行為ではないので、麻薬取締法第24条の2第1項の構成要件に該当性しない。

 

2 被告人の大麻使用はやむを得ざるものである。

 

被告人は、イギリス留学時代からパニック障害症状にあり、安定した創作活動を継続していくためには、副作用の強い向精神薬等を使用することが憚られた。大麻については、自己治療の範囲内で治療方法の手段として使用していたものである。また、現実にも、被告人にとって、大麻使用は治療効果があった。

したがって、被告人の治療のための大麻使用は、現実に治療効果があり、他に有効な方法がなかったことから、実質的に法益侵害などの違法性を欠く行為であり、処罰の対象とすべきではない。

 

3 憲法違反

 

(1)   明確性を欠く刑罰法規の適用である。   (憲法31条違反)

 

大麻規制法は、その構成要件の規制対象の特定および行為の態様について、明確性を欠くことから、そのような曖昧な刑罰法規を適用して刑罰を科すことは、憲法第31条の適正手続に違反する。

 

(2)   残虐で異常な刑罰の適用である。     (憲法36条違反)

 

平穏な社会活動を営んでいる被告人を社会から隔離し、芸術活動の道を奪う刑事罰の適用は、被告人にとってあまりに苛酷であり、憲法36条および国際人権法の禁じる公務員による過剰な刑罰の適用である。

 

(3)   大麻草の栽培等を規制することは職業の自由を侵害する。

(憲法22条1項)

 

大麻取締法の制定過程等に鑑みれば、大麻取締法は、大麻草の栽培を限定的に規制する法律であり、1960年代に始まる現在のような取締まり当局による恣意的な法の運用は、憲法第22条1項の「職業選択の自由」に違反する。

 

第3 結論

 

以上の理由から被告人は、無罪である。

以上

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