法律上の意見(冒頭意見陳述)2(大麻取締法の憲法及び条約違反性)

 

令和3年(わ)第296号大麻取締法違反事件

被告人 大藪龍二郎

 

法律上の意見(冒頭意見陳述)2(大麻取締法の憲法及び条約違反性)

 

令和4年(2022年)3月25日

 

前橋地方裁判所刑事第1部 御中

 

主任弁護人 丸 井 英 弘

 

第1。大麻取締法の違憲性1

1。大麻取締法は憲法第31条の適正手続き条項に実質的に違反し、また同法第22条の職業選択の自由や同法第13条の幸福追求権そして同法第25条の文化的な最低限の生活の保障、36条の残虐な刑罰の禁止に各違反する違憲立法である。

 大麻取締法は、社会的必要性が無いのに、占領米軍の占領政策として一方的に制定されたものであり、占領後の日本を石油繊維などの石油製品の市場とするために、石油繊維とその市場が競合する大麻繊維の原料となるカンナビス・サティバ・エルと呼ばれる大麻草の栽培を規制したものである。従って、憲法第31条の適正手続き条項に実質的に違反し、同法第22条1項の職業選択の自由や同法第13条の幸福追求権、同法第25条の文化的な最低限の生活の保障に各違反する違憲立法である。

 そして、大麻取締法29条では「昭和20年勅令第542号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基づく大麻取締規則(昭和22年厚生農林省令第1号)はこれを廃止する。」と規定しているが、この昭和20年勅令第542号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令は、昭和20年10月12日に出されたGHQ(連合国占領軍—実質は占領米軍)公衆衛生福祉局のメモランダムに基づくものである。しかしながら、このメモランダムは縄文時代の古来から衣料用・食料用・紙用・医療用・儀式用に使われ、日本人に親しまれてきた大麻草の栽培の自由という基本的人権を禁止するものであるから、ポツダム宣言10項の「基本的人権の尊重が確立されるべし」に全く違反しており、そもそも無効である。この点は、大麻取締法がその出発点において正当性を有していないということを意味しており、基本的人権の擁護を任務とする司法裁判所の裁判官としては、憲法99条の憲法尊重擁護の義務からして、その当否を真剣に検討していただきたきたい。

大麻草とは、日本名でいえば、麻(あさ)のことであり、植物学上はくわ科カンナビス属の植物である。そしてカンナビスには種(しゅ)として、少なくともカンナビス・サティバ・エル、カンナビス・インディカ・ラム、カンナビス・ルーディラリス・ジャニの三種類があることが植物学的に明らかになっている。各名称の最後にあるエルとかラムとかジャニというのはその種を発見、命名した学者の名前の略称であり、サティバは1753に、インディカは1783年に、ルーディラリスは1924年に発見、命名された。いずれも大麻取締法が制定された1948年以前のことである。

 大麻草のうち、(カンナビス・サティバ・エル)と呼ばれる種類は、日本において縄文時代の古来から主に繊維用に使われて来たものであり、特に第2次大戦前は、繊維用などに不可欠な植物として国家がその栽培を奨励してきた植物である。

 そして大麻取締法は、この衣類の生産など産業用に栽培されてきた日本人にとって貴重な植物である大麻草(カンナビス・サティバ・エル)の栽培等を規制した占領米軍による占領立法である。従って、大麻を規制する社会的必要性がまったくなかったので、大麻取締法は、その立法目的を明記していないという法律として異例な形をとっている。占領米軍は、占領後の日本を石油繊維などの石油製品の市場とするために、石油繊維とその市場が競合する大麻繊維の原料となるカンナビス・サティバ・エルと呼ばれる大麻の栽培を規制したものである。過去の判例は、大麻取締法の立法目的を「国民の保健衛生の保護」としているが、日本において、大麻の栽培使用は縄文時代の古来から行われて来たのであり、大麻取締法制定当時も含めて「国民の保健衛生の保護」上の問題はまったく起こっていなかったであるから、その解釈は間違っているものである。

第2次大戦前の日本における大麻草つまり大麻の栽培風景は、1929年の第16回二科展に発表された清水登之氏の「大麻収穫」という次の絵のとおりである。清水氏は栃木県出身であり、その絵は1920年代の栃木県鹿沼地方での大麻収穫風景を描いたものである。

 また、中山康直氏著の「麻ことのはなし」評言社2001年10月10日発行の46頁で農業絵図文献よりの引用で「古来から日本の各地の畑で見られた麻刈りの風景」という題で次の絵が紹介されている。

 

さらに、昭和12年9月に栃木県で発行された大麻の生産発展を目的にして発行された「大麻の研究」という文献あるが、その45頁で日本における麻の分布図を引用しているがあるが、その内容は次のとおりであり、大麻が日本全国において縄文時代の古来から栽培利用されてきたことは明らかである。なお、「大麻の研究」の末尾で著者(栃木県鹿沼在住)の長谷川氏は次のように述べている。

「斯る折に本書が発刊されこの方面に関心を持つ人達に愛玩吟味されて日本民族性と深い因縁のある大麻に対する認識を新たにし、是が生産発展上に資せられたなら望外の幸と存じます。」

 

 大麻草の栽培が日本の伝統的な文化財であることは、大分県日田郡大山町小切畑で大麻すなわち麻の栽培をしている矢幡左右見さんが 1996年6月26日、文化財保存技術保持者として文部大臣から認定を受けたことからも明らかである。大山町のホーム頁でその記事の要約を次のとおり紹介している。このように、大麻の栽培者が文化財保存技術保持者として文部大臣から認定を受けているのであり、大麻すなわち麻を犯罪として取り締まることが不適切であることは、明白である。

 『 矢幡さんは、昭和6年に栽培を始め、49年から福岡県久留米市の久留米絣(かすり)技術保存会から正式な依頼を受けて粗苧の製造 を始めました。以来、矢幡さんは毎年、粗苧20Kgを出荷しています。粗苧(あらそ)とは、畑に栽培され、高さ2メートルに成長した麻を夏期(7月中旬頃)に収穫して葉を落とし、約3時間半かけて蒸し、さらにそぎ取った表皮を天日で一日半ほど乾燥 させて、ひも状にしたものです。粗苧は、国の重要無形文化財である「久留米絣」の絣糸の染色の際の防染用材として使われ、久留米絣の絣模様を出すためには欠かせないものです。しかし、栽培・管理の手間に比べて利益率が低いことから生産者は減少の一途をたどり、 現在では矢幡さん一家を残すのみとなりました。 久留米絣の模様は粗苧なしではできないといわれており、粗苧が無形文化財の保存・伝承に欠く ことのできないものであるということから、今回の認定になりました。矢幡さんは、「ただ、自然にやってきたこと だけなのに、とても名誉なことです。」と話しています。』

また、「麻 大いなる繊維」と題する栃木県博物館1999年第65回企画展(平成11年8月1日ー10月24日)の資料集では、次のあいさつを紹介している。

「ごあいさつ

麻は中央アジア原産といわれ、わが国への渡来も古く、古代より栽培されています。

表皮を剥いで得られる繊維は、他の繊維に比べ強靱で、肌ざわりがよく、木綿や羊毛、化学繊維が登場するめで、衣服や漁網、下駄の鼻緒の芯縄、各種縄などに用いられてきました。その一方では麻は特別や儀礼や信仰の用具に用いられ、現在でも結納の品や神社の神事には欠かせない存在となっています。麻は実用のみならず信仰・儀礼ともかかわる、まさに大いなる繊維でした。

 ここでは、質量とも日本一の「野州麻」の産地である足尾山麓一帯で使用された麻の栽培・生産用具、麻の製品、ならびに東北地方の一部で使用された麻織物に関する用具や麻織物を展示するものです。麻がどのように生み出され、利用されてきたか、大いなる繊維「麻」について再認識していただければ幸いです。

 おわりに、本企画展の開催にあたり、御指導御協力をいただきました皆様にこころより、御礼申し上げます。

平成11年8月1日         栃木県立博物館館長 石川格 」

そして、表紙の2頁目では、前述したように次の鹿沼市立北小学校校歌が紹介されているが、このような麻が第2次大戦後の占領米軍による占領政策でもって犯罪視されてしまったのである。

「 鹿沼の里に もえいでし 正しき直き 麻のこと

         世の人ぐさの 鏡とも いざ 伸びゆかん  ひとすじに 」 

 

なお、赤星栄志著―麻は「農作物」であるーでは次のように述べており、大麻取締法の目的が日本の伝統的な農作物であった大麻草を規制するものであったことは明らかであるので、大麻取締法は憲法22条1項の職業選択の自由を侵害している。

「大麻取締法の制定の経緯の観点から

麻は、縄文時代から第二次世界大戦前まで誰でも自由に栽培することができた作物である。最初の法的規制は、1930年「麻薬取締り規則」昭和5年5月19日内務省令第 17 号であった。この規則は、 1925年第2あへん条約の発効に伴い制定され、印度大麻草(カンナビス・インディカ)とその樹脂を規制した。日本では、繊維用の大麻草(カンナビス・サティバ)の栽培であり、その規制は、麻農家には全く影響がなかったのである。

当時の農林省(現・農林水産省)は、麻を主要な農作物として捉えており、同省が編纂して発行した冊子に掲載されている(下記参照)。

農商務省農務局、日本主作農作物耕種要綱. 特用作物 (大日本農会, 1917)

杞柳、除虫菊、大麻、苧麻、菜種、煙草、 草 、七島藍    」

「日本で農作物として栽培されてきた麻の規制は、1945年8月15日の戦争終結直後の 10月12 日に連合軍総司令部(GHQ)に日本政府に麻薬に関するメモランダム(覚書)を発行したことから始まった。 メモランダム(覚書)を受けて、同年11月24日付省令の「麻薬原料植物の栽培、麻薬製造、輸入及び輸出等禁止にする件」によって、麻を麻薬と定義した上で、その栽培、製造、販売、輸出入を全面的に禁止した。

当時の日本では、繊維原料としてはもちろん漁網や下駄の鼻緒などの需要は多く、その栽培は不可欠であった。当時の農林省は、「大麻は日本の農作物である」といって、再三の交渉の結果、この禁令は解除され、1947年4月に「大麻取締規則」厚生・農林省告示第1号を制定し、栽培は免許制度となった。同時に厚生・農林省告示第 1 号では、栽培県を 12 県指定して面積を 5000ha とした。ここで注目すべき点は厚生省と農林省の共同管轄であったことである。 」

そして、大麻取締法は、縄文時代からあった大麻草と言う植物とともに共生しながら生きてきた自然環境保全型の日本人の文化的歴史を否定するものです。つまり大麻取締法は日本人の自然環境保全型の麻文化を否定する法律ですので、憲法25条で保障している日本人の最低限の文化的生活を否定するものです。

地球環境温暖化の問題は、人類が自然環境を破壊し自然とともに生きる生き方を否定してきたことが大きな原因ではないかと思います。温暖化対策の中心的な政策として麻産業の全面的復活が必要であると思います。

 

第2。大麻取締法の違憲性2

1。大麻取締法の保護法益が、過去の判例のように「国民の保健衛生」であるとしても、大麻には、刑事罰をもって規制しなければならない有害性がなく、大麻取締法は、憲法(第13条・第14条・第19条・第21条・第25条・第31条・第36条)に各違反し無効である。

 大麻には致死量がなく、アルコールやニコチンタバコに比べて心身に対する作用は極めておだやかであり、個人の健康上も格別に害のあるものではない。

 犯罪とは人の生命・身体・財産という具体的な保護法益の侵害であるが、大麻取締法違反事件においてこの様な法益侵害はまったくみられないのである。

2。最高裁判所「最高裁昭和60年(あ)第445号昭和60年9月10日第1小法定決定・裁判集(刑事)240号275頁、最高裁昭和60年(あ)第735号昭和60年9月27日第1小法定決定」は、大麻の有害性を認定しているが、その具体的内容は、自動車運転に対する影響のみである。

 自動車運転における酒やその他の薬物の規制はすでに道路交通法66条(過労運転等の禁止)で、「何人も、前条第1項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。」と規定し、その違反者に対しては、道路交通法第117条の2で「五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。」とされているので、それ以上に大麻を規制する具体的理由は存在しないものである。

 大麻に対する規制は、酒や煙草に対する規制(以下に引用する未成年者飲酒禁止法・酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止に関する法律や未成年者喫煙禁止法)と同様で十分である。大麻取締法の規制は、これらの酒や煙草に対する規制と比較してあまりにも著しく厳しいものであり、憲法第14条や同13条の趣旨にも反するものである。

①未成年者飲酒禁止法(大正十一年三月三十日法律第二十号)最終改正:平成一三年一二月一二日法律第一五二号

第一条  満二十年ニ至ラサル者ハ酒類ヲ飲用スルコトヲ得ス

2 未成年者ニ対シテ親権ヲ行フ者若ハ親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者未成年者ノ飲酒ヲ知リタルトキハ之ヲ制止スヘシ

3 営業者ニシテ其ノ業態上酒類ヲ販売又ハ供与スル者ハ満二十年ニ至ラサル者ノ飲用ニ供スルコトヲ知リテ酒類ヲ販売又ハ供与スルコトヲ得ス

4 営業者ニシテ其ノ業態上酒類ヲ販売又ハ供与スル者ハ満二十年ニ至ラザル者ノ飲酒ノ防止ニ資スル為年齢ノ確認其ノ他ノ必要ナル措置ヲ講ズルモノトス

第二条  満二十年ニ至ラサル者カ其ノ飲用ニ供スル目的ヲ以テ所有又ハ所持スル酒類及其ノ器具ハ行政ノ処分ヲ以テ之ヲ没収シ又ハ廃棄其ノ他ノ必要ナル処置ヲ為サシムルコトヲ得

第三条  第一条第三項ノ規定ニ違反シタル者ハ五十万円以下ノ罰金ニ処ス

2  第一条第二項ノ規定ニ違反シタル者ハ科料ニ処ス

第四条  法人ノ代表者又ハ法人若ハ人ノ代理人、使用人其ノ他ノ従業者ガ其ノ法人又ハ人ノ業務ニ関シ前条第一項ノ違反行為ヲ為シタルトキハ行為者ヲ罰スルノ外其ノ法人又ハ人ニ対シ同項ノ刑ヲ科ス

 

② 未成年者喫煙禁止法(明治三十三年三月七日法律第三十三号)最終改正:平成一三年一二月一二日法律第一五二号

第一条  満二十年ニ至ラサル者ハ煙草ヲ喫スルコトヲ得ス

第二条  前条ニ違反シタル者アルトキハ行政ノ処分ヲ以テ喫煙ノ為ニ所持スル煙草及器具ヲ没収ス

第三条  未成年者ニ対シテ親権ヲ行フ者情ヲ知リテ其ノ喫煙ヲ制止セサルトキハ科料ニ処ス

2 親権ヲ行フ者ニ代リテ未成年者ヲ監督スル者亦前項ニ依リテ処断ス

第四条  煙草又ハ器具ヲ販売スル者ハ満二十年ニ至ラザル者ノ喫煙ノ防止ニ資スル為年齢ノ確認其ノ他ノ必要ナル措置ヲ講ズルモノトス

第五条  満二十年ニ至ラサル者ニ其ノ自用ニ供スルモノナルコトヲ知リテ煙草又ハ器具ヲ販売シタル者ハ五十万円以下ノ罰金ニ処ス

第六条  法人ノ代表者又ハ法人若ハ人ノ代理人、使用人其ノ他ノ従業者ガ其ノ法人又ハ人ノ業務ニ関シ前条ノ違反行為ヲ為シタルトキハ行為者ヲ罰スルノ外其ノ法人又ハ人ニ対シ同条ノ刑ヲ科ス    

③ 酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止に関する法律第4条(罰則等)1項 では、 「酩酊者が、公共の場所又は乗物において、公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をしたときは、拘留又は科料に処する。」とし、2項では、「 前項の罪を犯した者に対しては、情状により、その刑を免除し、又は拘留及び科料を併科することができる。 」と規定しています。そして、拘留又は科料の内容としては、刑法第16条・17条で次のように規定しています。

 (拘留) 第16条  拘留は、一日以上三十日未満とし、拘留場に拘置する。

 (科料) 第17条  科料は、千円以上一万円未満とする

3。判例タイムズNo.369の424頁の大麻取締法違反事件の判例解説で、次のように述べているので参考にしていただきたい。

「我が大麻取締法はいわゆる占領軍立法の一つであるが、昭和38年(法108)になって、従来の3年以下の懲役又は3万円以下の罰金という比較的ゆるやかな罰則が、選択刑としての罰金が廃止され、懲役刑も重くなって、5年以下の懲役という比較的きびしい刑罰に改正された。大麻に従来考えられていたような強い有害性は認められないと考えられている現在、なおこのような懲役刑のみを以て処罰する立法を維持することが賢明であるかは疑問の存するところである。」

 

第3。大麻取締法の違憲性3(大麻取締法第4条1項2号・3号、大麻取締法第24条の3の違憲性について )及び(大麻取締法第4条1項4号・第25条の違憲性について。

1。大麻取締法第4条1項2号は、大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること。大麻取締法第4条1項3号は大麻から製造された医薬品の施用を受けること。をいずれも非常に重い刑事罰(同法第24条の3の1項2号で5年以下の懲役、営利目的の場合には同法第24条の3の1項2号で7年以下に懲役または情状により7年以下の懲役及び200万2以下の罰金に処せられる。)でもって規制している。

 大麻草には医薬用の有用性があるので、このような規制は憲法第13条・第25条・第31条・第36条に各違反している。

2。大麻取締法第4条1項4号は、大麻に関する広告を禁じているが、右規定は大麻に関して公に意見を発表することを刑事罰(同法第25条で1年以下の懲役または20万円以下の罰金に処せられる。)でもって原則的に禁止するものであり、憲法第13条・第19条・第21条・第31条・第36条に各違反している。

3。以上のような違憲規定を有する大麻取締法は、法律それ自体の保護法益が不明確なことと目的規定を欠いていることとあいまって、大麻取締法全体が違憲と評価されるべきである。

 

第4。大麻取締法は1961年の麻薬に関する単一条約に違反している。

1961年の麻薬に関する単一条約の28条2項では、「この条約は、もっぱら産業上の目的(繊維及び種子に関する場合に限る)叉は園芸上の目的のための大麻植物の栽培には、通用しない。」とされている。大麻取締法はまさに「産業上の目的(繊維及び種子に関する場合に限る)」の大麻栽培を原則的に禁止しているので、この国際条約28条2項にも違反している。

 

第5。大麻取締法は生物多様性条約に違反している。

1992年5月に「生物多様性条約」がつくられ、2008年10月現在、日本を含む190ヶ国とECがこの条約に入り、世界の生物多様性を保全するための具体的な取組が検討されているが、その条約2条では、「生物の多様性」とは、すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息又は生育の場のいかんを問わない。)の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む)とされており、大麻草を規制することは、この生物多様性条約の趣旨にも違反するものである。

 

夏井高人(明治大学専任教授)も明治大学法律研究所発行の法律論 84巻第4・5号に掲載されている論文「植物分類体系の変化が法制度に与える影響ー大麻規制法令を中心とする考察」注(18 ) 注(35)で次のように述べられているが、私も同様の見解である。

注(18 )将来、石油などの地下資源が枯渇または大不足する時代が到来することは確実である。現代社会では石油から精製された化学物質を原料とする化学繊維が優勢となっているが、植物由来の繊維 (綿、麻など)の有用性は時代を超えて維持されているだけではなく、化学繊維の原料が枯渇する時代にはその重要性を増すものと推定される。したがって、今後の法政策論としては、アサ属 (カンナヒス属)植物を含め、繊維としての優れた特性を有する原料となる植物を適法に栽培・活用できるよう にする方向で再検討すべき時期に来ていると考える。

注(35)アサ属(カンナビス属 )に属する植物すべてを違法なものとして消滅させる方向での法規制 ・法解釈 ・法執行は 「生物の多様性が進化及び生物における生命保持の機構の維持のため重要であることを意識し、生物の多様性の保全が人類の共通の関心事であることを確認し、生物の多様性の著しい減少又は喪失の根本原因を予想し、防止し及び取り除くことが不可欠であることに留意し、生物の多様性の著しい減少又は喪失のおそれがある場合には科学的な確実性が十分にないことをもって、そのようなおそれを回避し又は最小にするための措置をとることを延期する理由とすべきではないことに留意」すべきものとする生物多様性条約(Convention on Biological Diversity,1992)の基本精神と真っ向から矛盾することにもなる。

人類にとって有害な植物であると否とにかかわらず、地球上の種の多様性は維持されなければならない。さりとて人類の安全を考えれば、 有害な植物を無条件で野放しにすることもできない。この根本的矛盾を解決するための唯 一の方法は、有害性の根拠を吟味した上で、その有害性を抑止するために合理性を有する限度でのみ特定の種類の植物に対する法規制をするという政策を採用する以外にはないものと考える。

 

 

 

 

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