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野党は自民党という「太陽」に照らされた「月」である…今の政治の問題点

メイン画像は「サイタマ!」の元ネタでおなじみの自民党のシンボルである。今回の題材を語るのにこれほど適したものはない。

日本に政治不信が芽生えて久しい。しかし、それはなぜ起こっているのか。多くの人は政策に原因を求める(もちろんそれは大事だ)が、そもそもイデオロギー問題になってくるので判断は人それぞれだ。それよりも、自分には日本政治は政策以前の問題を抱えているように見える。以下、炎上の種になりやすい政策の是非について極力議論しない形で政党について考えてみる。

与党の独り相撲

自民党は結党以後、基本的に勢力側だった。だからこそ自らの政策を強引に押し付けることができた。特に21世紀に入って以降、その傾向は顕著となったように思われる(自分が政治で何をやっているのか分かるのが小泉政権以降というのもあるが)。そのようなことをやれば、自らの政策の是非を打ち消してしまうのは当然のことだ。

その象徴たるのが、先日殺された安倍晋三元首相だ。自分と考えを異にする者を「こんな人たち」と言い放ち、自らの息がかかった者を重用する「お友達内閣」を築き上げ、不祥事や自らの黒い疑惑にはほっかむりを決め込んだ。残念ながら、国葬に値する人間とは思えない。国内に敵を作り、万人に対する政治を行ってこなかったからだ。国葬というのはみなオフサイドで弔意を示せる人物でないといけないのではないか。

第2次安倍政権の後を継いだ菅義偉前首相も問題だ。裏方の能力に長けてはいるだろうが、コミュニケーション能力のような人の矢面に立つ力に欠けていたように思われる。そんな人物が党の、国のトップに選出されるというのは自民党の裏の顔が見えてくる。

しかし菅氏の最大の問題点は彼の「リーダーシップ」のとらえ方だ。相談を省いて迅速に独断するというのは独裁に近い。つまり、私としては日本学術会議の任命拒否問題を許すことは到底できないのだ。特定メンバーの任命を意図的に外してその理由を説明しないのは(先にこちらにお伺いを立てろよという)恫喝にあたるし、彼らの決定を覆さないのが前例ならまず突っぱねるのではなく会議や野党とのコンセンサスを作る(できるかとは思えないが)などの根回しが必要だった。中小企業のワンマン社長を見るようだ。

公明党との連立も問題だらけだ。創価学会の集票力に依存する体制は問題だ。政教分離問題を置いておくにしても個人の政党選びの自由を脅かす政党である。学会の平和路線と乖離する政策に学会員は混乱している(あくまでもこの記事では公明党の政策へに対してコメントしない。ただ一般論を述べたまでである)。このままの関係を続けるのは日本のためにも、創価学会という宗教団体のためにも良くない。というよりも自民党政権を延命させ、社会の新陳代謝を阻害したという点で、失われた10年が延々と延びる元凶かもしれない。

これらの問題は、自民党が万年与党で、他に政権の座を脅かす要素が無かったから起こるのだ。では野党は何をしていたのか。

既存野党の問題

元始、女性は実に太陽であった。真正の人であった。
今、女性は月である。他に依って生き、他の光によって輝く、病人のような蒼白い顔の月である。

平塚らいてう、「青鞜」発刊の辞

おそらくお気づきかと思うが、タイトルはこの名言を踏まえてのものである。長く政権をとれなかったがゆえに具体的な政策を欠いている野党は、自民党の政策に異を唱えることが仕事となってしまった。逆張りをしていれば自然と対抗案になる(し、少なからぬ反自民層を取り込める)からだ。野党が主体性を持つということができないというのは日本政治最大の悲劇である。そのため対応は得てして後手に回り、他人に厳しく自分に優しくなってしまうのだ。

それはまさに「他に依って生き、他の光によって輝く、病人のような」生き様だった。かつて日本共産党は「確かな野党が必要です」というスローガンを掲げていたが、つまり与党になることを端から諦めているのだ。そして有権者はその政策が実現不可能である(特に財源問題)ことを見抜いている。

共産党は20年以上トップが変わらないことも懸念事項だ。志位さんはまだ70であり行動できる。実績を重ねてきた彼の資質を疑うわけではないし、強欲な私心を持っているようにも見えないが、他に指導者たる人材が育っていないのは不安を覚える。志位さんが委員長の座を降りた後、共産党がどうなるのか注視する必要があるだろう。

そう考えると旧民主党は頑張ったと言える。鳩山さんの気分屋ぶりには呆れるが、みんな経験不足(それが出たのが311)の中自分のやりたい政治を手探りで頑張っていたと今では思う。しかしそれが下野した途端雲散霧消してしまった。立憲民主党はコンセプトがはっきりしているから将来性はある。その前身の民進党は何がやりたかったのかいまだに謎だ。同じく民進党から分かれた国民民主党は思い切って「民主党」の看板を捨てるべきだったように思う。

余談だが、小沢一郎さんがもしもう少し辛抱がある人だったら首相は難くなかったのに(潮目を感じる嗅覚に優れている人だと思う。本質的には勝負師なのかも)と思うと残念である。それも壊し屋故か。呂布の血筋を引いているのかもしれない。

そして政党交付金をもらえるかという瀬戸際をふらつく社民党。辻元清美さんをはじめとした主だった顔も立憲民主党に移っており、風前の灯火どころか四面楚歌である。旧社会党の歴史を組む由緒正しい党ではあるが、引き際を読めないリーダーに従う党員の心境はいかに?

逆に是々非々で政策をとっているのに、与党の補完勢力に見える政党もいる。日本(大阪)維新の会と国民民主党である。これらの政党の課題は自民にないカラーを打ち出すことである。10年後にどうなるかはそれ次第だろう。しかし維新の会の大事な点はは政策ではない。

新参者だった彼らが無視できない勢力を得られたのは、まず大阪という自治体運営で成果を上げ、大阪都構想という目標を具体的に作っていったからだ。議席が取れないことで悩んでいる政党は維新の会のように実現可能かつ具体的なゴールを見定め、無理の無い中間地点を多数設けることが必要だ。そうすれば日本の政治バランスはかなり変わってくる。

維新の会は橋下徹さんというカリスマ(維新の会という組織づくりでは弁護士時代に社会を見た経験が役立っているはずだ)を失っても成り立つ、機動性のある(アジャイルな)組織づくりができているのではないか。松井代表が表舞台から姿を消しても、その損失に耐えうるだろう。政党組織の運営力に関しては日本で随一のものを持っている。

泡沫政党は太陽になれるか

しかしそれだけが野党ではない。日本には選挙のたびに議席を全然取れない政党が生まれることが多い。結果が惨憺たるものでもめげずにしぶとく活動するものも割といる。その意気込みや良し、しかしたいていの場合は烏合の衆である。いや、太陽のような恒星になりたがっているアステロイドだ(つまり永遠に恒星になれない)。党を作る前に組織力を磨けと言いたい。

多くの場合、何らかの妄執(他民族に関する差別感情を「保守」と混同したり)をこじらせた人たちが集まることが多いので、政策は普遍的と言えず、大抵碌でもない。しかし私はNHK党の公職選挙法をハックした政治活動に危機感を感じる。まずは第三者によって1票の格差是正を含めた公選法改革をしてもらう必要がある。自分たちを選ぶ法律を自分たちで決めてどうする。

個人的に気になるのはれいわ新選組である(それにしても革新思考の政党が警察組織の名をいただき、保守気味の政党が「維新」、要は革命的な名前を党に付けるという皮肉よ)。その奇をてらい過ぎた候補者選び(候補者の本気度を疑うわけではないが)などはグロテスクだが、山本太郎さんのやる気は十二分だ。そろそろ泡沫から脱皮するときだ。山本さんがこれまでの政治活動で学んできたことを昇華することに期待する。それができなければただのパフォーマーに終わってしまう。

日本最大野党は誰だ?

しかし、我々は今あげた野党の誰よりも実行力と経験を持つ「野党」を知っている。それは自民党の首相と違う考えを持つ勢力である。自民党の特色は左右のスペクトラムを広く含むアマルガム的な集合体であることだ。そしていろいろな派閥がにらみを利かせて政治ができるという、一種の自己完結性が長期与党としての安定性を支えたと言える。

それ故に、戦後日本は政権選択という機会を持てなかった。できるのは自民に票を入れないという消極的な反対である。日本新党も社会党も、民主党も皆、自民の不調のおこぼれにあずかった部分が大きい。

もし小沢さんが自民を抜け出した際にもっと大きな亀裂を入れられたら、と思わずにはいられない。だがまだ遅くは無いのかもしれない。自民党は右派と左派に分かれるべきだ。そうすれば政権担当能力を持った2大政党が誕生する。時折政権を変わることで、お互いの行動に対する抑止力、つまり緊張感が生まれる。そういう不安定性を嫌ったからこそ自民党という怪物が誕生したというのも間違いなかろうが。

政治家に必要なこと

個人的には自民党に独占禁止法を適用して解散させたい。しかしそれはどう考えても無理筋である。時間はかかるが、野党には(先輩議員の回答をコピペした生稲センセーと違い)自分の言葉と自分の論理でしっかりしたビジョンを明確に示し、政策を語れるようになってほしい。それには例えば10年後の社会の理想像を確立して、バックキャスティングで現実的な道筋を生み出していく、維新の会のような能力が必要である。自民党の議員は自らの存在が脅かされると判断したら自己変革ができるだろう。

かつてジョン・レノンが「Imagine」で歌ったように、"You may say I'm a dreamer, but I'm not the only one"(「夢想家と言われてもいい。だが私(のように考える人)は一人ではない」)。政治家に求められているのは人を巻き込み("I hope someday you'll join us")、その訴えを世界に広げていく("And the world will live as one")能力である。そのためには、ジョンのように想像力(Imagine)豊かにビジョンを広げて、かみ砕いて説明していかなければならない(Imagineのそれは共産主義そのものだが、ある変化が社会にどのような変革をもたらすかについて語る様は、自分たちの考え方を伝える参考になるはずだ)。

リーダーの3大資質

これからのリーダーには、次のような資質が求められると思う。

  1. 自分と異なる意見を許容する懐の広さ

  2. 自分の信念を曲げない覚悟

  3. 多種多様な意見を部下から引き出せる能力

1と2は相反する様に見えるが、事実誤認が無い限りは信念が間違っていることはないだろう。人の意見で変わるのは理想実現の手段だ。

3は韓非子の昔から口酸っぱく言われていることで、自分の思いつきというのは決して最善ではない。多種多様な意見を引き出すことはリーダーの役目だ。それは1が無ければならない。2000年もの昔に定量的な計画立案能力や各人の自律を重んじる韓非子の先見の明には恐れ入る。個人を欲望を持つ存在として捉え、統治者をシステムとして扱う(いささかそれが窮屈に思えるが)演繹的な論法は合理的経済人などの古典的経済理論に通じるところがある。社会学の発展した今こそ読み直す価値があるのではないか。

あるいは、今の時代に求められているのは人たらし的リーダーシップなのかもしれない。懐が広くないと人をたらし込めない。了見の狭い人に対しては警戒するのが人間の本能だからだ。自分の核が無いのにみんなからせっつかれる人はただの「都合のいいやつ」で、人はそれを人たらしと呼ばない。そして何と言っても、人たらしなら相手の方からいいアイディアを持ち寄ってくれる。真の人たらしは「この人のためなら」という引力と、周りの頑張りを引き出せる触媒としての作用を持っているからだ。つまり人たらしは3条件を簡単に満たせる。カエサルも秀吉も龍馬も、上から可愛がられ下から慕われる仲間づくり能力の天才だ(それ故に政敵から警戒されたという表裏一体の側面はあるが)。

安倍元首相は人たらしではなく、自分に都合のいいやつをかわいがる人のように見えた。菅義偉前首相はパンケーキでマスコミをたらし込もうとして盛大に失敗した。両者とも人柄というよりは仕事をきっちりこなすことで上からの評価を得たように見える。岸田首相は典型的な「都合のいいやつ」に見える。あまりに聞き役に徹しているからだ。都合がいいからこそ、長老から安パイとして利用されて、日本トップの座に担ぎ出されたのかもしれない。

ただ、私のような政治経験の無い理系崩れが何を言っても絵空事なので、日本の組織論における巨匠の提言を引用したい。野中郁次郎先生は様々な共同研究を成功させているが、彼のもとにたくさんの研究者が自然と集まってくるという。野中先生は間違いなく人たらしだ。

国家のリーダーを選ぶのは国民です。目先の利害を言い立て、架空の「害」を除き、目に見える「利」をもたらすことを約束する政治家に支持を与えがちになります。それでもなお、国家のリーダー足らんとする人たちは、共通善とそれを実現する戦略を物語るべきです。国民も、リーダーが物語る歴史的構想力に支えられた理想とそれを実践する戦略に耳を傾け、理解しなければなりません。リーダーが共通善の実現を目指して実践する一連の行動を観察し、監視しつつ支持しなけらばならないのです。

野中郁次郎 聞き手・前田裕之、「『失敗の本質』を語る なぜ戦史に学ぶのか」(日経BP)

野中先生が厳しく指摘する通り、「共通善とそれを実現する戦略を物語る」リーダーはなかなかいない。小泉元首相や安倍元首相のように、「目先の利害を言い立て、架空の「害」を除き、目に見える「利」をもたらすことを約束する政治家」だらけだ。そもそも日本の政治が敵を作ることで自らの主張を正当化するからだ(それはどこの国も大同小異だろう)。また、岸田首相のように「聞くこと」に注視するだけではだめだ。それは戦略はおろか、共通善(ビジョン)も生まない。

野中先生の理想を一番簡単に実現できるのは維新の会かもしれない。少なくとも戦略を持っているからだ。共産党も彼らなりの共通善を持っているはずなので、それを戦略に落とし込めればいい線行くのではないか。野党が共通善をしっかり示し、その現実的な道筋を示すことができるなら、自民党もそうせざるを得ない。そのとき、55年体制は真の意味で過去のものになるだろう。

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