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「楽園追放 心のレゾナンス」に注目すべき理由

2014年のSFアニメの名作「楽園追放」(以下前作)の続編「楽園追放 心のレゾナンス」が待ち遠しい。東映アニメーション製作・水島精二監督・虚淵玄脚本・キャラデザ齋藤将嗣・音楽NARASAKIという布陣が再集結する。筆者はこの作品に多大な期待を寄せている。その主な理由は「この10年、監督もスタジオもセルルック3D作品の精度を上げていった」からだ。

「楽園追放」の衝撃

まずは、前作がどれだけ筆者の心に残る作品だったかというところから話さなければならない。はじめにこの作品を知ったのは今は亡きGyao!で流れていた5分間のお試し映像だった。そこではロボットを駆る少女が巨大な虫を相手に銃撃戦を仕掛け、すんでのところで仕留めそこねるが、それをおっさん(失礼!)スナイパーがとどめを刺すというシーケンスだった。「意地でも無駄弾は使わない!」と言いながら、マルチロックを仕掛ける少女―アンジェラの姿を今でもよく覚えている。「3Dでこんなに2Dっぽい絵が描けるのか、すごいな」と感動して、劇場に足を運んだ。流石にTVと映画を比べるのは酷な話だが、キングダム(第1シリーズ)とは雲泥の差!

劇場で観るセルルック3Dは迫力が違った。所々2Dに見えている、違和感のない絵だけどそこも全編3Dという、ドッキリを食らったような衝撃が走った。本当に、我々がよく知るアニメらしさが、しっかりと映像になっていた。絵コンテは水島精二監督と、エウレカセブンシリーズで知られる演出担当・京田知己が共同で手掛けており、両者が今まで手掛けてきた2Dでの知見を3Dに余す所なく展開している。

前作は王道のサイバーパンクであり、バーチャル世界と生身・管理社会「ディーヴァ」と環境が悪いが自由な地球の対比、生きているとは何かを問いかけるアンジェラと現地エージェント・ディンゴの旅と、二人が出会った自我を発見したAI「フロンティアセッター」の友情と別れは今思い出しても泣ける。虚淵作品はそれまで見たことがなかったが、その才能を十分に感じられる良いストーリーだった。ブルーレイ買って見直そうかな…

果たして「心のレゾナンス」で、虚淵先生はどのようなストーリーを描くのか、小説での続編「楽園追放2」との関連はどうなのか、など、情報がまだ少ないだけにワクワクさせられる。

2Dからの華麗なる転身

水島精二監督は前作を手掛けるまでは2D作品を主に担当してきた。しかし、彼は前作で「2Dで育った監督でも3Dでこれほどの作品が作れる!」ということを証明してみせた。以降、監督は主戦場を3Dに移し、結果を出してきた。例えば総監督作品「フラ・フラダンス」ではもっぱら3Dパートを担当し(特にフラダンスパートは3Dらしい自由なカメラワークと2D的な動きの感触を両立しており必見。最初3Dであたりを取って作画しているのだと思ったよ!)、2Dは錦田慎也監督に任せていた。余談だが、前作と並ぶセルルック3Dの代表作「蒼き鋼のアルペジオ」の岸誠二監督は2Dと3Dを行き来しているし、谷口悟朗監督は一時期「ID:0」「Revisions」で3Dにトライしたが2Dに戻ってきている。ここまで割り切った鞍替えができる水島監督は大したものである。

そんな水島監督は現在多忙。こちらも虚淵先生とタッグを組んだ「アイゼンフリューゲル」の総監督(もちろん観に行く!)、アニメ版「GUILTY GEAR」のプロデューサー、DJ活動、アニメ版の監督を努めた(こちらもセルルック)「D4DJ」のCDのビジュアル監修・同作品発ユニットPhoton Maidenプロデュースと精力的に活躍しているが、もともと「大江戸ロケット」の完成直後(本当にクールの休みも無い!)にあの大作「機動戦士ガンダムOO」を作り上げたのだから、「心のレゾナンス」の出来を心配するのは杞憂というものだろう。

変革する王者

また、近年の東映アニメーションの3D作品の成果は計り知れないものがある。おなじみプリキュアのエンディングテーマのダンスが東映3Dの原点とするなら、前作はターニングポイントと言えよう。それから8年後の2022年、このスタジオはセルルック3D作品としての(もちろんそれ以外の面でも)傑作を2本も送り出した。すなわち「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」と、翌年の興行収入トップを叩き出した「THE FIRST SLAM DUNK」である。両者ともまさに漫画の絵が動く感動を我々に届けてくれた。また、セルルックではないが、2019年から3D作品として「聖闘士星矢: Knights of the Zodiac」シリーズを制作している。それにしても、3Dメインの作品を再び作るまで5年もかかっているのだから、前作の存在感の大きさを感じさせてくれる。

それだけでも東映アニメーションの3D作品には期待に値するが、「心のレゾナンス」製作発表後に、セルルックのTVシリーズとして製作された「ガールズバンドクライ」が放映、好評を博し、勢いをつけている。ずっとこの記事を書きたいと思っていたが、背中を押してくれたのが「ガルクラ」だった。

日本におけるセルルックの先駆的作品「FREEDOM」や昨年好評を博した「SAND LAND」を作ったサンライズ、「いぬやしき」を手掛けたMAPPAなど、2Dも3Dも得意とするスタジオは少なくないが、やはり日本最大のスタジオである東映アニメーションが3Dに本気をかけているという事実は大きい。

アンサングヒーロー

そして、忘れてはならないのが、前作のアニメーション制作を担当したグラフィニカである。近年でも「SSSS.GRIDMAN」シリーズや「機動戦士ガンダム 水星の魔女」でセル画と遜色ない3Dアニメーションを提供している。

彼らが「心のレゾナンス」に参加するという話はまだ出ていないが、「THE FIRST SLAM DUNK」では東映アニメーションとダンデライオン・アニメーションスタジオが共同制作しており、同様の立ち位置でグラフィニカが参加する公算は大きいだろう。ただ、前作ではアニメーション全般をグラフィニカが担当していたが、昨今セルルックで成功している東映アニメーションからのフィードバック量は格段に増えるはずだ。もちろん実績を積んだ東映が主管となり、グラフィニカなどが制作協力することも考えられる。

そして環境

さらに作り手側の経験値を語るなら、齋藤さん(別名義についてはあえて語るまい)もゼノブレイド2・3のキャラデザで知名度を上げている事も忘れてはならない。

そんなクリエーター陣の充実はもちろんだが、セルルック3D作品はTV・配信・映画問わず春の時代と言わんがばかりに本数が伸びており、質も上がってきている。代表的なところだと2作目以降の「BANG DREAM!」、前出の岸誠二監督による「ケンガンアシュラ」や、「魔王城でおやすみ」、「ルパン三世VSキャッツ・アイ」あたりが挙げられよう。

完成されているがゆえに頭打ちな2D作品とは違い、3Dには伸びしろがある(個人的には「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 2045」「アーヤと魔女」のような、非セルルックな3D作品ももっと増えてほしいが。PIXERにできないこともまだまだ多いはずだ)。そんな環境だからこそ岸監督は3Dに回帰し、さらに「楽園追放」のスタッフが再集結することは必然だったのではとさえ感じる。

「ゴルゴ13」で3Dがアニメに初めて使われて41年。ポケモン映画「幻のポケモン ルギア爆誕」のジラルダンの飛行宮が3Dで描かれて25年。この頃の3Dはテクスチャやシェーディングの問題で浮いたものだったが、今では2Dとタメを張る存在へと進化を遂げた。機は熟した。「楽園追放 心のレゾナンス」は、3Dの歴史と進化を感じさせる映画になる、さらに言えば「いつやるの、今でしょ」という林修先生の名言のようなタイムリーな映画になるはずだ。

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