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ブラスバンド・ニュースを読む -その1

 イギリスのサルフォード大学の「インターネット図書館」の「アーカイブと特別コレクション」では、1881年に創刊されたブラスバンド・ニュースを閲覧することができます。


 ここで言う「ブラスバンド」は金管楽器と打楽器で編成された、いわゆる「金管バンド」のことです。

ブラスバンド・ニュース(Brass Band News)

 「ブラスバンド・ニュース」はおよそ140年前、日本なら明治17年(1881)に創刊され1958年までの77年間にわたりライト・アンド・ラウンド社(Wright and Round)が発行してきたブラスバンドに関する月刊新聞です。通算900号を越えての発行ですが、その内の834号がサルフォード大学ブラスバンドアーカイブで閲覧することができます。

ライト・アンド・ラウンド社 (Wright & Round)

 ライト・アンド・ラウンド社は1875年に事業家のトーマス・ライト(Thomas Wright)と音楽家のヘンリー・ラウンド(Henry Round)がイギリスのリバプール(Liverpool)で創業しました。ブラスバンド譜を出版する最も古い会社の1つです。現在のライト・アンド・ラウンド社のカタログには5,000曲以上が掲載されています。ちなみに現在の音楽編集者は、作曲家で指揮者のフィリップ・ハーパー(Philip Harper)*1氏です。

ブラスバンド・ニュースの内容

 ブラスバンド・ニュースにはブラスバンドの知識などに関する記事、英国各地域のブラスバンド活動に関するレポート、そしてコンテスト開催広告やコンテストの結果、売ります買います情報、楽譜広告などが掲載されています。
 77年間という時間経過をサルフォード大学ブラスバンドアーカイブで概観することができるので、個々のバンド、楽器、用具、楽譜の変遷などの歴史をたどることもできます。つまり、単なるブラスバンドに関する事柄に留まらず、19 世紀から 20 世紀の社会、文化等に役立つ情報源ともなるということです。産業革命からの金管楽器の発達とブラスバンドの登場、そして19世紀後半からの労働者の娯楽の一形態として、地元企業によって組織され、資金提供されたブラスバンドの普及と発展の様子も知ることができます。炭鉱や工場などの地元産業の様子、公共の公園や公演会場などの多くの町や都市が提供する場所、楽器やバンドのユニフォームのイラスト、著名なバンドマンの肖像写真などが77年の記録として見ることができます。

購読料金

 想定している読者居住地はイギリス、イギリス植民地、そしてアメリカ合衆国で、毎月第1土曜日に発行されました。創刊号で示された購読料金は前払い年間購読料が2シリング6ペンス各月3ペンス各号郵送料3.5ペンス現在価格に換算すると、年間購読料8.27ポンド(1380円)、各月0.83ポンド(138円)、郵送料1.245ポンド(207円)です。 

ちなみに1971年以前のイギリス貨幣単位は10進法ではありませんでした。

  • 1シリング(1s)は 12ペンス(12d)

  • 1ポンド(£1)は 20シリング(20s)

  • 1ポンドは240ペンス

広告料金

 ブラスバンド・ニュースは、アマチュアバンド関係者を読者に想定した新聞なので「バンドコンテスト、金管楽器メーカー、音楽業界全般、ユニフォームや備品」等の業者にとって最高の広告媒体となる、とライト・アンド・ラウンド社は広告主を募集しています。 

1回の広告料金          (   )内は およその現在の価値

  • 3 行以内 [1行あたり平均 9 語] 1 シリング6ペンス(4.96ポンド 826円)

  • 5行以内 [1行あたり平均 9 語] 2 シリング   (6.62ポンド 1,103円)

  • 7行以内 [1行あたり平均 9 語] 3シリング   (9.93ポンド 1,654円)

囲み広告料金           (   )内は およその現在の価値

  • 3ヶ月継続契約・・ 1インチあたり 2 シリング (6.62ポンド 1,103 円)

  • 6ヶ月継続契約・・ 1インチあたり 1シリング (3.31ポンド 552円)

  • 12ヶ月継続契約・・1インチあたり 1シリング (3.31ポンド 552円)

  • 1回のみの場合・・1インチあたり 3シリング (9.93 ポンド 1,654円) 

ブラスバンド・アーカイブ(Brass Band Archive)

 ロイ・ニューサム*2が設立したブラスバンド・アーカイブ(Roy Newsome Brass Band Archive)の設立は1990年代半ばで、様々な資料はニューサム博士自身や、当時サルフォード工科大学でバンド研究を教えていた他のスタッフなど、さまざまな情報源から資料が収集されました。
ブラスバンド・ニュース(Brass Bnad News)」「救世軍チューンブック(Salvation Srmy Tune Book)」「The British Bandsman」「The Salvation Army Brass Band Journal」「Chappell’s Brass and Reed Band Journal」「The “Cornet” Brass (and Military) Band Journal」「Brass Band Journal-R.Smith and Co. Ltd, London」等が所蔵されています。

 ちなみにアーカイブのBrass Band News は、1991 年に Wright and Round社からサルフォード大学に贈呈されたものです。1881 年 10 月の最初のものからほぼ最後のものまで、ほとんどが数年の版からなるセットで製本されていますがコレクションには、1919 年から 1922 年および 1935 年などに欠けている部分があります。



*1 フィリップ・ハーパー(Philip Harper )氏は1996年から1998年まで埼玉県で外国語指導助手(ALT)を務めながら日本のブラスバンド等と共演しました。この間に「Panoply」(鎧兜)で1997年の下谷賞佳作を受賞。  
*2 ロイ・ニューサム(Roy Newsome 1930-2011)は、英国の指揮者、作曲家、編曲家、音楽教育者。
*3 それ以前にも第1次フランス軍事顧問団喇叭教官L.ギュティッグ氏らの指導により喇叭鼓隊が設立されていましたが、1870年よりフェントン氏の指導による英国製管楽器を使用した薩摩藩洋楽伝習生の吹奏楽演奏が行われました。






               writer Hiraide Hisashi

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